なっこ

トキメキ☆成均館スキャンダルのなっこのレビュー・感想・評価

3.3
幼いユニが屋外でかじかむ手で聞きかじった書を書き写しているシーンは、紫式部が弟の隣で漢詩をスラスラ暗唱してみせたという幼少期のエピソードを思わせた。もしかしたら、大陸や朝鮮半島のお話も根っこの部分ではこの島国の物語とつながっているのかもしれない、そんな風に感じた。

男を装うヒロイン

政治と女性というテーマがあるからか、大河ドラマの直虎を思い出してしまった。彼女は尼僧であったから恋愛の要素は少なかったけれど、戦国の世に小国を女性の手でどう治めるか、その奮闘ぶりを思い出す。そして、自らの性を偽るという点では、最近漫画化された古典のとりかへばやを思い出した。さいとうちほさんのエンタメ色が強い脚色は従来のものよりも物語に勢いがつき、戦うヒロイン像としてこれ以上にないほど美しいものとなっていた。立身出世できる男として生きたいという欲望と女としても想い人から愛されたいという葛藤を抱える点で、ユニとも重なる点があった。

古からある男装の麗人や男女の入れ替え物語に心惹かれる理由は何だろう。

自分だけが相手の秘密を知っているという共有だろうか。それとも、男にも女にも見える美しさという両性の魅力を兼ね備えた魅力的なキャラクターだろうか。
いや、制約によってその恋が簡単には結ばれないというジレンマだろうか。
それら全てでもあるし、生まれ落ちた社会の価値観で男女という区別をつけられ生き方を制限されてしまう、そういう運命に抗おうとするヒロインが私には魅力的に映るのだと思う。“ジェンダー”というテーマを考えさせてくれる物語を好んで選んできたのかもしれない。

性を見つめるまなざしの問題

LGBTの物語が多く作られ始めた昨今、“性”の問題を主人公が成長していく過程において心の複雑な変化とともに描くことが主流になってきている気がする。
自分が何者であるかを問い始める思春期は、見た目の“性”によって判断されたり評価されたりすること、またはその性的な魅力ある存在として他者から“見られる”存在であると自覚し始める年齢でもある。ユニにしても、始めは弟の名を借りてお金を稼ぐために男を装い、そして、女には男のように学んだり働いたりすることのできないことに理不尽さを感じていた。しかし、成均館で学ぶ中で友を作り、心を通わせ始めた相手に、本来の姿の女として“見られたい”という欲望も目覚めていく。“僕はこんな格好をしているのに”と、男の姿を残念に思っている台詞はそのことを示している。
さいとうちほ版とりかえばやも、男の子のように遊び男の子のように仕官し出世していくことを望んでいたヒロインが女だと知られてしまった男と望まない関係に陥っていく過程で女の身である自らが男として生きていくことにはやはり無理があったと思い知らされる。そして、入れ替わりの姫の格好をしたヒーローの方も仕える姫君に男としての気持ちが芽生え、自分自身がその相手の脅威となってしまうことに気が付き悩み始める。触れたい、近付きたい、そういう制し難い欲望との葛藤は、誰かの中に惹きつけられるものを発見した時から始まり、誰もがそこを通って自分の性的志向に目を向け始める。身体が二次性徴を迎えたときに、多くの人が心も今までとは変わってくる。自らが性的な存在であり、性的に“見られる”存在として成長したという事実を、受け止めていかなければならない。ソンジュンのユニに対する抑えがたい衝動も、彼の前で女の姿でいられる婚約者を嫉妬の眼差しで見てしまうユニも、恋によって自らの意思とは違う感情に悩まされるところは、とても人間的で、自然な流れだ。そして恋の成就と、社会的に果たしていきたい役割を自ら選び取ることはまた別の問題として残しておいたことがこの物語の成功だと思われる。装うことで表現したい性と、惹かれる性、そして自ら実現したいことが社会的に許される性、それが一貫していれば、単純でさほど生きづらくはないだろう。けれどそれらは、それぞれにグラデーションがあり、自ら選んだり、何かの力で選ばされたりしているのが現実だ。ユニのおかれた状況は、思うように生きるにはなかなか厳しく難しいものだった。その状況をよく理解してくれる相手に出会えたことは幸運だったと思う。
入れ替わりの物語はそれぞれの性がその社会でどのように生きるべきか運命付けられていることをよく表出させる。もし反対の性に生まれついたなら、という“if”のstoryを描けることが、この設定の魅力だとも言える。

女同士の絆

ただ少し気になるのは、ヨンハとジェシンのような男性間の友愛は美しく描かれるのに対して、女性の連帯は緩やかであえて避けらているようにも見える。しかしながら、ユンシクが女だとわかってからのヒョウンの行動やチョソンの決断は、勇気があり、何らかの信念を感じさせてくれるとても好感が持てるものだった。

父から子へつながっていく物語

そして、この物語のもう一つのテーマは父と子。早くに亡くした父を思慕するユンシク。兄を亡くしたことで反発を続けるジェシン。父を模範として尊敬するソンジュン。花の四人衆が学友という横の関係と父子という縦の関係としても絡み合っていく人間模様も興味深かった。特に王の密命を受けてからラストに向かって畳み掛ける展開は目が離せなくて、愛憎を越えて深まっていく四人の絆がとても美しかった。