ひば

ゲーム・オブ・スローンズ 最終章のひばのレビュー・感想・評価

5.0
ゲースロとアベンジャーズ兼業は死の定め。4月からなんとか理性を保っている人間が崩れ落ちていき微かに人の形を留めた様をSNSで見ていた人はさぞ愉快だったと思う。そういうわけでここ1ヶ月特に日曜は本当に体調が悪かった。見る度5歳老ける。最終的に30歳老けた。このドラマをクソの頂上決戦、わくわく拷問ランド、畜生コロシアムと呼んでいたが最近は見る苦行に尽きた。私は昔から男が愛する女のために自分が正義を背負って勝手に満足して死んでく展開が嫌いだった。しかしこのドラマは誰もが未練や恐怖、理解が追い付かないまま"苦"を残して死んでいく、だから嫌いなんだと言い訳もできずにただ心が削られる。製作陣は視聴者の絶望を無二の喜びとして啜り生きるケダモノなのでこの世が生み出した罪だ、一体わたしが何したっていうんだ。ゲースロはわたしに殺生こそ全てと教えてくれた。愛情では勝てない。時代は死、殺意と共に生きるのだ。
とはいえだ、前提としてあの世界の価値観をこの世界を照らし合わせジャッジするというのは無理だ。特にこのドラマは男尊女卑が顕著で、女として生まれると人生マイナススタートだ。働く女性は娼婦ばかり、あんまり噛み付くと長くなるので省略するが女性にとっての男性像が、『自分を暴力で傷付ける』or『自分を暴力で傷付けない』のほぼ二択なあたりとにかくゴミゴミのゴミ太郎なのだ。それ以外にもとにかく斬首斬首嫌な奴は斬首かドラカリス。S1から首切っておわり!でお馴染みのドラマだ、ひでえドラマなんだ。とにかくこのドラマは私をめちゃくちゃにした。もう心は折れる部分がなくなったと思う度に、新たなエピソードを見て私の心にはまだ軟弱な部分があったのかと絶望するくらいだ。
今シーズンもそうだがそんな中でもS8ep4のジョンの演説はとても心にしみた。他の者を救うために自らを犠牲にした彼らに、生き残った我々は借りを返すことはできない、彼らのような勇者には二度と会えない、彼らの偉業を語り継がねばならない。彼らは人の領域を守る盾であった、と。良い言葉だ。以前戦争のドキュメンタリーで、国の資産というものは『人間』『大地』『歴史』だという話をしていて、今ならその『歴史(物語)』を意味するブランを皆が命がけで守った理由がよくわかる。勿論その物語化による気持ちよさは多くの感情を消化してしまうので賛辞だけではないという意味でも。
この世界もついに大いなる一歩を踏み出す。問題にできる限り対話で向き合いましょう、生きて償いましょう、強大な力は支配に用いず共有分担しましょうと様々なルートができた。自分がいつでも殴る側だと思ってる人間ほど殴られないと思ってる、人生において憎しみや悲しみは消えないがその不条理を他人に味あわせることで消せるものなど何もないので、せめてそれらを生み出さない努力は全員がすべきだ。ゲースロの話だけじゃなく現実もそうだが。継承権あれこれについての、心のどこかでは納得してないけどなるべく最善なものを捻りだそうとしており、だからといってそれが最良かと言われると不明というのがぽくて良い回答だと私は思う。血統主義の時代、王家に生まれた人間としての宿命を背負わねばならなかった。その括りの中で必死に生き抜いた人たちが血を血で流す争いを経てようやく一歩進んだ。そしてゆくゆくはきっとそれがなくなる予感がした、血筋は途絶え、長い年月をかけ七(六)王国は共和制になるのだろう、あまりに遠い道のりだが、きっといつか。



シオングレイジョイ。
嫌いだった。私はロブが好きだった、だから何故こいつが生きててロブが死ななければならないのかとあの時思った。複雑な家庭環境で育ったことには同情するが、自分より他人が劣っていることを口に出さずにいられない、女性の扱いだって自分をたててくれる女性しか周りにいなかったことがよくわかる、そんな奴は大抵くそやろうだ。農家の子供を殺したくせに、一刻も早く弔ってやろうとしたり、その親にせめてお金を送ろうとしたり。なんなんだこいつは。シオングレイジョイは誰しもが抱える目を背けたい部分を凝縮したキャラクターだった。だから見ているうちにシオンと一緒に私は自分の人生を見つめていた。そしていつの間にシオンを肯定していた。シオンの生み出すマイナスを吸収してプラスに変えていた。しかしシオンが宿命を全うした時彼自体がプラスになり、シオンは離れていった。S1を見返せばロブが「お前の家じゃない」と彼に言ったときからもう止まれない道を歩いていたことに気付く。良い生活を送ってるもんだと思っていたけどよく注目して見ればそこにはやはり家族の輪に入れてもらえなかった男がいた。だけどブランに「ずっと恨んでいたの?」と言われたときの顔を見ればシオンの心はどこにあったのかなどとはすぐ想像できてしまう。シオンは愚かな行いをしたが、シオンが愚かだと思ったことはない。人は正しいことをしなくたって生きていてもいい。要するに臆病なままで恐怖や向き合わねばならぬことから逃げ出してそれを生涯引きずってでも生きてほしかったのだ。
経験がないまま権力を握るシオン/ジョフリーの対比は、自分の蛮行が跳ね返ったとき自分を省みたシオンと抑圧の道を選んだジョフリーの違いにある。S2での愚かな蛮行してるときがグレイジョイに居場所見つけて一番心の葛藤なくて解放的だったんだろうな。サンサもそうだったが色に染まろうとすればするほど視野が狭まって愚直な世間知らずになってしまう。
シオンを思い出す度必ず思い出すのがサンサだ。だけどシオンはあまりにサンサに釣り合わない男だと思った。彼らの運命は、王子様を夢見て尊厳を奪われた王女が尊厳を奪われた王子に救われる、という物語で始まる。とはいえシオンは王子様には程遠い男だった。あまりに無礼な言動をはじめ、女性を軽んじる態度やグレイジョイ家の風習などから女は男のもの云々を適当に学び、わたしを妻に~なども言われ調子にのりそれなりによくないこともしてきたのに、目の前でサンサが同じ目にあって絶望するなどと、勝手な男。勝手な男だった。サンサにとってシオンは王子様ではなかったが彼女には彼しかいなかった。あの時代あの国で、女性にとって男性は自分に幸せと安寧をもたらすものだ。しかしサンサの周りの男は、兄は突然違う女王を連れ帰り弟はよくわからない者になってしまい、その他彼女より自分の状況を守るのを優先する男ならまだしも、支配欲を振り回し暴力を加え協力の代償として下心をちらつかせる人間しかおらず、そんななかで自分のために命をかけその上こちらに何も望んでくることはない男がサンサにとってはこれ以上ない光であり、そしてそれは紛れもなくシオンだった。別れたときも再会したときもまた別れたときもその表情はシオンにしか見せないものだった。シオンを家族と思っていても家にも王にも実質継承権はないという意味でも無害極まりないところもあるだろう。シオンが女の子だったらなおさらだ。しかし彼は兄であり、異国の男であり、唯一無二の理解者であり、女王の体裁より感情を優先し心を明け渡した存在であり、最後に一緒にいたいと思った相手だった、大好きだったんだよ。そしてそれを世間では王子様だと言うんだよ。あんな最悪な再会をして、「シオンが消えて良かった、お前がいなければ私には家族がいた、ラムジーと同じようにお前を痛め付けることができたらよかった」と言われ掴みかかられ殺す勢いで「お前の兄弟をお前が殺して何故お前は生きてる?」と言われたことだってあった。家族同然の相手の殺人行為を咎め相手の生を咎めるというおぞましい言葉ですよ。私はサンサの変化が怖かった。弟のリコンを見限りラムジーを食わせ笑ったり対リトルフィンガーで周到に用意して表情が動かなかったりジョンに隠し事をしたりデナーリスに冷ややかだったりとサンサが他人を殺めることや感情をすすんで殺していることに対してかなり危機感あった。シオンならなんとかしてくれるかもと心のどこかで思っていた。そしてシオンの帰還はあっという間にその2つを同時に消滅させた。自分を一時でも見捨てた相手に一時憎悪を抱いていても前線には行かせたくないし死んでほしくないし側にいれば表情は緩むしいなくなれば涙も流した。掴みかかり酷い言葉を吐いたのに、最終的にブランを守って死んだ彼に、何故死んでしまったのと悔やまれるんだよ。ミランダを転落死させた後に飛び降りを決意したことや、ラムジーに指を切り落とされても残りの指でサンサを掴んで離さなかったことが、シオンの選んだ"抵抗"がサンサの希望となった。しかしシオンはあのとき、シオンを殺した存在リークが死んだとき、微かな矜持や善良な心を持ったシオンを取り戻しただけでなく、恐らくラムジーの支配下では一種のゾーンとして偏執的に保護され根を張り逃れられたのではないかと思われる罪も戻り背負わなければならなくなった。グレイジョイの格好をしたシオンにスタークのピンが挿されたとき、ようやく君の人生は君の望むように完結したとこっちも泣いてしまった。シオンがほんとうに求めるものをわかっていても与えることができないとわかっていて、それでもあの二人が最後に一緒に過ごしたのが素敵だなと思っていたけど、最後にサンサの手からそれは与えられた。泣きながらシオンの身に擦り寄り、キスを送るのではなく彼が求め続けた家と名誉の証を送ったサンサ。シオンにとってサンサは心の芯で、サンサにとってシオンは心のやわいとこに相当し、それがたまに逆転するところも含め儚いが強く、切なくてとても美しかった。シオンに何度も呼びかけ救ったのはサンサだ。彼女を前に『君を守る』だなんて言葉は口が裂けても言えないだろう、だから命を差し出し何度も『君のためなら死んでもよい』という意志を伝えてきた。人権を剥奪され、自分を見失う前に死ぬと言ったサンサがシオンの手をとり、本当の自分を見つけた二人が生き残った。雪が降る世界の片隅で身を寄せ合った二人が築いたものは深くお互いの心を解すものだった。昨日今日で会った人間に押し付け去っていった彼を彼女はずっと待っていた。そして彼女の元に戻り彼が背中に手を回したとき、シオンにとってサンサはもはや罪悪感の象徴ではなくなった。シオンは自殺願望しかなく愛情を返す方法を『命を捧げる』以外知らないのであれば、あの夜は誰かと過ごすのではなくあの戦闘準備の最前線にいたのではないか、だからサンサと共に生きる行為である食事をして過ごしていた時点で彼も色々思うことがあったのだろう。一緒に逃げて故郷に戻っても女性にも男性にも近付かない、目は見開いたままなときもあり集団も居心地悪そうだったが彼女といた時の彼は眉間にしわもなく安らかに見えた。彼女はあまりに後ろめたいスタークだというのに。女性への軽視やもはやすべての女性は手中にみたいな人間だったくせに、なんてことだ、側に置いてと乞いワンテンポ遅く背中に手を回したり見つめられると途中目をそらしてしまったりすべてがいじらしく見えてしまった。ああなんてことだ。特定の個人に対する執着だとか愛情が優先順位を覆すことをあの世界ではとても危険なこととして描かれていた、だからシオンとサンサは最終的には対立するのだろうと。もっとシオンが保守的であればサンサはデナーリスの下にいたティリオンに対してのように少し冷たい態度になり最終的に見限り男性からの独立という滑らかな展開にも出来たのにそうはしなかったことによってシオンとサンサの人間らしさがより際立ったまま終わりを迎えるのにまんまと転がされ今もわたしは苦しんでる。彼は帰ってくる男だった。あんだけ自尊心や尊厳を削ぎ落とされても自分に価値を見出だす言葉が出てくる男。自分が足手まといだと思ってたら来ないので…サンサの「あなたなしでは無理」って言葉に「できるよ」って返したのに、あなたの側にいる、あなたと共にあるとはるばる命かけて宣言しに来る男。公的な立場といった名目で来たけど多分反射で私的な感情をちらつかせながらもそれは下心ではなく確実に二人の関係の核心をついてくるシオン、いいとこどり過ぎる。今までの軌跡とか人間関係含め現状況の厳しさとか二人の再会のために二人の世界を構築した舞台とか揺るぎない信頼とか希望とか政治や世界の終わりなんか放り投げてなによりも深い愛情を相手に寄せることを製作陣も祝福してることとか本当に後から色々後から色々くるものがあった。特定の個人に対する執着だとか愛情が優先順位を覆すのあの世界ではとても危険なこととして描かれていた一方で、この二人にとっては祝福されるべきものとして描かれてたのはサービスかもしれないし、せめてもの祈りのようなものなのかもしれない。シオンがしでかした事はとても許されることではないし、いくら時代がああだからといっても近しい人が傷つけられたら怒るのは普遍なので、すべてを肯定するラインに限りなく近付く漸近線みたいな構築はとても大変だったと思う。償いきれない罪というのはやはりこの世にもある。スターク家がそれぞれ帰結してく場所を考えるとあの人たちの芯は特定の人物も含め人という存在には宿ってないという印象だが、シオンはコンパス/心の拠り所として人への思いで動いてた印象がありそれはやっぱりスタークとしては浮いていてだが誰よりも共感できる。いつも正しいジョンや武力を持たずも高潔なサンサ、すすんで囮になるブランが国や世界のためにあろうとするが為出てくる輝かしい言動がシオンには眩しすぎたのだろうし、そこにスタークになれない諦めみたいなもんがあったんだろうな。自尊心が育つ隙もなさそうで。とはいえ世界が終わる夜には貴方と一緒にいたいをこちらは見せられたのでそういう意思方向や価値観のズレとかはまぁ特に言及するほどのことではないのかもしれない。バイタリティーがやべえなと思うのは二人にとって悪夢の地であったウィンターフェルでラムジーに支配された恐怖ではなく二人に育まれた愛を忘れないように再確認してしまうのはすごいよ、ラムジーを当て馬にした二人よ。彼に対する最大限の侮辱で笑ってしまうしほんとうにその愛は強いものだったのだ。二人の再会はS6ep2→S8ep2へジャンプすることと同じなのでいざそう見ると、二人の気持ちがいかに変わったか変わってないかに動揺してしまう。ほんとうに?これほど経つのに?これほどまでの『You have me』『I have you』の関係性の強さに勝るものがいったいどこにある?サンサ、お酒を飲まねばやってられない時だってあったじゃないか、どうしてあなたは世界が終わる夜に彼と向き合ってスープを飲んでるの。私には、過去を償うために生きてきた男性と今を生きるため氷の鎧を纏った女性が過ごした世界が終わる穏やかな夜には、確かに未来が見えたのだ。この二人はよくわからないが"何か"があるように思えるという感想を見て、そう思わせることが製作陣にとって一番の大成功という感じがする。よくわからないがたくさんの可能性があってその中に親愛や恋愛や戦友やそれはそれは膨大な感情が入ってる。ビッグ感情の中に恋愛が入ってる可能性もあると感じるのは、ジョフリーやロラスを見てるときと同じような表情をしているなぁと思ったから。あの頃みたいにたった一時でもいいから誰かに心を寄せて顔を綻ばせるサンサが私は好きだった。相手のアクションを待ったり、意見は持っていても素直に言うことを聞きたくなる、そんな風に受け身がちになるところも。シオンについては…後でブランに個人的に謝りに来たジェイミーみたいにはできなかったんですか?主君の前で言ってしまうなんてあなたちょっとおかしいわよ。それにおまえ…If you'll have meってプロポーズの決まり文句じゃないか…ジョラーがデナーリスに、ジェイミーがブライエニーに言った言葉だぞ…なのにどいつもこいつも言うだけ言って死んだ!ずるい男たちだ。S8メンツの中でサンサが個人に憎悪を向けた相手はシオンくらいだと思う。サンサがジョンに酷い態度をとってたこと謝りたいと思ってたって言ってたけど、同じような立場にあったシオンにも同じような態度をとってたと思うけど謝りたいとは思ってなかったんじゃないかなとぼんやりと考えてた。S5でぶちギレてるとき、「あんたがいなければ家族がいた」と「あんたが殺したブランとリコンは弟じゃなかったわけ?」発言に加えて今なぶり殺されそうとしている自分は妹じゃなかったわけ?とは言わないから、完全にサンサ単体にとってシオンは赤の他人で線引きされててギリギリまで憎んでたのかなって。それでもシオンがいいって言うのだから世の中どう転がるかわからないもんだ。サンサは再会するまでシオンのシの字も出さなかったし、サンサに値する人間は他にもいたはず。でもシオンがいいって言うから、いや言う機会は何回もあったのに結局最後までサンサの口から「私と一緒にいて」とは聞けなかったな。シオンはサンサのこと気にかけてたけどもそれでもサンサの方が強くシオンのこと思ってるよう感じられたけど、けどジョラーとジェイミーと同じ神台詞「if you'll have me」を言ってるとなるとこっちも本当に!?となるでしょそりゃ。シオンとサンサって、『お前は私を助けるべき借りは返すべき』っていうなんというか義務取引みたいな関係の形を維持したまま『あなたが受け入れてくれるなら借りを返します』という最終的にはギブアンドテイクを包含した無償の愛を意味するとこがすごい。ロブを裏切って以来心が安らぐ瞬間なんか一度もなかったろうに、ラムジーから逃れても肌に合わない鉄諸島の波にもまれ酒飲まされなんてこともあったけど、誰に強制されるでもなくシオンがあのサンサとご飯食べる程の平穏を、自分のパーソナルスペースに入れる程の人間関係を築けてしまうのかと。思い思いに誰かとの再会を喜んで寄り道したりしながら人生最後の日はここにいます!と決めたりしてる中、シオンとサンサはお互い一直線ですかそうですかとなったのでお互いなんかがあったんだよ、苦痛の共有以上のものが。ジョラーもシオンも自分の守りたかった人に見送ってもらって良かったねってコメントあまりに心にきてしまった。誰かの為にあることに生きる目的を見出だして、かつその思いが相手に届いており魂が離れてもその人が愛情と共に最後まで寄り添ってくれるって確かにあの世界じゃ稀少だった。そんなことがなければ、普通の人生があったら、なんの苦しみも迷いもなく相手と共にあったかもという幻想みたいな一瞬。『許されないし許されたくない』『でもせめて君に償いたかった』という会話を経て、最後の夜にどんな話をして、どんな別れ方をしたのかと考えてしまう。想像の余地を残したと同時に、二人に起きたことは二人しか知らず、これからそれを知ることも理解できる人間はいないのだという秘密のベールに覆われたような。 
S6でシオンがサンサの囮になろうとしたとき、「I won't make it without you.」「You will.」と会話したことをたまに思い出す。そうか、あれは背中を押し女の子の一人立ちをあまりに優しく見送った男だったんだなと。ジョンは守ってくれるけどそれは金庫に入れるような庇護で、シオンは求められたら後押しする尊重だから表舞台から蔑ろにされてたサンサの気持ちがどっちに寄るかはよくわかる。美しいだとか愛しているだとかそういうテンプレの台詞を使うのはいつも丸め込もうとしてくる奴ばかりで裏切られ続けられ信用ならない何も響かないからこそ『君はちゃんとやっていける』というシオンの後押しが一体どれだけサンサを救ったことだろう。シオンにはサンサの政治的な先見の明は見えてなかったかもしれないけど、嫁ぐことを前提とした若さや美貌ラベルだけが大事と思われる時代の中、ボロボロの見かけでも忍耐や勇気や賢さを携えているのをしっかり見てくれていたわけで、『君は大丈夫だ』と言ってくれる人の存在たるや言葉では表せないほどだ。サンサを小鳥から北の女王にしたのはリトルフィンガーでもラムジーでもない。抗うことを諦めなかったサンサ自身と手を引いてくれたのがシオンだったからだよ。シオンとサンサは虐げられた者同士、あのまま二人でいたら一生どこまでも逃げ続けてたのかなと思う。サンサはジョンに会えてよかったね。ジョンも弱い立場にあったけど抗い方を教えてくれた。復讐のチャンスをくれた。だからベイリッシュも葬れた。それを経て、それでもやはりサンサはシオンがいいというのだから。公的な立場といった名目で来たけど多分反射で私的な感情をちらつかせながらもそれは下心ではなく確実に二人の関係の核心をついてくるシオン。だけどこうも思う。本当にその人でいいの?その人は捧げてくれる人だけど与えてくれる人ではないよ、と私は思うのに、サンサはそれだけで構わないという顔をする。だから私は何も言えなくなってしまう。ジェイミーとブライエニーについては、道を外れた男に対して女がトロフィーやラブによるケア要員となる要素にかすった件にはムムッとなるけど、直後にジェイミーはサーセイのそれに当てはまるわけで、その辺が無情だし人一人に対しての許容量の狭量さ?が嫌いじゃないです。ケア要員問題、シオンとサンサもけっこうその道に沿いがちだったけど、例えばS6ep2でサンサがシオンの為に国を捨てたり、シオンの中でサンサに対する情が罪悪感より愛情が勝っていたらもしかしたらトロフィー疑ってムムッとなってたかも。なんかあの二人はその辺の回避がうまかった。S6ep2のシオンとサンサの別れはお互いホワイトウォーカーなんて知らんし政治でこれから敵同士になるかもしれないしここで別れたら一生会えないかもという喉にまでこみ上がってくる切迫感と惜別があるのに何も納得いかないまま"ちゃんとしたお別れ"をするのがあまりに心にきた、なんで???ってなった。シオンのそうやって優しさの裏では人を都合のいいときに贖罪の対象にしてさぁ、みたいな部分が読み取れるじゃんわかってるよいっばいいっぱいなのは、だからサンサもなんも言えないんじゃん…側にいてほしいのに…あんな死にそうでも自分じゃなくてラムジーで、そこから抜け出してもシオンは自分じゃなくてグレイジョイを選ぶわけだからいつも最後まで自分を選んではくれないシオンをそれでもずっと思っていたんだから。遠くから見るとシオンの高望みのように見えるのに、近くで見るとサンサの高望みのように映るのだ。いつもシオンを止めることはできず、何も返せず泣きそうな表情をするサンサをずっと私は見てきた。彼女はありがとうもさよならもあなたは家族だとも言えなかった。最後に彼を前にした彼女は、よく頑張ったねの表情じゃない、後悔と喪失の顔だった。あんな形で伝えたかったはずがない。シオンが『こんなことを言うのは許されないとわかってるけど、君に知っていてほしくて』という体でサンサにもジョンにもブランにも自分の気持ちを打ち明けられるようになったのは大きな前進だ。許されない人生を歩もうとしてるけど、自分の存在を消し去ろうとはしてなくてまだ何かが生きていた。ジョンもブランもお前は家族でここは君の家って言ってくれたけどそういう意味では、『伝わってる』『伝わってない』ではなく『伝えられる』『伝えられない』という領域では対極にサンサがいたので、そんな二人の関係性は変わっていた。あんなピンで伝えたかったはずがない。自分のなかに抱えてる感情と相手へ向ける感情のバランスにリスクを感じていたのかもしれない、あともう少しなのに言えない、シオンの中では一旦バラバラになったものを積み立てるだけだけど、サンサは言っちゃったら何か壊れちゃうような気がするもの。シオンとサンサは言葉が多すぎるとすれ違ってしまうんだろうな~サンサ周りは言葉を巧みに操る人間が多くて、彼女が武力を持たぬ者として言葉に秀でても利他に捧げるシオンとのキャッチボールは難しい。でもそれは奥底の損得抜きの感情を唯一持って透き通っているから言わなくてもわかる関係でもある。だけどいつも君はサンサを泣かせてばかり。自分の話だけど、セーターが脱水できてなくて2日経っても乾かなくて冷たいままで、厳寒の地の川に飛び込んで熱を奪われるサンサのこと、厳寒の地で育ちながらシオンを思ってあの場所で涙を流すことの意味を思って三重に泣いた。『あなたと生きていたい』から氷の川を渡り、涙も凍っちゃうような地で『あなたと生きていたい』と目にため、『あなたと生きていたかった』と一人涙を流したサンサ。君の命と引き換えに欲しかったものなどあっただろうか。ティリオン、シオンに「スタークの子供を殺した報いは受けたの?でもまだ生きてるよね」ってボコボコにしてたけど、シオンにすがって泣いてたサンサ見てどう思ったのかしらね。遠い過去の話かもしれませんが。サンサは亡くなった家族と共に、最後に彼が守った地である神々の森、ウィアウッドの葉の模様が繕われた服を纏い生きていく。そのしたたかで美しい佇まいである女王の陰に、内側にひっそり刺繍されたウィアウッドの葉のように、相手のほとんどを理解していながら「stay with me」と言えなかった少女を私は見出してしまうのだ。そしていつの日かサンサはシオンの年を追い抜く。
S1ep1の宴会シーンを見直すと、ジョフリーにうっとりしてるサンサの対面には実はシオンが座り笑っていることに気付く。探しものは目の前にあるのに、なんでこうもうまくいかないんだろう。
シオンはスタークに寄り添いたいなら受け入れられたいならスターク寄りの格好をすればよいものをグレイジョイの格好をして来たのは姉との約束でありロブとの守れなかった約束というけじめなのだろうなと思う。ゲースロは逃げ場のない血縁の話で、サンサがグレイジョイの紋章の上にスタークのピンを差したのは、あのドレスの裏地は、『それでもあなたは私の家族だった』という譲れない主張であったようにも感じた。グレイジョイを認めたわけじゃなく、シオングレイジョイという個人を愛していた。サンサはどんなにボロボロになっても必要なとき、必要とされたときは必ず顔をあげて上に立つ者の風貌になる高潔さがあった。ブライエニーを受け入れたとき、ここから顔上げて民を守るという責任を果たしにいく。つまりサンサに必要なのは自分を必要とする民でそれはグレイジョイの男シオンは当てはまらない。サンサスタークに王子様は必要ない。もう二人の道は既に決まっていたのかもしれない。
けれどあの美しい夜をきっと彼女は忘れないだろう。シオンは与えてくれる人ではなかった。サンサもそうではないと彼の言葉だけを訂正することしかできなかった。二人とも遅すぎたのかもしれない。だけどそれでも最後に一緒にいたかったあの夜はお互い特別なものだったことは確かだ。離れていた時間を埋めるように寄り添う姿に一体どんな野次を飛ばせるというのか。各々素敵な時間を過ごしててもやっぱりそれは思い残しとか未練とか最後になってもいいような別れの気配も感じる中、日常に幸福を見出だし陽のエネルギーを放つのは、『好きな人と一緒にいれればそれで』という顔を見せるのは、あのサンサだったんだな…と…涙が出てくるよ。シオンにだけ向けられる表情があるのだ。シオンとサンサの関係性はあまりに異質で地獄で唯一無二だけど、相手を思いやるという普遍的な情感に落ち着くというのは人類に対しての希望で性善説の肯定を信じたくなった。あんな無茶苦茶な経験をしても大切だと思える相手に『傷付けたくはない、守ってあげたい』を真っ先に体言できるのは奇跡だ。大切にしたいけど(慣習や拭いきれない無意識の男尊女卑思考で)しょうがない、ならまだしも上下関係を定めるのが前提の世界だから自分に見合うか頑丈さを試したり対価を要求したり愛玩としてや権力の維持や傷付けて喜ぶ連中がうようよいるのに、お互いひねくれることなくまっすぐ相手を思いやれる。こういうことが世の常で決まってるからの『でもしょうがない』にサンサが当てはまらないのは、あんだけのことしたんだからしょうがないよねじゃなくてシオンがそう望んだからという意思の尊重だ、『シオンの心を傷付けたくはない』に当てはまる。どれだけ世界は広くてもすべての彼女の特別な感情を意味する言動はシオンのためだけにあるの、こんな素晴らしいことがありますか?自分の人生は終わったも同然だったシオンにとってボーナスステージみたいなもんだったんじゃないかな。シオンは認められたくて生きてきた。2つの家を跨いでいても拠り所があるというわけではなかった彼にとって最後に選んだ場所を考えると、家とは血縁や出身じゃなく心安らぐ場所をさすものであってほしいと思うんだよ。お互いにとってそうだったらいいなと。あんなクソみたいな世界でも感情とは守る価値があるものだったと思わないか。たとえ死ぬとわかっていても愛した人間を1秒でも長く生かすために戦い、たとえ死ぬとわかっているなら心を許した人間と1秒でも長く過ごすことを選ぶ人間はとても愛おしいものだったと最後に私は気付く。コントロールできない感情とは厄介だが、手放すにはあまりに惜しいものだと。
サンサはシオンが助けてくれたって思ってるだろうけど、シオンはサンサを助けられなかったって思ってそうな印象を受けた。シオンの頭の中にいるサンサは、自分を罵るボロボロの彼女か瀕死の彼女かそれでも歯くいしばって前を向く高潔な彼女か、のどれかのような気がした。どれにせよ彼女の死の気配が拭いきれない感じがした。僅かでも暗闇があるかぎりどこに行っても安全な場所なんてあると思えないからじゃあ自分が守らずに誰が守るんだ?という気持ちがいつまでたっても消えなさそうで。サンサに対してシオンは裏切りに加え、直接的な暴力ではなく起こるであろう加害を黙認するをやってしまったわけで、彼女とその家族に対して裏切りの償いができるかつこれから起こる虐殺を僅かでも阻止することができるを両方満たす『ウィンターフェルに向かう』が避けようがないとはいえ厳しいものがあった。シオンを苦しめた"男らしさ"にはスタークもグレイジョイも加勢している。自分より何倍も高潔なスターク家の人間の前で涙を目にため己の無力感。サンサがジョンに対しての自分の行いを責めていたように、シオンへの態度はなぜそんなことになったのかの経緯も含めシオンが感じていた孤独や疎外感、男のつくった支配構造に苦しめられる男性像を近くで見ていたから彼女なりに理解しようとありのままのシオンを見つめようとしていたんだろうな。姉の前では泣くな!と言われるシオン、どうしようもない弟という部分を除いても鉄諸島のホモソっぷりは群を抜いてる。シオンとの身体的接触はサンサは慈愛で、ヤーラお姉ちゃんは鼓舞のようだ。シオンの背負う"男らしさ"に対する接し方にも思える。姉のは愛の鞭のそれだけど、シオンはそこに馴染めず苦しんでたんだから洗脳みたいなもの。でもサンサが自分を見捨てたシオンに対して、触んなお前も同じ目にあわせてやりたい等呪詛募らせてる一方でお姉ちゃんは何度もすぐ許してくれたのはあれはもう、何をしても愛してくれる奇跡の愛情でもある。シオンはウィンターフェル時代もリーク期も人の後ろに立ってたけどその後のヤーラ姉ちゃんのときは隣に立ってて、対等というか過剰な劣等感を感じてないのかなと思うとそれは良い傾向な気がする。サンサとも並んでごはん食べれるようになったわけだし。十分現代に通じる『テルマ&ルイーズ』(1991)は虐げられ逃げ出した女たちが男の手の届かない彼方まで逃げる話だったけど、『マッドマックスFR』(2015)では虐げられ逃げ出した女たちが"何故私たちがどかなければならないのか、お前がどけ"と居場所を取り戻す話なんだよね。希望と前進を感じるよ…これをシオンとサンサにも感じたんですね。暴力による支配から弱者であった二人が命からがら世界の果てに逃げて、自らの意志で"お前がどけ"と帰ってくるんです。
サンサの中ではシオンが自分の手掴んで引っ張った瞬間にひとつの区切れができたんだろうけど、シオンの中では何一つ終わってなくてでもS8ep2で彼女に対する姿勢があれだったから多分あの夜生き残ってたらシオンの中で区切れが出来てたんだろうなと思うと悔しい。私にはわからない、贖罪とはなんて難しいんだろう。懲罰(ラムジー)にしろ、もうこれだけ酷い目にあったんだから許してともならなかったし、善行(サンサ)にしろ、自分の行いは許されるものではないと貫いてるならじゃあどうしたら彼は救われるんだ。シオンは、世界の全員があなたを許すと言っても、俺は許されたくないと言う奴だ。もう自分を傷付けるのはやめてくれ。私は君の笑った顔が見たかったんだ。前より口数が減った分罪悪感や責任から解放されてどんな話をするのか聞きたかった。どんな人生を選ぶのか知りたかった。なのに君は、生きるに値する男だと私に証明してきた君は自分の理想に殺されてしまった。でもきっと報われた。こんなクソみたいな世界でもあなたは価値ある、かけがえのない存在だったと伝えたい。ジョンに「You're a Greyjoy, and you're a Stark.」ブランに「You're a good man.」と美しい二つ名を与えられ、サンサに抱きしめられ人生で一番大切な夜を過ごす相手に選ばれ、姉に「スターク家のためにホワイトウォーカーをぶっ殺してやんな」と送り出され夜の王への最後の一手をアリアに繋いだのだから。何者かに迷った青年は何者でもない娘と共に勇者になった、善良な心も共に。破壊しかできなかった男には命をかけ守りたかった少女がいて、縋るように抱きしめる彼女に反して彼は包むように抱きしめることができる人間だった。もう死ぬべきさっさと死ぬべきって思っててもサンサに出会って人生に目的が生まれてしまったのだから。死ぬべきだったけど生きる理由ができてしまったのだから。サンサの「黒衣を着れば罪は許される」という社会的な提案と、ジョンの「俺の範囲なら許してるよ」という個人的な進言は全く方向性が違うけどそれでも彼を救ってあげたいという気持ちがそこにはあり、ブランの「君の家でしょ」という完全な承認があった。シオンの段階的な救済は丁寧だった。シオンに優しい世界が確かにそこにはあったのだ。そして彼自身は味方が誰一人いなくても拳で信頼を勝ち取り、世界が敵だけになってもサンサとブランを守ろうとした男だった。私にはずっと必死に誰かに返そうとするそんなシオンを嫌いでい続けることはできなかった。君はついにすべてを一人で返すのではなく誰かを信じて繋げる人間になった。聡明だったとも幸せだったとも言い難いが、君は良い人間だった。なのに私は悲しいよ。ブランのときもサンサのときもジョンのときもシオンと出会うとみんな、『おまえ…どうした?』と別のシオンと出会う、いつの時代も常に移り変わる男だった。どの自分もシオンは嫌いだったんだろうな。なぁ、最後に自分を好きになれたかい?どんな人生だった?苦しくなかった?後悔はしていない?そんなことももう聞けない。逃げ出さなかったのは、姉に認められサンサに好意を向けられブランに感謝され、ポジティブな感情を個人面に向けられたからなのだろうな。自己肯定が低い人間にとって活力になる一方劇毒みたいなものだ。リークを経たシオングレイジョイはブラッシュアップされた美丈夫さに、よくもそこまで立ち直れたもんだという驚きと同時に、あぁこれ矯正だよなぁ…というぼんやりとした絶望があった。グレイジョイの荒治療とスタークの高潔さがシオンを追い詰めた結果なんとか立っている様子のそれだったから。あるべき自分よりなりたい自分になれたのか、本当のことを教えてほしい。まぁ今更否定的なことは聞きたくないから、捨てたもんじゃなかったよ君の人生はと思うことでしか私は私を救えない。さよならなんて言いたくない。さよならなんて。私には堪えられない。無理だとわかっていても奇跡が起こる可能性を信じてみたくなってしまう。だが人の結末だけ見てないないないと失意を語って終わるのは嫌だ。君のいない世界に興味などないが、君が守った世界がより良い未来であることを望んでいる。君がいた世界は美しかったが、君のいない世界も美しいものであることを望んでいる。われら種を蒔かずの精神を越え、来る冬を越え、サンサスタークに春の種を蒔いていったシオングレイジョイが私は好きだった。わかっている。だけど君のいない世界は少しだけ寂しい。