真田ピロシキ

逃げるは恥だが役に立つの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

逃げるは恥だが役に立つ(2016年製作のドラマ)
4.7
やたらと長く重くすればいいと思っているアメリカ映像コンテンツに嫌気が差して見たこのドラマめちゃくちゃ面白い。深くて広いよ。ヌルいだけのラブコメではなくシビアな面が随所にあるのだけれどそこを必要以上にしかめっ面してアピールはしない。

大学院まで出たのに派遣社員で糊口を凌いで妄想情熱大陸で自分を奮い立たせている冒頭のみくりさんから既に苦い。就職で拒絶されすぎて自尊感情が下がったあまり、アルバイトである家政婦先の独身男に永久就職という形で契約結婚を申し出る。本来ならこの時点でヘビー級。みくりさんの叔母の百合さんも仕事の出来るアラフィフ独身女という自分自身に期待される役柄を背負わなくてはいけなくて、今更恋愛なんて出来るわけないましてや下手すれば親子ほど年の離れた相手などと諦めさせられている。イケメンにゲイに元ヤンのシングルマザーに帰国子女と様々な人達が世間からの見方に縛られていて、そうじゃなくて良いのだと肯定する本作が大ヒットしたのは窮屈な日本に苛まれる人達の結構な救いになったと思う。正直言って日本のドラマをどこか軽んじていたのだけれど、それも極めて狭いものの見方でしかありませんでした。反省。

かくあるべき姿に雁字搦めなのはもう1人の主人公である平匡さん。自尊感情が低すぎて傷つくことに臆病なあまり好意を抱いてくれるみくりさんにすら心のシャッターを開けられない。平匡さんを繊細で傷つきやすい(それは本当)ただの可哀想な弱者とは位置付けず、その卑屈さがどこかで人を無神経に傷つけていなかっただろうかと自省させ他者を愛せるまでに至るカウンセリングが展開される。ここも広い層に突き刺さる。平匡さんを見て頭をよぎったのは最近読んでる本の一節。「原則的には私自身もまた他人と同じように私の愛の対象である。(中略)他人しか愛することができないものは全く愛することができないのである」こうした深さを軽妙に描ける本作は相当に優れている。

軽さの中には情熱大陸から始まって終いには真田丸まで網羅するパロディもあるが、ここは寒いと思う人もいるだろう。時代を経たら通じなくなるので結果的にはドラマの広さを狭めているかもしれない。でも気になったのはそのくらいです。登場人物全員好きになれるね。みくりさんと平匡さんは勿論、イケメン風見さんと百合さんの年の差カップルも幸せになってほしい。イチ推しは個人的にヤンキー女ブームが来てるので元ヤンママのやっさん。安恵だからやっさんだ。ヤンキーのやっさんなどと言う奴は頭を叩きつける方の壁ドンの刑だぞ。