ジェイコブ

片想いのジェイコブのレビュー・感想・評価

片想い(2017年製作のドラマ)
4.2
大学時代にアメフト部に所属していたスポーツライターの西脇は、マネージャーであった理沙子と結婚するも、夫婦仲はギクシャクしていた。毎年開かれるアメフト部の同窓会でも理沙子は参加せず、西脇を始め、須貝やジャーナリストの早田など、お馴染みのチームメイトだけが集まっていた。ある年の同窓会の帰り、飲み会の熱の冷めやらぬ西脇と須貝は、かつて自分達がプレーした大学のグラウンドまで足を運ぶと、そこで理沙子と同じマネージャーだった美月と出会う。懐かしの再会を喜ぶ西脇と須貝だったが、美月から「人を殺した」と告げられる。ただならぬ様子の美月を連れて自宅に戻った西脇は、美月から自分は体は女だが心は男であると告白を受けるのだが……。
東野圭吾原作の連続ドラマW。ある男が殺された事件をきっかけに、性同一性障害に悩む人々のある計画が浮上してくる。
一昔前に比べれば、ジェンダーに対する理解は深まり、性別に対する意識を変えていこうとする動きもある。しかし、そうした障害を抱える人々にとってはまだまだ課題は山積みであり、奇異の目を向けてくる人も少なくないのが現実だ。本作は何もかもが豊かで恵まれたように見える現代社会の暗い影の部分にスポットを当て、その渦中で苦しむ人々の姿を描いている。
普通のミステリーに性同一性障害を絡めた事で、複雑に入り組んだ人間関係が構成している。話が進み、事件の全容が明らかになればなるほど、ジェンダー問題の根深さと、そこに潜む悲しくも厳しい現実を目の当たりにすることになる。
中でも印象的なシーンは、西脇と理沙子の住む家に身を潜める美月が、理沙子と不意にキスした事を西脇に告げる。ただ戸惑うだけの西脇に美月は激昂し、「俺を男だと思うなら殴ってくれよ!」と掴みかかる。西脇は美月が自分は性同一性障害だと告げた時、理解しようとしていた。しかし、心の奥では「女」であると思い込んでいたため、普通の男がすれば怒るはずの妻へのキスにも無関心でいられたのだ。これは性同一性障害を腫れ物に触るようにして見ようとしない現代社会の本音そのものだろう。
性同一性障害のヒロイン(ヒーロー)、美月は、ケイゾクシリーズで知られる中谷美紀、美月を思う西脇の友人中尾を鈴木浩介が演じている。鈴木浩介はコミカルな役が多いイメージだったが、本作では様々な表情を見せるダークな役どころである。
最終話では、今まで積み重ねてきた全ての伏線を回収し、まるでパズルのピースがはめ込まれるかのような、これぞ東野圭吾作品と言うべきラストを演出している。現実ではまだ課題が多いが、本作のようなドラマをきっかけに、少しでも改善することを願うばかりだ。