なっこ

輝く星のターミナル/キツネ嫁星のなっこのレビュー・感想・評価

2.9
ヒロインの視点で始まる導入部、あまりにも上昇志向の強い彼女の立ち振舞いにげんなりして続けて見たい気持ちを削がれてしまいそう。こんなにも上司に気に入られようと手柄を取ることに固執する彼女を我慢して見続けなきゃなのか、と思っていると、スッと視点的人物は主人公の男性の方へと移行していく。そして彼の過去や苦悩を知っていくうちに、ヒロインのそういう性格部分は縮小していき目立たなくなっていく、とても自然に。むしろ恋する彼の視線に寄り添って見れば彼女はとても可愛らしい。それを最初から狙っていたのなら、どちらの人物の問題点をもカバーする見事な戦略だ。
出会いはヒロインの非現実的な能力を持つ主人公への憧れ、羨望の眼差しから入り、次第に彼の生い立ちや本当の苦悩に気が付き、最後にはこのカップルの今後を一緒に見守っていく。そういう流れになっている。

幼い頃見たロボコップを心底正義だと信じていた私にとっては、主人公の苦悩や周囲の心配にはそれほど共感出来ていない。
でも多分この物語の主題は異質を受け入れること。その異質性は自分にとっての他者でもあるし、失った自分の身体の一部の代用物かもしれない。あるいは集団、または組織の中の異分子であるかもしれない。

兄弟の問題を見るときにいつも私はこれは国が主語なのかなと勘繰ってしまう。同じ両親から生まれたはずなのに違う運命を辿る二者は、半島の二つに分けられた国になぞらえているのではないかな、と。ひとつの家族に起きたことではなく、もっと大きな物語として、大きな哀しみといつまでも癒えない傷、どの物語の根底にも同じテーマがあるように思えてしまう時がある。

君といると故障してしまう、という愛の表現はなかなか真実だなと思う。平凡に生きたかったはずの主人公は恋することでより大きな葛藤を抱えるようになる。世界と自分だけだった頃には感じなかったものを、君と僕と世界に広がった時から、なりたい自分の姿は変わっていくのだと思う。よくも悪くもその葛藤は成長に必要なもの、無視はできない。

自立したい、強くありたいと思う人を、大切にしたい、守りたいと思う。そんな時、どう愛するのが正解なのか。
そんな答えのない問いを投げかけられている気がした。親子でも恋人でも友人でも兄弟でも職場の先輩後輩でも、強いものが弱いものを守ってやるという依存関係が正しいときにはなかった葛藤。
一歩離れてその人の伸びたい方向を見極めて寄り添うこと。それがどんな関係にも必要なのかもしれない。
なっこ

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