なっこ

G線上のあなたと私のなっこのネタバレレビュー・内容・結末

G線上のあなたと私(2019年製作のドラマ)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

※あらすじはTBS公式サイトより転記、編集。

(第1話 あらすじ)
「ごめん、今になって」「すきな子がいる」と、小暮也映子(波瑠)は寿退社間近に婚約者から婚約破棄を告げられる。放心状態でフラフラと立ち寄ったショッピングモールで「G線上のアリア」の生演奏を耳にしたのをきっかけに、大人のバイオリン教室に通い始める。
教室で同じクラスになったのはイマドキの大学生・加瀬理人(中川大志)と主婦の北河幸恵(松下由樹)。人間関係もバイオリンも一筋縄ではいかない3人を取り巻く人間模様と、それぞれの想いが交錯していく…。

(感想)
もう大人だから何者にもならないって、本当にそうだな。でも、今の私は何者か、と言われるときちんと答えられる自信がない。何者かになりきれずにただ生きてるのが現実だと思う。失恋の悲しみ方は人それぞれで誰かに推し量ってもらうものでもない。也映子には也映子の傷付きや悲しみがある。理人には好きな人の、自分にとって特別な人の心の痛みしか見えていない。でも、それが恋だと思う。大切な人が苦しんでいるから辛い、なんとかしたい、そういう初恋って、良いな。
それぞれ年齢も立場も違う3人。この3人ってとこが良い。三という数でしか築けない人間関係もある。トライアングルなバランス。この3人がそれぞれの幸せを見つけてほしいなと思う出会いの1話目。

(第2話 あらすじ)
初めての発表会を前に、バイオリン練習に熱が入る3人だったが、さんざんな演奏に意気消沈。そこで、幸恵は、夫の弘章(小木博明)と姑の由実子(夏樹陽子)が不在の週末に、自宅で練習会を行わないかと提案。幸恵の娘・多実(矢崎由紗)のピアノ伴奏に合わせ楽しく練習をしているところに、姑・由実子が突然帰宅する——。ショックを受ける幸恵だが、理人が思いがけない言葉を掛ける。一方、也映子はそんな2人の姿を見てなんだかもやもや…。

(感想)
理人と弥映子の電話のシーンが良かった。ほんと、今の人は電話とかしない。でも、弥映子が“あのねぇー”とトーンを変えて話し始めたとき、聴きながらドキッとした。きゅんとした。惚れるならここがポイント。電話を通しても耳元で囁くように優しく励まされるって羨ましい、視てる私もついでに力をもらった。
片想い、しかも初恋をこじらせちゃうともう何か恋じゃないシロモノに育っちゃうこともあると思う、もう習慣とか本能とかそういうレベルでの好きであってなんか刷り込まれて神聖化されてると言うか。そういう雰囲気を理人と眞於からは感じる。
あと、“名前呼び”で親密さをはかるところが面白い。気持ちが近づいていけば名前で呼びたくなるもの。何でも言い合えるって実は家族になる程近くに感じる人にしか出来ないことだと思う。

(第3話あらすじ)
秋の発表会で「G線上のアリア」を披露することを決めた也映子ら。理人のスパルタ指導のかいもあって、也映子と幸恵ら3人の仲も深まってきた。そんな折、眞於(桜井ユキ)の個人レッスンを受けている金髪のバンドマンが眞於をデートに誘う姿を見て嫉妬する理人。一方、理人の眞於への真っすぐな恋心を知った也映子は、ふざけてからかってしまったことを後悔していた。発表会が近づき、練習に余念のない也映子だったが、家庭や学校と3人の予定が合わない日々に淋しい気持ちに…。
ついに訪れた発表会当日、緊張と期待に胸を膨らませる也映子の元に幸恵から一本の電話がかかってくる――。

ここで描かれている女性はみんな立場が違うけれどそれぞれ共感できる部分がある、それぞれに魅力的とも言えるけれど。個人的には眞於と理人兄のお別れの本当の理由が気になるから掘り下げてほしい。
それにしても酔っ払って手繋いではぐれてシャッターどん、ですか。なんかもう理人みたいな男の子は少女漫画の中にしか存在してないと分かっていても、きゅんとする。波瑠さんは、理人の前で同級生女子みたいなノリの時とちゃんと大人の女性らしくきちんとするところとが見事に同居した素敵なキャラクターを丁寧に演じていると思う。もう惚れ惚れ。文句なしの可愛らしさ。

(第4話あらすじ)
秋の発表会を終え、心機一転、就職活動を始めた也映子。しかし、これまでに経験のない音楽関係を希望するがゆえに就職活動は難航していた。さらに、2人で打ち上げをした後に酔っぱらった理人の予想外の一言に心は混乱しているが、理人は覚えていないようで―。そんな中、也映子は姑・由実子(夏樹陽子)のリハビリに付き添う幸恵を訪ね、3人でミニコンサートを開かないかと提案。発表会に3人揃って出られなかったことを残念がる也映子の提案に前向きな返事をした幸恵だったが後日、何も告げずにバイオリン教室を退会してしまう。
幸恵と理人との最後のレッスンの日、也映子は二人に少しでも教室に顔を出してほしいと連絡をするが、二人とも来ないとの連絡が入る――。

“好き”って暴力なのかな。眞於さんの言葉はほんの少しの会話なのにパンチが効いてる。酔っ払ってまた理人から手を繋いだふたりを無音で始まるG線が包む、あの瞬間、漫画にしか描けないはずの世界観を見事に映像の形に変換しているように感じた。漫画は未読なのに。好きって気持ちだけじゃ確かに全てを乗り越えてはいけない。それでも暴力じゃない“好き”の世界をふたりならきっと歩いていける。ふたりならそういう世界をきっと見せてくれるはず、そんな予感がした。

(第5話 あらすじ)
就活に加え、婚活をはじめた矢先、元婚約者の智史(森岡龍)と偶然再会した也映子。智史の近況を聞き、懐かしい気持ちになった也映子だが、なぜか頭には理人の姿がチラつき戸惑ってしまう。そんな中、也映子は参加した婚活パーティーで地味だが温和で誠実そうな白鳥敬一(えなりかずき)とカップル成立。白鳥の人柄に好感を持つ也映子だが、白鳥といるときの自分にどこか腑に落ちないものを感じていた・・・。一方、姑・由実子のリハビリに付き添うため、バイオリン教室を退会していた幸恵からバイオリンの練習会に誘われた也映子と理人。しかし、久しぶりに3人で集まれると大喜びの也映子の元に、突然白鳥からデートの誘いが舞い込む。幸恵の後押しもあり白鳥とのデートに向かった也映子だが、理人はそんな也映子の行動が気に入らない様子で――。

今回のキーワードは“時間”。気が付いたら一緒に過ごしてしまっている人、確かに、也映子と理人はそんな感じのふたりだ。ただ“結婚したい”と“この人と、結婚したい”の間には確かに大きな溝がある。自分の大事な時間を誰のために使いたいのか、それを考える軸にすることはとても意味のあること。幸恵の言った“時間”の意味は、“積み重ね”だと思った。お姑さんとの化粧のシーン。何気ない感じだったけど、私は涙が止まらなかった。幸恵さんの強い意志を感じた。彼女は本当に強くて優しいステキな女性だ、こんな風に介護を頑張っている人はきっと沢山いる。積み重ねた時間が簡単には断ち切れない絆をつくる。初めは他人だった人と家族になっていくには、星の王子さまのキツネが言うように時間をかけて飼い慣らすことが必要なんだろうな。

(第6話 あらすじ)
婚活パーティーで白鳥とカップルになったものの、白鳥のアプローチを受け入れられなかった也映子は交際を断り、婚活サイトも退会する。気分を新たに、理人とコンサートの計画を立てていると、理人に好意を寄せる結愛(小西はる)が現れる。理人にバイオリンを教わり、嬉しそうな笑顔を見せる結愛。そんな2人の楽しそうなやりとりに居心地の悪さを感じる也映子。
理人は、兄・侑人が眞於と密会していたことを知り、激怒する。しかしそんな理人の態度に、侑人の心境にも変化が……。
そして、也映子、理人、幸恵の3人が久しぶりに揃っての合同練習の日。
久しぶりの集合に喜ぶ也映子だったが、理人のある一言でひどく傷つき、気まずくなってしまう。そんな中、ある日並木楽器店で也映子と理人は偶然遭遇して――。

「誕生日は嫌いだー。自分を見てくれている人を数える日みたいで。」名言だなあ。分かる。誰がちゃんと自分を見ていてくれるのか、それが分かってくる回だったな。
弓の試し弾きで也映子とふたりきりになってバイオリンが好きなことを実感した理人。と、言うよりも私にはあの時間、二人だけの世界がそこに開けた気がしてる。「寝るなよ」とか言いながら聴かせるバイオリン。未来につながる素敵なふたりの世界。あんな風に時を重ねていける相手がいるって素敵。このふたりは互いをよく見てる。お金がないとか言いつつちゃんとプレゼントを買ってあげるところも良い子だ、理人くん。

(第7話あらすじ)
大学の臨床実習で忙しい理人や娘・多実の受験を控える幸恵を慮る也映子は、3人でのコンサートの延期を提案する。明るく振る舞う也映子にほっとしつつも、理人はどこか淋しさを感じていた。
そんな中、長らく就活に苦戦していた也映子の再就職が決まる。新たな職場に奮起する也映子だが、忙しさのあまりバイオリンの練習時間を捻出できず、理人や幸恵ともすれ違うように…。
一方、治療の効果を感じた眞於はバイオリンの演奏会に出ることを決意する。バイオリンと再び向き合い始めた眞於だったが演奏会直後、突然音楽教室に辞めたいと伝え、連絡も取れなくなってしまっていた――。心配する3人だったが、也映子は理人に眞於のところに行くように言う。しかし、行かせてから自分の気持ちに気づき…。

理人の也映子を見守る視線が優しくなった。季節が瞬く間に過ぎていくけどちゃんと積み重ねたものがふたりの間で育っていってすれ違い始めるとふと会えないことに違和感が…っていう理想的な流れ。教室まで来たのに会わないとかいう微妙な気持ちの揺れの表現と電話での会話の間が絶妙。久しぶりに教室に現れた幸恵との楽しい会話の背景であたふたし出すバイオリン教室の事務員がそこから始まるドキドキの急展開の序章になってて面白い。
也映子は鈍い人ではないと思う。常に目の前の人と、そこにいない誰かの気持ちをきちんと考えてあげられる優し人。自分よりも先にそういう人たちの気持ちを察して動いてしまう。結果自分が傷付くことに少し鈍感。そういう彼女の性格の良さがよく出た判断だった。よく出来たね、偉かったね。そんな言葉を彼女が期待してなくてもそう言ってあげたくなる。そして理人が眞於の部屋の扉に消えたところでシュッと終わる格好良さ。もうこの先が気になるじゃない。

(第8.9.10話 あらすじ)
理人に傷心している眞於の元を訪ねるように自ら後押しした也映子。
しかし、その後自分の気持ちに気づき、思わず幸恵に本音を吐露し、泣き出してしまう。
一方で、理人は眞於の元に行ったことで、自分の也映子へ対するの恋心を自覚しはじめる…。
その後、”三コン”の開催が迫り、練習にも真剣さが増す3人。これまで以上に、理人のスパルタ教官ぶりに拍車がかかっていた。
そして訪れたミニコンサート当日。
家族や友人ら大勢が集まる中、幸恵は家族への気持ちを、也映子はバイオリン教室での思い出や眞於とのことを語り始める。
そんな也映子のスピーチを、横で聞いていた理人は内緒で録音していて――。

理人とのデート当日、緊張のあまり体調を崩してしまった也映子。一方、理人は会いたくないから断られたのではないかと疑心暗鬼になり、也映子の自宅を訪ね、困らせてしまう。
也映子の部屋で2人になり、ようやくお互いの気持ちを確かめ、ついに付き合うことに。両想いである嬉しさを噛み締める也映子だが、8歳も年下の理人との交際に戸惑いを隠しきれず、空回り…。
そんな中、也映子と理人が2人で出掛けているところに、夫・弘章の態度にイライラを募らせていた幸恵が家出をしたという連絡が入る。

家出した幸恵の気持ちを察した也映子は、理人と共に北河家に向かうことに。
北河家では、姑の由実子が弘章に幸恵の元に向かうよう促していた。
ひょんなことから弘章らと共に、也映子と理人は幸恵を一緒に迎えに行くことになる…。予想外な弘章の行動にほだされ、幸恵は家族の元に帰ることを決めてほっとする一同。
そんな中、也映子は理人に対してすぐに「好き」の先を求めてしまう自分に不安を感じていた。一方で理人は、8歳の年の差に不安を抱いている也映子を安心させられない自分に不甲斐なさを感じていて――。
そんな折、バイオリン三銃士の3人はとあるパーティでバイオリンを弾くことになる。


幸せのその先をなかなか描けないでいる、そんな恋愛ドラマが多い中でこれは成功している方だ。
ヒロインの理人との未来に対して尻込みしてしまうような不安は、すごく共感できる。それを上手く相手にぶつけられずにいたところに幸恵が鏡となって間に入り込み理人に反射してエレベーター内での素敵なhug &kissシーンに移行していく展開はお見事でした。

人間関係のベースには「人間愛」がちゃんとあること。ゆるくつながったその先に「家族」というしんどいけれどそう簡単には崩れない確かな関係性を築いていくこと。そこから逃げないでいる女性の強さと連帯がきちんと描かれている。世代や立場の違う幸恵や恋のライバルでもあったはずの眞於との友情からそのことがよく分かる。

「好き」から始まってもその先にしんどいことは待っている。それでも最初の「好き」から離れずに一つひとつ乗り越えていくこと。
少女漫画のハッピーエンドの向こう側にある主婦の幸恵の日常をきちんと描いてくれたこと。家族という縛りから逃げて独りになって経済的にも精神的にも自立する道を、選ぶこともひとつの強さなのかもしれない。それでも淡々とけれど決して平坦でない日常を逃げずに乗り切っていくこと、それも女性の強さだと思う。日常から大きくはみ出さない幸恵の姿に共感し力をもらった女性は多いはずだ。常に自分を鼓舞して乗り越えていこうとする彼女の姿に私はヒロインと同じように力をもらった。
こういう女性を描いてくれて本当にありがとう。
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