たまこ

フィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリームズのたまこのレビュー・感想・評価

3.8
SF作家フィリップ・K・ディックの短編小説をもとにした、1話完結型のドラマシリーズ。全10話。

作家のことは知らなかったけれど、数話観て『ブレードランナー』や『トータルリコール』の世界観と近いことを感じた。

どのストーリーもキャストが豪華で物語の完成度も高いが、わたしが特に好きなのは2、3、9、10話目かな。少しだけご紹介。


3. 人間らしさ(Human Is)
厳格で冷酷な軍曹であるサイラスは、異星での危険なミッションから生還する。妻のヴェラは、戻った夫が以前の夫では無くなっていることに気づくが…。

どこかで何度となく見た展開なれど、冷め切った熟年夫婦間の仲が温まっていく過程には胸を打つものがあった。

『ブレイキング・バッド』のパンツ一丁でメタンフェタミン作ってる姿が板に付いていたブライアン・クランストンだが、演技がこんなに繊細だったとは知らなんだ。

『ブレードランナー2049』にも重なるけれど、地球外生命体やアンドロイドが心を持った時、「人間らしさ」がどういう意味を持つのか、というのがディックのテーマなのかもしれない。


10. よそ者を殺せ(Kill All Others)
工場勤務のフィルバートは、大統領候補がテレビインタビューで語った公約に「よそ者を殺すこと」というのが挟まれていたことを聞き逃さなかった。
職場やSNSでその話をするも、誰も関心を示そうとしない。そんなうち、人々はフィルバートを「よそ者」と見なし始める。

これってもはや未来の話ではなく、今現在起きている事じゃないかな?

キャッチーなもので目眩しされて大事なことが見え辛くなってないか?
権力者の放つネガティブな言葉がいつの間にか市民の思想に浸潤していってないか?

某国ではどうでもいい弱小議員の選挙法違反が毎日取り沙汰されて、お座なりなコロナ対策や直近に迫った都知事選のことがなぁなぁにされてたり。

某大国では大統領がヘイトスピーチをさらさらと呟き、排他的思想があちこちでうじゃうじゃと増殖してたり。

日々常に政治のことなんて考えてなんていられないけれど、おかしいものをおかしいと思える感覚は研ぎ澄ませておく必要があるね、という教訓的な作品。


SF好きならずとも楽しめる、かなり満足度高いシリーズ。
次シーズンもあるなら期待大。
たまこ

たまこ