中産階級ぶたくんを舐めるな

ザ・ボーイズ シーズン1の中産階級ぶたくんを舐めるなのレビュー・感想・評価

ザ・ボーイズ シーズン1(2019年製作のドラマ)
4.8
【今、アメリカはかつての敵国へと姿を変えつつある
リベラル、ダイバーシティを謳うスーパーガールをマウントでタコ殴りにするドラマ】

あらすじを簡潔にすると、狂言回しが2人。
彼女を走行中のスピードスターにぶつかって道端でバラバラにされたヒューイはヒーロープロデュース会社VOUGHT崩壊を企むボーイズに参加し復讐を試みる。
子供のころからヒーローになることを夢見てたアニーはオーディションに見事合格。VOUGHTのヒーローチームseven入りを果たし、シンデレラストーリーを歩む?
このドラマの何がイイってなんでもヒーロー論を相対化すれば現代的になるだろうという短絡的考えで作られていないこと。知的なブラックユーモアがあるからこそ、真のヒーロー性にカタルシスが生まれるという堅実なつくり。
MCUやタイバニと比較してどうこうは他の方がやられているので、僕の愛するCWで放送中のアローバース(Arrow/Flash/Legends of Tomorrow/Supergirl/これから始まるバットウーマン)と比較して書きます。
僕が一番感心したのはやはりPC配慮ですね。こういったヒーロー相対化ものでよくある「現実にスーパーパワーがあったらこんなグロいことになるぞ」という生々しい描写や、「現実問題は善悪二元論で片付かない」というテーマはよくありましたが、本作の白眉はポリティカリーコレクトネスやダイバーシティを尊重したヒーロードラマが実際どれほど詭弁で説教臭いプロパガンダか、この2019年に描いたことにあります。
特に僕が嫌いなスーパーガールはおそらくこのドラマの真逆、真・逆!!で、過激なフェミニズムでもって女性の優位性を主張し、その為の仮想敵、権力を持つ旧態依然とした男性を必要以上に貶めて描く。問題のすべてをパワープレイで解決する。fury roadのように物語の構造がフェミニズムを要請するのではなく、フェミニズム、つまり「女性は常に正しく、男より強い」というテーマありきで作られているのです。
対してこのドラマのワンダーウーマン的立ち位置のクイーンメイブははっきり言って日和見主義者で、「男性権力社会の中で反発して自己を貫く”強き女性像”を演じさせられている体制に飼殺されたマネキン」なんですよ。
女性優位性社会とは男性優位性社会の中でしか存在しえないというジレンマを抱えているという説を体現するようなキャラクターです。
2017年にワンダーウーマンが男性を必要としない自立した女性の成長を主張し、CWがドラマで暴力的に男性に制裁を下す強い女性を絶対的に正しいものと描く。女性が女性としてのアイデンティティを自己肯定したいがための快楽としてメアリースーを楽しんでいるだけなんです。(メアリースーとは、スタートレックの同人から生まれた人物で、女性の願望を叶える為だけに理想化されたヒロインを揶揄する語として使われる)
そんな退廃娯楽を先進的価値観などと評するのは錯誤も甚だしく、ダイバーシティやリベラルとすり替えて語られがちな昨今のエンターテイメント作品の主人公スターウォーズのレイとかよくやり玉にあげられる。
そういったアメリカ、ハリウッド全体の潮流を踏まえた上で、今みんなが見ている娯楽を良くも悪くも共有しているからこそ、今作のクイーンメイブというキャラクターはアイロニカルにクリティカルヒットするんです。
他のsevenやVOUGHTのヒーローも(一人を除いて)それぞれが象徴となるテーマと相反する矛盾をアイデンティティの一部に抱えています。
アメリカの良心と悪心を象徴するようなホームランダー。能力を駆使し暴力に快楽を感じながらも、「悪い奴をやっつける」という表向きの右翼ヒーロー面をファシズムの中で輝かせながらアイデンティティを捨てた所為で逆に人格が分裂している存在。神話的な存在でありながら、歪んだマザーコンプレックスと性癖を抱えていて、神話的にエディプスコンプレックスを克服していくスーパーマンのアウフヘーベンのようなレイプ魔。
マイノリティの立場と男性としての自己、性癖に悩むアクアマンネタたっぷりのレイプ魔ディープ。
ヒューイの敵であり、最速のヒーローでいつづけるプレッシャーとヒーローでなければ黒人として偏見を持たれるという理想の自分にすがらざるを得ないAトレイン。
キリスト原理主義福音派の象徴である為、表向きには純潔であり”ノーマルな”異性愛者として偶像崇拝や異教徒や同性愛、婚前交渉などの姦淫を(てめえには関係ないくせに)非難し説教たれる隠れ同性愛者のエゼキエル(これは現実にもいる。共和党あたりに)
印象に残るのはやはりホームライダーの旅客機救助シーン。空中じゃ踏ん張れないというリアリティもさることながら、救えるはずの人命よりもリスクと保身を優先した結果、救わないことを逆手に取ったキャンペーンを行うところ。彼の邪悪なカリスマ性が光るのと同時に、追従するしかないクイーンメイブの現在の立ち位置というのが明確化するシーンです。彼女が体制に反駁するアニーこと新米ヒーロースターライトを応援するのは、同じ女性だからじゃない。彼女が以前信じていた幻想を継承する後継者としてもう一度理想を信じたいという心理が働いたから。来シーズンのクイーンメイブはどう変化していくのか、或いは変わらないのか。これからの展開に期待大!!です。

〈まとめ〉
ジョークとは、普段みんなが思っているけど社会の環境などからなかなか言えないことを気を利かせて言い、笑いを生むことを指します。これはこれからアメリカの大衆娯楽が向かう隠れ全体主義を暴くポリティカルフィクションであると同時にヒーロー性を逆説的に説いたという意味でれっきとしたヒーロードラマでもあります。
元ネタとなるヒーローのテーマ性を理解していないと各キャラクターは面白くないのかもしれませんが、実在する企業タイアップネタ(funkoPop!とかジミーファロン、セスローゲンがVought Cinematic Universeに参入とかジョエル・オスメントがコンベンションでサイン会やってたり)やエンディング曲(=オチ)にLondon CallingやThe passengerを使うというわりとベタな選曲などユーモアとして上質この上ないことは間違いないです。