Eike

ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウスのEikeのレビュー・感想・評価

4.8
制作スタジオの経営破たんなどもあって中々新作が劇場公開されなかったフラナガン氏ではあるが、それを救う形になったのがNetflix。
劇場公開を見送られたBefore I Awake:「ソムニア」がピックアップされて以降、矢継ぎ早にNetflixオリジナルとして新作を発表。
特にHush「サイレンス」と「ジェラルドのゲーム」の完成度の高さは注目を集めました。
そんな彼が昨年2019年にNetflixで発表したのが本作。
タイトルから明らかなように原作はアメリカンホラーのクラシック作。
本シリーズはそれを独自の視点で新たに構築したもの。
最大の特色は全10話のシリーズドラマのフォーマットを採用した点。

2時間のホラー映画と10時間の連続ドラマでは求められるものは大きく異なる訳だが、フラナガン氏は制作と脚本だけでなく、10エピソードの全てを一人で演出もしている訳で正に入魂の一作と呼ぶにふさわしい出来。
完成後に過労で入院したそうだが、無理もないところである。

鑑賞前の時点で不安に思ったのは10話というのは長すぎるのではないかという点。
ホラーの多くは時間的・空間的に制限された設定を用いることでエンタティメントとしての体裁を整えるのがお約束。
だから10エピソードを延々と費やしてお化け屋敷巡りを見せられたところで見る側の関心をつなぎとめることは難しいと思ったからだ。
ところが、本作はホラーである以前に何よりもまず「ファミリードラマ」として成立しているのだ。
10エピソードの内、前半の5話まで、この家族の5人の子供たちそれぞれにフォーカスを当てた物語を紡いでいる。
そして転換点となる第5話のエンディング以降、成人して散り散りとなっていたメンバーが集い、各々が封印してきた過去のトラウマと向き合うこととなる...という展開を取っている。
全体の半分を主人公となる5人の子供たちそれぞれを描くのに費やすことでファミリードラマとしての体裁がしっかりと整えられているのだ。

では「ホラー」としてはどうなのか?
このタイトルからすれば当然、いわゆる「呪われた屋敷」を舞台にした惨劇を想起するのだが、主人公たちは幼き日に数週間この屋敷に足を踏み入れただけに過ぎず、物語が始まった時点では遠く離れた場所にそれぞれの生活を築いている。
しかし年月を経てなお、呪われた屋敷の因縁から逃れることが出来ずにいる様が徐々に明らかになってくるという展開は中々に巧い。
「何があったのか」そして「なぜ惨劇は起きたのか」という点を巡るドラマの展開はミステリとして見ることも可能で、視聴する側の関心を掴むことは出来ている印象。
フラナガン氏の力量を示しているのは、各エピソードにおいて現在とヒルハウスでの過去の日々が呼応する形で描かれている点。
現在と過去、そのどちらにおいても「怪異」が物語の中心にあり「ホラー」としての骨格もきちんと整えられているのだ。
そしてこれも巧いと感じたのはその「怪異」の受け取り方が一様でないこと。
5人の子供たちはヒルハウスでそれぞれが怪異を経験するのだがその受け取り方は様々。
各自が抱えたトラウマに対処するアプローチも異なっており、それが各兄弟・姉妹間の距離を生む原因となっている点。

その経緯を描くことがこの家族と牽いては呪われたヒルハウスの物語を紡ぐことに繋がっているのだ。
先述したようにエピソードの構成に工夫があるだけでなく、ターニングポイントとなる6話は葬儀場での一夜と過去にヒルハウスで嵐の夜に起きた出来事がほぼ数カットの長回しで描かれるという凝りよう。
見ている側としては時間と空間軸の転換具合にクラクラしてくるほどで実にドラマチックです。

俳優陣も奮闘。
中でもやはり前作Gerald's Gameに続いて登板したカーラ・グジーノ嬢は鍵となる役を引き受けていて頼もしい限り。
フラナガン氏はホラーとしてありとあらゆるテクニックを本作に注ぎ込んだといっても過言ではなく。事実、続く劇場公開作「ドクター・スリープ」も本作の延長線上に置くことができる印象です。

2021年にはやはりNetflixで「真夜中のミサ」を発表し、やはりユニークなホラーへのアプローチが注目を集めております。
真面目な「ドラマとしてのホラー」の作り手として大いに期待できそうです。
Eike

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