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全裸監督のmのレビュー・感想・評価

全裸監督(2018年製作のドラマ)
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第4話まで観て、あぁ駄目だもう自分はここまでにしようと思って続きを観るのを止めた。本当は最後まで観て判断するべきだというのは分かってるんだけど、ちょっとこれは無理だった。ものを作る人間としてやってはいけない事をやってると思う。「マインドハンター」のシーズン2が来てるんでそっち観ます。

しっかりと予算がある事が目にも耳にも明らかで、Netflixの資本と自由の元でスタッフ・キャストが熱意と愉しみを持ってこの作品を作り上げた事は伝わってきた。
しかし、結局良い予算と環境で良いスタッフ・キャストを集めて自由に作品を作れる状況になったら、『コンプライアンス、ポリコレなんてクソ喰らえ!』『今のテレビや映画でできないのはエロ!』『これが、むきだしの人間!』となるのがやはり日本映画界の性なのだなとつくづくやるせなく思う(次の園子温監督のNetflix作品だとこれに暴力描写が加わる)。完全に時代に逆行してるけど、まあガラパゴスの国ですからね。男尊女卑上等の国ですから。男達の遊びです。監督陣の顔触れを見れば、こうなるのは必然とも思う。彼らを呼んできた時点で絶対こうなるよね。
でもこの監督陣の過去作と比べると全然面白かったのは事実、いや過去作があまりに酷いものばかりだからというのもあるけど。普通に面白く観れはする。脚本の骨組み作りとかはだいぶしっかりした。


村西とおるもAV業界も100%肯定して描く事はできない題材だと思うが、この作品は何とも無邪気に彼とその業界を徹底的に肯定してみせる。結局彼らが女性を食い物にしているという現実にも後述の黒木香の性革命ストーリーという免罪符を用意してすり抜けたと作り手達は思っている。AV強要出演のような業界の問題点は勿論スルー(正確には一瞬描かれるが、主人公らのヒーロー性が強調されるのみ)。
結局この村西とおるという色々問題のある人物を、(彼の中のミソジニー等の問題を排除して)分かりやすい単純なアンチヒーローに仕立て上げてしまっているのがまずい。それは結果的にこのドラマの中の『村西とおる』を単純な存在にしてしまっている。
そうした対象への客観性の無さ故に(いやそれだけじゃなく演出と脚本の拙さとかもあるんだけど)、この作品は日本版「ウルフ・オブ・ウォールストリート」にも日本版「ナルコス」にもなれない。一見生々しいようでなんとも嘘臭いのだ。


黒木香のサブストーリーで女性の性革命を描く事で、男性視点のエロの免罪符にしようとしているが、その女性の性の主体性を免罪符にしようとしている事がもう日本映画のいつもの手なので、ああまたこういう感じかと思う。厳格なキリスト教の家庭とその反動ってまだそんなに園子温意識してるの?(実際にそうだったならごめんなさい)。そもそも実際の彼女のこの後の自殺未遂や裁判沙汰を考えるとこの脚色はあまりに彼女の人生を勝手に利用し過ぎているのではと思うし、そもそも彼女本人にこの企画の許可もらったのか・・?と思ったら案の定許可もらってないらしい。根本的な部分で駄目やん。

更にまずいのが4話の本番強要。いや『強要』じゃないでしょと言う人もいるかもしれないが、これも立派な『強要』なんです。これを『本気のモノづくりの熱さ、楽しさ』みたいな感じで演出し通しちゃう作り手の無神経さに一気に冷めた。『強要』とならないような脚本の工夫をしようとしてるが、そもそも作り手が『本番強要』の定義を理解していないんだと思う。擬似と本番って根本的に違う事だよ?重い事だよ?分かってる?分かってないよね。
更にこの本番強要の結果、本番をした女優が逮捕され親バレし田舎へ帰るという展開になる。一応村西組の面々も落ち込むのだけど、正直その女優の為に哀しみ怒っているのは伊藤沙莉だけなのではと感じた(村西自身も女優の為に怒ってるかもしれないっぽい演出をしてたが正直弱い)。ここでも女性の言動が作り手の免罪符として使われる。
この辺を5話以降でリカバリーしてくるのかなと思ったけど実際観た人のレビューを読んだらそうでもないらしく、そもそもこれ以上観る気力もなかったので、申し訳ないのだけどここで離脱させて頂く事にした。ごめんなさい。

小料理屋の女将との駅弁誕生のエピソードが笑って泣けるという感想を知人や他の人から聞いたけど、あのシーケンスの演出や音楽の『笑えるけど泣けるシーンですよ!!!』という魂胆の見え透いた作り手の鼻息の荒さに逆にシラけた。やっぱり基本的に演出は上手くはない。あそこは演技もやや過剰だったと思う。

俳優陣は皆愉しそうに活き活きと熱演、やはり山田孝之は1馬身抜けていて、スイッチが入ると本人が憑依したような口調・顔つきになるのが恐ろしい。女優ばかりが体を張る中で彼自身もかなり体を張るのは良かった。山田孝之だから村西が主人公として成り立ってる感はある。
それと玉山鉄二の怪演や伊藤沙莉の安定感も評価したい。そして勿論、身体を張った女優陣には賞賛と敬意を。


正直そろそろバブルに『あの頃は良かった、熱気があって』とノスタルジー募らせるオジサン方にはうんざりする、バブルを体験しておらずその後のツケである不景気しか体験していない世代としては。

シーズン2、やるのね。やっぱり日本はこういうのが好きなのね。うんざりしてくる。

まあこういう事考えてしまう自分は、あの宣伝映像で言うところの『まじめな人』なんでしょうね。
各話ごとにちょっとずつ良い所の感想書いておきます。


1話。
美術にしっかり金がかかっている事に感嘆。
階戸瑠李がガッツリとエロい。「娼年」と同じくトップバッターの役割だが、あの時とは違って今回は爪痕をしっかり残していけたと思う。階戸さんには頑張って欲しい。しかし日本だと、一度脱ぐとこういう役回りばかり押し付けられるのな・・というのを階戸さんにも3話に登場する冨手さんにも思う。勿体ない。
そして誰にも分からない形で出演してる渋川清彦・・

2話
白眉はやっぱり撮影シーン。玉山鉄二の怪演に爆笑。
ラストの逃走アクションがダイナミック!

3話
まず何と言っても内田慈、やっぱ巧い。
またしても玉山鉄二の怪演。
この辺りから小雪の重さが更に出てきて良い。村西組の面々が登場、特に伊藤沙莉が良い味で脇をガッチリ固める。

4話
ピエール瀧が普通に出てきてちょっと嬉しい。真魚のあまりの下手さに目眩がして一旦再生を止めた、ちょっとこれは酷すぎる、本人の問題でもあるし監督の問題でもあるが、そもそもカメ止めバブルで適当にキャスティングする側が悪い。
川上奈々美が巧くてかなり良い!この人凄く良いな、他の映画でも観てみたい、できればこの監督以外の作品で。
そういえば國村隼&二ノ宮隆太郎の異色コンビが前から良い味出してる。自主映画界から世界に一気に躍り出た二ノ宮さん、サラッと目立ってる。
村西組のメシがめちゃ不味そうなのが良い。
スイッチが入った瞬間の山田孝之の喋り方の変化、良い。
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