ぐっない

Motherのぐっないのレビュー・感想・評価

Mother(2010年製作のドラマ)
5.0
「人間には、男と、女と、それともう一種類、母親というのがいる」

毎話泣いていた。最後の二話は、蛇口が壊れたみたいにずっと涙が止まらなくて、枕がびちゃびちゃになった。
こんなにすごかったんだ、と思った。幼少期に観て以来だった。
「母性」をテーマにして、これよりうまい作品が出てくると思えない。それくらい、ほんとうにすごかった。

田中裕子さんのすごさ。大きな演技をしていないのに、目の伏せ方、声の出し方、そういう節々から感情が伝わってきて、恐ろしいくらいに演技が上手い。昔観た時もすごく印象に残っていたけれど、ほんとうに、この人がいたからこそリアリティが増して、まるで本当にこの世界のどこかにいるような感じがした。悲しいけど、嬉しい、弱いけど、強い、みたいなそういう演技がうますぎる。
芦田愛菜ちゃんの「お母さん、いつ迎えにくるの?」の言い方。ずっと我慢していた子の、あふれてしまった涙。それだけでもう、心を引き裂かれそうになる。それから、ママに会った時の、「好きでも、嫌いでもないよ」。あんまりにも上手でびっくりした。その後の泣き方も。無邪気でありながら、周りの大人の顔色をきちんと伺ってわざと笑っているんだろうな、と思わせる演技がすごい。まなちゃんがかわいすぎて、余計このドラマの強度が増す。

坂元裕二は、大事な話をしているときに他のことを話すのが好きだなあ。病室のシーン、余命が少ないと話す田中裕子さんに対して、午年?と聞く高畑純子さん。こういうの、抜群にうまい。し、そうだよね、と思う。遠回りしないと、大事な話、できないよね。
あと、手紙も好きだなあ。届くか分からない手紙。この人の、敬語の書き方がほんとうにほんとうにすき。

「一日あればいいの。人生には、一日あれば。大事な大事な、一日があれば、もうそれで十分」

葉菜さんの人生を想うと、胸がきゅうと締め付けられる。継美にもらったビーズのネックレスをずっと着けている姿がもう。

ひとりでお母さんのところにきた継美。電車を乗り継いで、転んで、どれだけ心細かっただろう。くるしい。くるしい。
継美のすきなものノートに書いてあった、「じてんしゃの、うしろのおせき みみかき つめきり ふたつむすび よしよしされること ぎゅっとされること」が、くるしくてたまらない。ママに愛されてたんだな、と思うと、くるしくてたまらない。
8話で描かれた、ママのお話が、彼女を憎むことを許さない。

このドラマには、男の人がほとんど出てこない。母親たちはみんな、ひとりで子供を育てる。父親はどこ?どうして母親ばかりが責められるの?どうして父親は逃げられるの?
何ヶ月もお腹に赤ちゃんを宿す。体調の変化やつわり、出産を乗り越えて女性は母親になる。赤ちゃんは、親がいないと死んでしまう。だから母性が芽生える。じゃあ父性は?どうやって芽生えるの?体に何の変化もないのに、気がついたら産まれているのに。

女性は強い。強くならなきゃいけないから。
私のお母さんのことを思い出してもっと泣けた。
私はいつか母親になるのかな。なれるのかな、って、こわくなった。
ほんとうに、ほんとうにすごい作品。忘れるたびに観たい。
ぐっない

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