mimitakoyaki

私のIDはカンナム美人のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

私のIDはカンナム美人(2018年製作のドラマ)
3.9
もうこのサムネイルからして見る気が失せてたのですが(毎度のことながら日本版はダサいピンクやめい!)、チャウヌに釣られて見てみると、ジェンダー視点がしっかり入っていて、これは思わぬ掘り出し物!と嬉しくなりました。

「バケモノ」なんてあだ名をつけられるくらい顔が不細工なミレは、名門大学入学を前に大掛かりな美容整形手術をし、以前とは全く別の美人として生まれ変わり、大学デビューを果たします。
美人だと周りから注目もされるようになったのですが、容姿をバカにされ虐められてきた辛い過去のせいでなかなか自信が持てず、染み付いたコンプレックスが拭い去れません。
そんなミレが、彼女の整形前の顔を知ってる誰もが振り向くような超絶イケメンのギョンソクと恋をして…というストーリーです。

不細工だと見下され続けて、すっかり自尊心が削られ萎縮してしまうミレが、整形した事で幸せになれるのかと言うと、そう簡単ではありません。
整形した美人を揶揄する「カンナム美人」だと囁かれたり、噂されたり、過去の顔を興味本位で探られたりなど、整形したらしたでまた辛い現実を突きつけられて、悲しい思いをたくさんします。

中学時代のミレを知るギョンソクにどう思われてるのか気が気でなかったり、だんだん2人の距離が縮まってきても、自信がなさ過ぎて踏み出せないミレのもどかしさは、見ていて共感するところもありました。
他人から見れば、そんなん気にし過ぎやろ…と思うような事も、本人にとったらすごく大きな事なんですよね。

でもミレが初めて愛されるようになったことで、内面が変化し、強くなって、周りからどう見られるかという不安から抜け出し、美に対する執着から解放されて自分らしさを見出していくのが良かったです。

すごく美人な同級生のスアやギョンソクのお母さん、超イケメンのギョンソクなど、容姿に恵まれてても、そこしか見られなかったり、変に注目されたりと、決して幸せとは言えない人物も出てきます。
整形の是非を言うようなドラマではなかったところも良かったです。

しかし、そういった内容自体は、これまでも描かれてきたし、テーマに新鮮味が特にあるわけではないのですが、とても感心したのは、今どきの優れたジェンダー感覚で意識的に取り入れられたエピソードがいくつもあり、それがすごく良かったんですよね。

例えば、新入生歓迎会で、ゲスい先輩が言い寄ってきて性加害に及ぼうとするシーンや、学園祭で可愛い女子トップ3に超ミニのコスチュームを着せて売り子をさせるとか、数々のセクハラトーク、女を見た目でジャッジすること、女をモノ扱いすることや、家父長制男尊女卑オヤジなどなど、ドラマなので多少大袈裟にはなってるけど、まあ身に覚えのあるような事がいっぱいでとてもリアルです。

あの時、わたしが言われて嫌だったあの言葉、されて嫌だったあの行為は、その時は女やからそんな扱いされても仕方ないのか…と諦めてたけど、すごく不愉快だったし、立派なセクハラだったんだと、過去にされたイヤな事とかちょっと蘇ってきたりもしました。

でも、このドラマの中で、そういったセクハラに及んだ人間達は、もれなく強烈なドロップキックをくらい、謝罪させられ、地位を脅かされたり、別れられたりという天誅が下ります。
それでも懲りない奴もいますが、性加害クズが思い切り飛び蹴り食らわされたのは痛快でした。

整形してない美人のスアは、男性達からいつもチヤホヤされてるのに全く満たされず、クソビッチな行動をエスカレートさせていき、だんだん苛立ちや腹立たしさを超えて哀れに思えてきましたが、でも、あそこまでじゃないとしても、こういう感じの女の子おるなあ…となかなかリアリティがあります。

でもスアを巡ってのまさかのシスターフッド展開には胸熱!
年上同級生のウンがほんとに素敵で、自立してて、強くて、優しくて、人の痛みに寄り添えるのが超絶かっこ良かったです。
あと、周りから髪を伸ばせだのスカート履けだのと言われるボーイッシュな女の子も、自分を貫く強さと正義感が素敵でした。

自分は美人が好きと言いながらも、他人を見た目でジャッジしたり差別せず、セクハラをした人間には男性の立場からきちんと注意したり、女性を支持したりできるウヨン先輩も大人で魅力的でした。
男子学生達のセクハラに対して、女の子たちが団結して抗議するところもすごく良かった!
ちゃんと嫌なこと、ダメなことにはNOを言う、怒ることの大切さをちゃんと描いてるんですよね。

そして、チャウヌですよねー。
まあ美しいんですよ。
今回は抑圧され、母親とも別れて孤独な青年の役なので、ほとんど笑う事もないし、ぶっきらぼうな役柄でしたが、それだけに貴重な笑顔シーンの破壊力が凄まじい。
ツンデレなチャウヌも良いのだけども、わたしとしては、物腰の柔らかい人が好きなので、「新米史官クヘリョン」のチャウヌの方がめちゃくちゃ好きでした。
あれはホントにヤバかった。

そんなこんなで、チャウヌのようなキラキラアイドルが出てる大学生の恋愛モノながら、しっかりとしたジェンダー観で、#MeTooムーブメント以降の意識の変化を取り入れてあるのが素晴らしく、韓国フェミニズムの潮流を感じさせる作品でした。

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