Ayakashd

ザ・クラウン シーズン3のAyakashdのレビュー・感想・評価

ザ・クラウン シーズン3(2018年製作のドラマ)
4.5
つくづくいいドラマだ。英国名優たちの、まさに競演。もう、みんな巧すぎて、ちょっと怯むくらいだ。細く美しく光る、ありとあらゆる色の糸が、信じられないくらい秩序立って織り込まれながら、一つの大絵巻物を紡ぐ。溜息だよねぇ、もう。

このシーズンのフィリップとエリザベスの関係がとても好きだった。若かりしころのフィリップはもっと自己顕示欲に振り回されていたけど、このフィリップは、前作からは想像できなかったくらい好ましかった。シーズン2までに彼らが乗り越えた結婚や王位の困難を思えば、このシーズンの2人に、フランスから戻ったエリザベスにフィリップがする口づけに、涙を禁じ得ない。宇宙飛行士のくだりのフィリップは、昔のフィリップをふと思い出すようなところがあって、ちょっと切なくて、少し笑った。

マーガレットとトニー。トニーのあの、麻薬的な魅力ってすごいよね、王太后があんなに褒めそやすなんて、あのバッドボーイを。スピリットは王室の反逆児でありながら、公の場で見せる完璧な振る舞いたるや。炭鉱の事故のシーンも感動した。市民としては、あのトニーを嫌いになるのは難しいよね。そしてマーガレットとの戦争たる結婚生活よ!悪い男だなぁと思いながらも憎めなくて、観てる方もマーガレットとの間で引き裂かれるよ。離婚しちゃうんだよね。かなしいなぁ。傷つけ合うことが愛だった2人。

ヘレナのマーガレットも良かった!背の高いヴァネッサとは、見た目的な連続性はそこまでなかったけど、あの尊大で、ウイットに富んだ、バッドアス王女ぶり。本人をあまり知らないけど、2人ともマーガレットのエッセンスを見事に体現してるんだろうな。最後の、オリヴィアとヘレナの2人のシーンはもう、もう巧すぎて巧すぎて。名場面だよなぁあれは。英国史上に残るであろう。

オリヴィアも最高に巧かった。逡巡や停滞を微妙に表現しながら、ヒース首相に見せる威厳や、チャールズに見せる母であり王であるものの厳格さ。フィリップに見せる少女めいた優しさ。いやまーほんとにまー。この人、元教師なんでしょ?まじすげーよな。なんか王室から賞もらってたけど、そりゃそーだ。

個人的にこのシーズンの推しキャラはハロルド・ウィルソン。出てきた瞬間から、好きだな!と思ってたけど、エリザベスにとっても好ましい友人だったってことなんだね。労働党でありながら、インテリで、モナキスト、というか君主制擁護派だったんだよね。賢くて控えめで、率直で、ポンド切り下げは後世からどう振り返られてるか知らないけど、英断だったのではないか。もう出てこないのかーと思ってたら、ラストまた出てきて嬉しかった。悲しい話だったけど。

そしてジョシュ・オコナーね!!チャールズ皇太子嫌いなんだけど、なんかこれ見ると憎めなくなるよねーーー。ほんとにこんなふうに繊細で感じやすい青年だったのなら。あの表情!表情よ。子供っぽさ、純真さ、素直さ、微かな野心、秘めた尊大さ。素晴らしいキャラクター造形だよ。素晴らしい演技だった。

しっかしアン王女最高ですね。あの女優さん、初めて見たかなぁ?いやもう最高でしょう!!実際の人柄にきっと近いんだろうけど、"I’m not confident. I’m just tough.”には惚れたね。またあの言いっぷり。潔くて、端的で、挑戦的で、かつ人を不快にさせない、類稀な皮肉屋!フィリップの女性版なのかもね、たしかに。

マウントバッテン卿(aka タイウィン・ラニスターw)は急にキャラ強くなったよね。この人、映画やドラマ、ときどきよって全然見え方が違うっつーか、賛否両論な人物だったのかなぁと思う。インドパキスタン独立の映画では相当苦悩した良い人みたいに描かれてるけど、ザ・クラウンではなかなか曲者扱いだよね。さすがタイウィンw

いっやーこれもう、この主要キャラクターの充実ぶりよ。全員、素晴らしく作り込まれたキャラを、最高に巧く演じてるからもう、非のうちどころなし。

英国の20世紀後半の歴史絵巻としても大変勉強になりました。王室の歴史として見せながらも、炭鉱の事故や、ストライキを丁寧に見せるあたり、この国の市民の歴史も遠景ながらきちんと踏まえられていてとても好ましかった。さすがだ。
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