ジェイコブ

蝶の力学 殺人分析班のジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

蝶の力学 殺人分析班(2019年製作のドラマ)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

刑事である父の背中を見て、刑事となった如月塔子が、一人の刑事として成長していく姿を描くシリーズ。
シーズン1では、捜査一課の新米刑事として、「刑事の覚悟」を身に付けるまでを描く。塔子は常軌を逸した犯人「トレミー」に翻弄され、感情的になった結果、やがて相棒であり上司の鷹野に呆れられてしまう。しかし、塔子の気付きが事件の解決に繋がり、その功績から、11係の仲間達にも認められるようになる。
シーズン2は、トレミーの逮捕によって、女性警官達から尊敬の眼差しで見られるようになった塔子。しかし、彼女は前作で負ったトラウマが原因で、捜査に支障をきたすまで追い詰められてしまう。そんな塔子が、自身の過去、そして内面に向き合っていく姿を描く。
本作では、これまで数々の難事件を解決した塔子は、11係の仲間達からだけでなく、他の刑事達からも一目置かれる存在となるまで成長していた。上司であり、相棒の鷹野が異動することが決まるなか、再び難事件が降りかかってくる。本作での特筆すべき点は、シーズン1では鷹野の後にくっついて歩き、ビクビクしていた塔子が、鷹野と対等に話し、また意見を堂々と述べられるまでに成長しており、二人の関係性がれっきとした「相棒」になっていることだ。鷹野が病床で言った一言が正鵠を射ているように、塔子の髪が短くなったのも、新米刑事特有の「可愛げ」が無くなったことを表現しいるに他ならない。……違和感があると思う人もいるかもしれないが、個人的には御厨静流のイメージがあったので、ショートの方がしっくりきてる。
ストロベリーナイト、アンフェアと、今まで女性刑事ものは見てきたけど、どれもいまいちはまらなかった。そんな中出会ったのがこのシリーズ。如月塔子は決して要領がいいタイプではなく、どちらかと言えば、不器用で仲間に助けてもらう場面の方が多い。だからこそ、人間味を感じて感情移入がしやすい魅力がある。
彼女と真逆なのが、「相棒」の杉下右京だろう。右京は頭脳明晰で、身体能力も優れている、まさに完璧な人間だ。どんな難事件もたった一人でも解決へと導いてしまう右京だが、そんな右京が解決に導けなかった事件があった。それは、ある男たちの起こした事件が公になっておらず、「犯人」として容疑者に上がっていなかったため、右京は彼らに自首を促した。しかし犯人達は「アンタに俺達の何が分かる」と応じようとしない。そんな彼らの気持ちを動かしたのが、初代相棒の亀山薫だった。「アンタたちのやったことは間違っている。でも、そうせざるを得なかった気持ちもわかるんだ。だから、罪を償い、人生をやりなおしてくれないか」と、右京とは対照的に、犯人達に寄り添う亀山の言葉に男達は心を開き、やがて自首を決心する。右京は「君はいつも僕のできないことをやってみせる」と驚いた。10年以上続くロングシリーズの相棒でも、かなり特殊な話だが、二人の関係性をよく表したエピソードでもある。つまり、悪を許さず、卓越した洞察力と行動力で数多くの事件を解決してきた右京でも、心の弱さ故に悪に手を染めたり、ドロップアウトしてしまった人の心を救うことができたのは亀山だったのだ。
如月塔子は、そんな亀山薫と通じる不器用さ故に、犯人達の心に寄り添える人間味を持ち合わせているように感じる。だからこそ、警察を憎んだトレミーや、他の犯人達の気持ちを動かし、事件を解決へと導く事ができた。
塔子がシリーズを通して一人の刑事として成長していく姿は見ていて心が打たれるものがある。
また、本作では菊池凛子の怪演が光っていた。トレミーと同様、彼女に焦点を当てたスピンオフも観てみたい。