うっちー

製パン王キムタックのうっちーのレビュー・感想・評価

製パン王キムタック(2010年製作のドラマ)
4.3
 かわいさの華、があるユン・シユン君。ほぼ初めて時代劇でハマった『不滅の恋人』でその魅力を知っていたけど、本国ではこちらが彼の出世作なんだろうと思った。ちょうど10年前の作品。所々古臭い部分はあるが、そんなこと気にならないくらい、根幹となるテーマが熱く、感動的で、次が気になる展開のうまさにも唸らさせられた。簡単に言って、何回もボロ泣きしてしまった。

 話はシンプル。大会社の会長とそのうちの使用人との間に生まれた少年、タックが周りの良からぬ輩によって母親と引き離され、数々の苦労を重ねながらパン職人を志し、人間的にも成長してゆく物語。母子ものでありながらビルディングスロマーンであり、またタックの周りの人々の愛憎を描く意味では群像劇でもある。最近のドラマなら『梨泰院クラス』、アニメだが母と行き別れた男の子が苦労する話、ならば『母をたずねて三千里』、パン職人修業の過程は『ベストキッド』のような感じもある。要するに、時や国を越えて共感できる部分の多い普遍性に富んだお話しなのだ。

 たしかに何人かの悪役のえげつなさには疲れるが、会長夫人のインソクなどは、冒頭に、基本的には人徳者と描かれる姑=大奥様から、とてつもない言葉による虐待(男子が産めないなら嫁失格、出て行けくらいの)を受けていて、夫との間に愛もないらしく、時に哀れを感じさせる。また、捻くれまくったマジュンは、ほぼ周りの環境が諸悪の根源で、彼は完全に被害者なのではないかと思われる。同じく不幸な環境を背負ったユジョンは、しかし所々行動が不自然だけれど。彼女が途中で立ち直ってくれていたら、もっと後味は良かっただろうと思う。

 会長のイルチュンと師匠となるパルボン先生が、とにかく魅力的。特に、寛容で包容力があり、示唆的なことばを残すパルボン先生。私もこんな師匠に出会いたい。

 貧乏であることが悪であるかのような描き方、儒教的な男尊女卑の観念、学歴や家柄などの格がものをいう社会など、あらゆる不平等を真正面から描きながら、それらがおかしい、と思わずにはいられない展開にグイッともっていく脚本の力。時に辟易するような悪習を描きながら、それを揺り戻す力技が、いかんなく発揮されていて、それが眩しいほど輝いているのだ。

 悲しみや悔しさを抱えて生きてきたタック。暴力も厭わぬ彼の復讐心を見抜き、その稚拙さを指摘するパルボン先生。彼の本質は認めながらも、正しい方、明るい方を示す師の温かさに涙。最後まで120%、失速しない全速力走。胸に迫ることばとともに大切な作品になりました。名作です。
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