「日曜日が終わらない」が「陰」だとしたら「水の中の八月」は「陽」(といったニュアンスだがそれでも切迫感は付き纏う)。冒頭の自転車2人乗りは北野武「キッズリターン」水槽は黒沢清「アカルイミライ」廃棄物置き場は岩井俊二「スワロウテイル」木更津のロケは宮崎駿「千と千尋の神隠し」と90年代映画の総決算良いとこどりの、全編に渡って画面下から上にかけて黄色→エメラルドグリーンのカラーフィルターと常に付き纏う死のイメージはソクーロフ的、邦画大傑作「日曜日は終わらない」の前日譚のようなあてどない青春ドラマの傑作。
「水泳なんて才能なんだから無駄な努力はするなよ」と在日コリアンの親友新井ヒロシが吐き捨てるが二輪単車に跨り泳がせたら学校一、かたやチャリで爆走する主人公の水橋は努力せどヒロシには敵わない。そんな中想いを寄せる転校生の橋本レイコにヒロシへの橋渡しを頼まれる水橋研二の気持ち分かりみしか無かった…なんせ私も親友に好きな人をとられたことがあるのでケンジ(水橋)負けるな、と前のめり。そんな三角関係のもやもやをプール、干潟、物置のような屋上、廃棄物置き場、廃屋、廃工場をチャリでゆく。水の中を走る自転車のイメージが円運動として執拗に反復され、解放のためのカウントダウンによってより追い詰められる。夜の屋外で麻雀する高橋明、若松孝二、友川カズキ、加藤正人の4人最高。一席、変わって欲しい。