ジェイコブ

ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤のジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

これは、現実とは異なるもう一つの世界の話。そこは教権と呼ばれる強大な組織が権力を奮い、「神の教え」をもとに世界を支配下に置いていた。孤児として、学び舎のジョーダン学寮で育てられたライラは、親友のロジャーと一緒に、いつか冒険の旅に出ることを夢見ていた。そんなある日、教権からやってきたコールター夫人に見初められたライラは、夫人の助手として雇ってもらえることに。待ち望んだ冒険に出られる事を喜ぶライラ。そんなライラに、恩師の学長は、「真理計」と呼ばれる黄金の羅針盤を託す。出発の日、ライラはロジャーを探すが、どこにも姿は見当たらず、突然失踪してしまった。ライラは消えたロジャーの手がかりを探すべく、夫人と共にジョーダン学寮を旅立つ。一方その頃、各地では、ロジャーと同じように子供達が誘拐される事件が相次いでいた……。
児童小説が原作のドラマ。映画化された際は、ニコール・キッドマンが出演して話題となった。HBO制作で、監督は「英国王のスピーチ」や「レ・ミゼラブル」などで知られるトム・フーバー。HBOということでエログロ満載なドラマかと一瞬身構えてしまったが、原作の世界観を崩さず、なおかつゲームオブスローンズで魅せてくれたような壮大かつ圧倒的な世界観のハイクオリティファンタジーを作り上げている。(何より、オープニングに痺れる)
本作の世界に住む人々は、自らの魂の分身である「ダイモン」と呼ばれる獣を持っている。ダイモンは、子供の頃から人と共に生きて、成人を迎えると同時に姿形を定める。始めはフェレットだったのに、大人になったら猫になったなど、驚くような変化を遂げる。ここで重要なのは、ダイモンは人間が望む姿に変化するとは限らないということである。ライオンになることを望む者が多いが、大抵は叶わず、別の動物になるケースがほとんどだと劇中でも語られている。それはまるで、子供の頃はパイロットに憧れていた少年が、大人になると、公務員になりたいというように。つまり、ダイモンは子供達の持つ「可能性」を象徴しているのだ。
物語が進むにつれて、ライラはジョーダン学寮に預けたアスリエル卿が実の父である事を知る。長い旅を経て、遂にアスリエルのもとへたどり着いたライラだったが、彼はライラの思いをよそに、人間の自由な意思決定は悪であるとする教権に抗うため、ライラからかけがえのないあるものを奪い取る。アスリエル卿は極悪人であるかどうか? その判断は観ている人に委ねられるだろう。彼は自らの研究が正しいことを世に知らしめるため、ライラを裏切ることになる。彼の取った行動は、人道に外れており、目的のためには手段を選ばない教権となんら変わりはない。しかし「それ」をしなければ、研究は完成することはできなかったのだ。現実でも仕事と家庭、どちらを優先するか悩む人が多いが、アスリエルはある意味その究極の状況で二択を迫られ、仕事を取ったにすぎないのだ。家庭を持つ人から見たら、最後まで身勝手な最低最悪男なのだが、仕事に人生を捧げる人達からすれば、一概に悪とすることはできないだろう。
本作は裏テーマとして、「親子愛」がある。ライラは実の親であるアスリエルとコールター夫人を見つけ、愛情を求めたが、二人とも実の親子としてライラに無償の愛を与えることはなかった。それと対比するかのように、途中ライラを助けたジプシャンのマ・コスタはどんな手を使ってでも我が子を助けようとする姿勢を見せた。マ・コスタの行動が、ライラに親とはどうあるべきかを悟らせたことは言うまでもなく、彼女との出会いのおかげで、コールター夫人の自分にかける愛に対して疑念を抱く事ができたのだろう。
HBO制作のドラマで、親子で見ることも薦められる数少ない作品の一つ。今後の展開が楽しみ。