ちちうえ

早春スケッチブックのちちうえのレビュー・感想・評価

早春スケッチブック(1983年製作のドラマ)
5.0
自分が見てきたテレビドラマの中では一番の傑作

山田太一は70年代から80年代にかけて倉本聰や向田邦子と並んでテレビドラマの傑作を連発し、テレビドラマの質の向上に大いに貢献した。その後はバブル期のトレンディドラマ、アイドルが主役の気の抜けた恋愛ドラマでドラマ界は荒廃し、海外ドラマの配信も出てきて、日本のテレビドラマで見たいと思う作品は本当に少なくなってしまった。

山田太一の代表作は「岸辺のアルバム」「男たちの旅路」「ふぞろいの林檎たち」「想い出づくり」「シャツの店」など多数あるが、放映当時は視聴率がまったく振るわなかったこの「早春スケッチブック」が配役や演出も含めて最も完成度が高いと思う。

このドラマの制作がフジテレビというのも今となっては信じられない。

脚本家の岡田惠和をはじめ、多くの業界人にも人気があり傑作とされているのにフジテレビなのでなかなかブルーレイ化してくれない。
自分はプレミア化しつつあたDVD BOXを3万円で買った。(まったく後悔していない)


放映当時に主人公の和彦(鶴見辰吾)と同年代であったので、当然、受験やこれからの人生について悩み、沢田(山崎努)に影響されていく和彦の姿に共感し、沢田の発する「ありきたり」「自分を磨け」「深く物事を愛する」というセリフにも感銘を受けていた。

自分も「ありきたり」ではない人生を送っていくんだと思ってから40年。

すっかりありきたりな人生を送っている現在、再度のこのドラマを見返してみると、このドラマは和彦の成長だけではなく、父親の望月省一(河原崎長一郎)が変化していく物語でもあったことに気づいた。

平凡な人生を送り学歴社会の中で小市民的に仕事をこなし、家庭を“守る”ことに徹してきた省一にとっては常識の範囲外で行動し、ありふれた生活の幸せに刃を突き付ける沢田は受け入れられない存在であり、最初は徹底的に拒絶し省一なりに家族を守ろうとするが、自分以外の家族が次々と沢田に感化され次第に孤独になっていく。しかし後半、自分も沢田と接し、家族の気持ちも考え、最後は自分から沢田の家に押しけるという提案までするようになる。

沢田や省一と同じ年齢になると省一の気持ちが痛いほどわかり、この省一の内面の変化まで描いた山田太一の脚本は見事としかいいようがない。

山崎努、河原崎長一郎、鶴見辰吾の3人にとってはテレビの代表作だろう

美しさの絶頂期の樋口可南子、いかにも“昔、ハマで風を切って歩いていた”風の岩下志麻(いつもは髪を後ろで束ねているが、髪を下ろした時が凄く綺麗)、そして和彦の妹役の二階堂千尋の澄んだ存在感。

中盤で山崎努と二階堂千尋が無言で外を歩いている名場面があるが、途中で雪が降る演出も良かった。


DVDで鑑賞