サンタフェ

アトランタのサンタフェのレビュー・感想・評価

アトランタ(2016年製作のドラマ)
4.1
かねてより評価も高く気になっていた作品。率直な感想としては想像よりずっとアーティスティックというか、難しいタイプのドラマでした。

シーズン1を観終わって、アトランタという都市や制作背景を見ないと作品の根幹の魅力は全然わからないんだろうなと感じ、軽く調べて読んでみました。

【久保憲司の音楽ライターもうやめます】第9回 「アトランタ」は問題ばかりの僕たちが〈どう生きていくか〉を描く
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/23496

ドナルド・グローヴァー&ヒロ・ムライの『アトランタ』が描く「不条理な現実」。シュールで不気味なコメディの魅力
https://www.cinra.net/article/202206-atlanta_ymmtkcl

黒人を巡る状況で個人的に最も印象的だったのは9話のパーティーで、アーンが自分のオリジンの国に行ったことがないどころかどの国すら興味がないところでした。冷静に考えればアメリカの歴史の長さから考えて当たり前なのですが、アメリカ人にとってはアメリカ人というだけですよね。

それでも差別があるから永遠にオリジンを意識せざるを得ないところや、といいつつ本作でも他の作品でもだいたい黒人コミュニティってわざわざジャマイカ料理とかカメルーン料理を食べにいくので、本人たち的にもアフリカアイデンティティはあるんだなとか思ったり。

なんというかそういうアメリカ人黒人コミュニティのアイデンティティのふわふわしたところがよく伝わってきて面白かったです。このあたりは同じ黒人コミュニティでも、欧州系だとまだ現地親戚などとずっと距離感が近い印象があるんですよね。アメリカだったらアジア系移民も比較的そういう印象があります。世界の有名どころでいえば中華系とかユダヤ系とかイタリア系が最もそういう性質が強いですが、移民だろうがわりと世代を超えてオリジンのアイデンティティが残り続けるというか。

すごく他人ごとで申し訳ないですけど、こういうのを見るたびにアメリカ人黒人って凄くアイデンティティ問題が大変そうだなと感じます。私はアイデンティティは人種(容姿)ではなく文化が醸成すると思っているのですが、アメリカが多民族国家な以上はアメリカ内の文化はいくらブラックコミュニティ発祥だからといって黒人のものと独占することはできないですし(逆に差別になる)、かといってそれゆえに永遠にジャマイカやカメルーンなど純黒人国家に近い他国文化を借用し続けるのも難しいよねという。

欧州とかってわりと⚪︎⚪︎系や出自を意識し続ける文化があるので、ある意味でそれが差別的なわけですが、本人的にはやはり出自にアイデンティティを委ねられるので楽なんじゃないかとも思ったり(=ずっと⚪︎⚪︎系でいられる)。アメリカって多民族国家ゆえにそういった出自を主張し続けることができなくなる雰囲気を時々感じるので(アメリカ人にならないといけない)、そうなると本作のアーンのような問題が出てくるよねとなります。「俺はナイジェリア系アメリカ人だから」とズバッと言えて誇りを持っていた方が楽な時も多々あるんじゃないか…みたいな感覚です。まぁこれも当人からしたら、ただアメリカ人でいたいだけなのにという話でしかないんでしょうが…。難しい。

ここまで記述した通り、作品の根幹はわりとわかりづらいなと思うしずっと陰鬱なテーマなんですけど、表のコメディに仕方が素晴らしくメイン役者陣のパワーもあってとても観やすかったのがよかったです。
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