mimitakoyaki

椿の花咲く頃のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

椿の花咲く頃(2019年製作のドラマ)
4.5
Netflixが完全にわたしをダメにしていってます。
もう韓国ドラマの沼にハマってしまい抜けられそうにありません。

愛の不時着ロスを引きずりながら見始めたのですが、はじめの何話かはちょっと退屈で、コレが絶賛されてるの?と疑ったりもしましたが、どんどん面白くなっていき、恋の行方、連続殺人事件の展開、さまざまな親子関係や夫婦関係などがてんこ盛りで描かれ、愛するということはどういうことか、幸せとは何かを問いかけ、この社会の中で生きづらさを抱えながらも懸命に生きる人たちへの、優しい応援歌になってるのがとても心が温まり感動しました。

主人公のドンべク(椿の意味)はソウルから南部の港町オンサンに来てスナックを営むシングルマザーです。
小さな田舎の町なので、スナックで働いてるとかシングルマザーという事で、差別や偏見が強くなかなか町に馴染めません。
町の派出所の巡査ヨンシクはドンべクに一目惚れしてから猛アタックするのですが、ドンべクには8歳の息子がいて、その子の父親も現れるし、ヨンシクの母親には交際を猛反対されるし、5年前から起きてる連続殺人事件の犯人がドンべクを標的にしたりと、それはもういろんな事が起きます。

このドラマに出てくる人達は、みんな一筋縄ではいかない人達で、ずっと差別され蔑まれて生きてきたために自尊心や肯定感が低く、周りの顔色を伺いながらオドオドして、自分の意思も自信も持てずに苦しんでるドンべクや、愛や温もりを知らずに大人になり、愛される事を渇望したヒャンミ、妻として女としての役割を押し付けられ閉じ込められて鬱屈してる弁護士のジャヨン、有能な妻と比べて劣等感から自分を大きく見せようと居丈高になってしまうが自分を尊重されたいギュテ、息子やドンべクを愛しているが、自分の思いを押し付けてしまうジョンニョル、自尊心が低く空虚で精一杯自分を飾って認められたいジェシカなど、まだ韓国に残る家父長制からくる男尊女卑の風潮によって、男性も女性も苦しめられます。

しかし、巡査のヨンシクはまっすぐで熱くて、惨めな人生だと思っていたドンべクに、幸せになる資格がある、今のあなたが素晴らしいんだといつも受け止めて励ましてくれるんですよね。
スナック勤めだとかシングルマザーだとか、世の中の人がどんなに冷たく後ろ指をさしても、ヨンシクはドンべクが一人息子を育てながら懸命に生きてる事をそのまま全肯定してくれる、その優しさと誠実さがもう素敵すぎるんです。

ありのままの自分が受容され愛される事で、ドンべクがどんどん成長し、さまざまな困難を乗り越えて強くなっていき、自分の人生を自分が決めて前を向いて歩めるようになっていったのがとても良かったです。

親子愛についても、それぞれが相手の幸せを願っているからこそのぶつかりやもつれもあり、そのままならなさに苦しくなるのですが、ひとりひとりの人生や関係性がとても丁寧に描かれているために、どの人も愛おしく思えるし応援したくなります。

「愛の不時着」もめちゃくちゃ好きで、リジョンヒョクに心を奪われメロメロになったものですが、「愛の不時着」は上流階級のお姫様と王子様の美しい物語といった感じなのに対して、この作品は、小さな町に住む市井の人々が描かれていて、「愛の不時着」のような甘いメロドラマではなくもっと現実的でシビアです。
でも、どの人の人生も尊いし、あなたの存在は尊いというメッセージがすごく胸に響きました。

ヨンシク役のカンハヌルは前から好きでしたが、お節介で暑苦しいところがありますが、ほんとに優しいし大切な人を懸命に守ろうとするところがハート鷲掴みです。

ドンべク役のコンヒョジンは、はじめは、この人がヒロインなん?って思ってしまいましたが、みるみる可愛くなって素敵で魅力が溢れていました。

ドンべクの母親役には、パラサイトの家政婦さんが強烈だったイジョンウン。
この人がまた素晴らしいんですよね。
このお母さんのストーリーは涙なしには見れなかったです。

「愛の不時着」で人民班長だったキムソニョンは今作でも似たような役どころで、一度見たら忘れられないこれまた濃厚なキャラを演じていました。
このおばちゃん軍団が今作でもいい味出してて、よくこんな良いおばちゃんを集めてきたもんだなと感心しました。

弁護士のジャヨン役のヨムヘランもすごく良かったです。
実はこの人が出てる映画を知らずにたくさん見てて、「無垢なる証人」「8番目の男」「海にかかる霧」その他いろいろでチョイ役なのにあの顔のインパクトでいつも爪痕しっかり残していく素晴らしい女優さんです。

「愛の不時着」のリジョンヒョクもそうでしたが、この作品のヨンシクでも、女性に対して、女の役割を押し付けたり、男のために何かをさせる、下に見て従わせる、或いはマウントをとるみたいなことがなくて、女性が働く事、自分の生き方を自分で決める事など、女性をひとりの人格として尊重してるところがすごく良いんですよね。
日本と同じようにジェンダーギャップが世界的に見ても大きく、女性の地位が低い韓国ですが(ここ数年は日本よりもだいぶマシですが)、大ヒットしてるドラマを見てると、その辺はかなり意識して作られてるんだろうなという気がします。
そんな行き届いたところや、笑いあり涙ありサスペンスありで、しかも温かな人間賛歌になってるところが素晴らしかったです。

3

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2回目: 2022.5.4

このゴールデンウィークに一気見してしまいました。
2年ぶりに見たので、結構忘れてるところもあり、十分新鮮な気持ちで楽しめました。

主人公のヨンシクがめちゃくちゃ素敵なのは言うまでもなくて、ドンベクに寄り添い、勇気づけ、尊重する、そういう関係が見ていて本当に安心できるんですよね。
どんなに愛していて大切に思っても、自分の思いを相手に押しつけてしまうジョンニョルや、劣等感の塊で自分の空虚さを満たそうとして虚勢を張るギュテと対照的です。
従来の「男らしさ」に囚われていては誰も幸せになれないし、そういった「有害な男らしさ」から解放された新しい魅力をヨンシクを通じて伝えてくれたのがとても良かったです。

そして、ドンベクだけでなく、ヒャンミやジャヨン、お母さんの人生を丁寧に描くことで、ままならない人生だけど、その中で精一杯生きてきた女性達を温かく肯定してるから、どの人も素敵だし応援したくなります。
そして、はじめはバラバラだった女達が繋がりだしてからのパワーがすごい!
女の強さ、底力を感じさせるし、女性達の連帯ってやっぱり熱い!大好き!
憎んでいた相手でも、その人の事を知っていくと、わだかまりが解け、その人のために力になろうとするシスターフッドが爽快でした。

韓国ドラマにありがちな、交際や結婚に猛反対する親もやはり出てきて、あまりに子どもの恋愛に口出ししてくるから、それが毎度のことですがイライラしました。
もちろん日本だって親の反対はあるけど、こんなに言う?って思うし、もし自分の息子が、子連れの女性と結婚したいと言ったらどうかと想像してみたけど、本人が連れ子のことも愛して親になれるならそれで良いと思う方だから、子どもの恋愛にめちゃくちゃ介入してくる親は見ていてしんどいです。
子どもの幸せはもちろん願ってるけど、子どもは親の所有物じゃないし、自分の人生は自分のものなんだから。

だから、ヨンシクの母親だけでなく、子どももいい年になってるのにウザ絡みしてくるギュテの母親とか、ジェシカの母親も異常に感じました。
まあでも、そんな強烈オンマも少しずつ変わっていったところが良かったです。
韓国ドラマあるあるですが、親子のつながりが濃厚すぎて、それで感動もするけどしんどさもあるというやつです。

ほのぼのとした港町の人間模様に連続殺人事件を絡めることで、スリリングな展開が間に入るので、メリハリが効いててどんどん引き込まれていきました。

か弱かったドンベクがどんどん強くなり、誰かに守ってもらうだけの存在ではなく、自分自身が力を持っていくのも、周りの人たちの小さな力が集まって大きな力になってくのもユーモラスであり心が温まりました。
力が集まれば「政権だって倒せるのよ!」って言葉は韓国人の実感としてあるのも素敵でした。

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