クリストフォルー

総理と呼ばないでのクリストフォルーのレビュー・感想・評価

総理と呼ばないで(1997年製作のドラマ)
4.0
TBSの『パパはニュースキャスター』は、田村正和のキャラクターを、初めてコメディに活かしたドラマだった。田村正和はこんなにおもしろい役・演技が出来るんだと、ファンならずとも驚いたはずだ。
ついで、CXの『古畑任三郎』シリーズで、彼のコミカルさは大きな武器であることが知れわたった。
そして、とうとう、田村正和をスクリューボールコメディの世界に組み込んだ連続ドラマが生まれた。同じ三谷幸喜脚本の『王様のレストラン』に似ているが、個々のキャラクターの成長やレストランの成功のようなポジティブな要素を廃して、ひたすら、登場人物たちの巻き起こす“コップの中の嵐”を面白おかしく、かつシニカルに描くことに徹していた。

為政者というと、日本人は、例えば「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ 」のような高潔で公明正大な人物を望むのだろうが、それは、たとえキムタクが演じても嘘くさくなってしまう。かといって、「ブッシュ」や「バイス」のような悪の典型には、とうてい描けないだろう。

1話目の最後に、首席秘書官(西村まさ彦)が「なんて小さい夢なんだ」とつぶやくが、日本人が描くべき理想の為政者は、本作の“総理”のように、大きな夢(野心)など持たず、日本のために何もしない/しようと望まない人物なんだと、いまになって、改めて思う。日本を無理やり変えたり、時代とともに社会が変わってゆくことを邪魔したりせず、何もしなかったことさえ忘れ去られるくらいが、きっといいんだ。
このドラマも、観ているあいだは只々笑えて、あとはキレイに忘れてしまえる。ほんとのコメディって、こういうのだと思うよ。

このドラマ、放映当時、あんなに大化けするとは予想だにされてなかった『踊る大捜査線』の次のクールの放送だったことで、視聴者の期待はずれ感は強かったようだが、いま観返すと、故オヒョイ(藤村俊二)さんと小松政夫さんが喜劇人の真骨頂をみせているし、ウルトラ嬉しい二瓶正也の登場に戸田恵子(それと郷田ほづみ)の連ドラデビュー。他のレギュラー陣も芝居巧者揃い。そして、ツルタマ(鶴田真由)のメイド姿は、当時でも眼福だった。喜劇ドラマとしては、これ以上ない、まさしく贅を尽くしたという感じだ。何より、いまでも面白さが褪せないのは、全員参加型の喜劇でありながら、キーマン・田村正和が、きちんと最後をさらってくれるからだ。
いまさらだが、田村正和の悪役も見てみたかったな。
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