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ゲーム・オブ・スローンズ 最終章のmoridonのレビュー・感想・評価

5.0
“Winter is coming.”

つまるところの“気候変動”という共通の敵。それに対し我々は手を取り合う他ないのだという社会的風刺もさることながら、結局は国同士の小競り合いに終始してしまうという強烈な皮肉が最高。

そんなことは抜きにしても別々の物語が一本に集約していき各地に散らばった仲間たちが一堂に会する展開はそれだけでアベンジャーズ的ワクワクがありめちゃくちゃ面白かった。主要人物だと思っていたキャラが急に死ぬという群像劇ならではの展開に釘付けだった。

中でもS3 E9で描かれた“The Red Wedding”とS6 E9の“Battle of the Bastards”はドラマ史に残る傑作だと思う。人の死に様をこんなにも強烈に、そして残酷に描くことができている作品が他にあるだろうか…

少なくともシーズン6までは緻密につくり込まれた脚本に加え見事と言う他ない演出により素晴らしい出来となっている。シーズン7は物語の回収がメインになってしまって演出面が残念ではあるものの、勢いで面白く仕上げてくれている。



そして問題となったシーズン8の最終章。
ファンの誰もが期待しなかった展開にバックラッシュの嵐。脚本を書き直せという署名運動まで起こった。

しかしここまで異彩を放ち続けたデイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスの二人がこの反応を予想できなかったなんてことがあるだろうか?

“No one is very happy, which means it's a good compromise I suppose.”

“Was it right?”

というティリオンとジョン・スノウのやり取り。これがシーズン8の全てを、ゲーム・オブ・スローンズの全てを表しているんだと思う。ファンの誰も幸せになんてなっていない。それを承知でデイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスはこの脚本を書き上げた。想定通りファンからのバックラッシュが起こり、そうして初めてこの作品は完成を迎えたのである。

昨今、トキシック・ファンダムはカルチャーにおける大きな問題となっている。SNSなどの発達によりファンが必要以上に力を得てしまった。ファンが満足してくれれば良いという思いのもと作られた作品も少なくないだろう。ゲーム・オブ・スローンズもシーズンが重なるごとにファンのコミュニティは広がり、世界中にファンを抱える大きな作品になってしまった。果たしてファンが期待した通りの脚本を書くことが正解なのか。そんなトキシック・ファンダムへの皮肉も込めて、脚本の二人がこの展開を自ら希望していたのだとしたら。



…この終わり方は本当に正しかったのだろうか。

“Ask me again in ten years.”

ティリオンに言われた通り、10年後にまた聞いてみよう。
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