ティターニア

インス大妃のティターニアのネタバレレビュー・内容・結末

インス大妃(2011年製作のドラマ)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

朝鮮王朝史上最強の『女傑』『孟母』と名高いインス大妃が主人公の話。

無邪気で勝気、聡明な少女が王妃になりたいとのぞみ、大妃、大王大妃と上り詰める波乱万丈の生涯を描いている。

中盤から、チェ・シラさんがインス大妃を演じるが、静かな威厳と迫力、慈悲深い反面、国の為なら極めて冷酷になるインス大妃の魅力を最大限に引き出している。気品があって荘厳な雰囲気はまさに女傑そのもの。

インス大妃は、前半~中盤にかけては姑、中盤は嫁、終盤には孫と激しく対立する事になるが、特に嫁である後の〝 廃妃 ユン氏〟ことソンイとの確執は見応えがある。

廃妃ユン氏は史実でも非常に嫉妬深く、最終的に王の顔に傷をおわせた罪で廃妃となったが、このドラマ内での廃妃ユン氏はとにかくズル賢く、悪女的存在として描かれていた。成人期を演じている女優さんがとても美人で演技力のある方だったので、国王に対する愛が深過ぎ、自身の育ちや学のなさにコンプレックスを抱いてるせいもあって、王や姑であるインス大妃をはじめとし、周りに対し非常に疑心暗鬼になっていく様や心の均衡を失いノイローゼやヒステリーを起こし、悪女となっていく姿、改心したものの周りに欺かれ毒薬を賜り非業の死を遂げるまで大変見応えがあった。

この廃妃ユン氏の息子である燕山君は暴君として名高いが、なぜ彼が乱心し暴君と化したのかもドラマを見進めているうちに理解出来る。蛙の子は蛙というが、この燕山君、とにかく性格が母である廃妃ユン氏に瓜二つ。表向きはいい顔をしてみるものの腹の中は真っ黒というタイプで、感情の起伏が激しく、激昴すると何をしでかすかわからない。演じている俳優さんも、事前に廃妃ユン氏の演技を見て勉強したのかと思うほど、ヒステリーの起こし方や表情の作り方がよく似ていて驚いた。言動も直情的でインス大妃が、燕山君に息子である成宗よりも、廃妃ユン氏の面影を強く見出すのもうなずけるといった具合。

インス大妃が、廃妃ユン氏には『王妃としての資質がない』燕山君には『君主としての資質がない』と言い切る場面があるが、まさに母親の狂気と繊細すぎる性質を息子がそのまま受け継いでしまった印象。

燕山君は王になってからも、“廃妃ユン氏…つまり罪人の息子”という足枷を外すことができない事に葛藤し苦悩し続け、幼い頃に亡くした母親への思慕もあり、その葛藤が恨み、復讐という形で全て祖母であるインス大妃に向けられるが、燕山君はとにかく寂しく孤独で誰かに愛されたかった…特にインス大妃に認めて欲しかったとも受け取れる場面が多々あった。

インス大妃が終盤で燕山君の殺戮をとめなかったのも、燕山君にたいして負い目を感じていたからなのではないかなと思った。

どちらも最後まで自分の意志を曲げず、和解できなかったのは悲しい。

インス大妃、廃妃ユン氏、燕山君を見て思ったのは人間の複雑多岐な感情や多面性、本質について考えさせられた。
インス大妃は廃妃ユン氏を『徳がなく学ぶこともしない軽薄な女』と決めつけていたが、廃妃ユン氏はユン氏なりに(感情的になると開き直ってしまいそれが周りに誤解を与えたが)自身の出自や性格に苦悩していたし、国王や息子に深い愛情を持つ優しい一面もあった。

廃妃ユン氏はインス大妃から『嫌われ、蔑まれている』と常に思いこんでいたが、インス大妃はインス大妃で嫁であるユン氏に対する思いやりを持っていた。

もう少しお互いが相手を『こういう人』と決めつけずに歩み寄っていたら結末は違ったのかもしれない。

ラストシーンで、インス大妃が夫の位牌の前で『息子が王になりました』と、少女の頃のように天真爛漫に笑うが、彼女はその強い精神力もあり、弱さを見せない人でもあったので、とにかく周りに誤解されやすい人物だったのだろうなと切なく感じた。