Blue

アンオーソドックスのBlueのレビュー・感想・評価

アンオーソドックス(2020年製作のドラマ)
5.0
主演女優のシーアハースの動作の仕草一つ一つ、表情の一つ一つに心の琴線が触れるというか、1話1話に涙が出る思いでみました。
抑圧されながらもその才能と努力でのしあがっていくクイーンズギャッツビーの裏盤というべき作品といえばいいかな。

ユダヤ人の超正統派ユダヤ教に属するコミュニティの実態のドラマ。そのコミュニティにたえられなくなり、ある女性がNYからドイツベルリンに逃走するドラマ。
このドラマを見るにあたってユダヤ人がどんな歴史だったか知るとこのドラマの内容がわかるので書きたいと思います。

ユダヤ人は中東の砂漠の民/遊牧民に追われて離散していき、様々な所で奴隷のように扱いを受け虐殺されたりする→→→ここで奴隷扱いされてる中でも、いつかユダヤの神、ヤハウェが私達ユダヤ人を救ってくれると信じるようになり、やがてなんとかイスラエル付近に戻る→→→

イエスキリストが現れてユダヤ人だけが救われるのではなく、誰でも神を信じるならば救われると説き人気を博す→→→

ユダヤ人からしてみると自分達を奴隷/虐殺してきた人々も救われると言って多くの人を惹きつけるイエスキリストを警戒して反ユダヤ行為をしてるとなり、ローマ帝国と共にイエスキリストを処刑する→→→

ゲルマン民族ならび神聖ローマ帝国によってキリスト教が広まりイエスキリストを十字架にかけた人種としてユダヤ人迫害がいっそう高まる→→→


超正統派ユダヤ教の人々は3歳になったら聖書読み、暗記します。5歳になったらタルムードという商法、刑法など様々な知識が書かれた本を勉強します。はっきり言ってとんでもない知識量で、一般的な人間が読んでも理解できません。

ただその知識を得るために集中特化するので世界情勢や他の事に対する知識は全くない状態です。

奴隷と虐殺されていく中で、彼らは自然に生き抜く事を前提とした教育プログラムと言ったらいいか確立したんですね。
歴史と知識だけは奪われないと、徹底的に教えます。
ヨーロッパを中心にユダヤ人は隅に追いやられ彼らの住む居住地をゲットーと言い、ここでもユダヤ人は迫害され続けます。
フランス革命によって民主主義が産声をあげ、王様/貴族階級の排除によって一般庶民からも優秀な人材が表に出てきます。ナポレオンがいい例で、隣国の王様は王制廃止が自分の国の一般庶民から出てきたらかなわないと考えてフランスを叩き潰そうとしますが、貴族ではないナポレオンが軍隊を指揮して返り討ちにするし、一般庶民も愛国心が芽生えて私達の国だという認識のもとで戦い勝っていきます。

これを受けてヨーロッパ諸国でも民主主義によって国を統治した方が強くなるという気運が高まり、また子供の時から自分がどの国の人間であるかという事を徹底的に教えて、それが逆に第一次世界大戦の時には少年兵がフランスならフランス人、ドイツならドイツ人みたいな愛国心を持って戦地に赴いて多くの犠牲がでるという事になります。

こうやって教育という概念も生まれてくるのですが、ユダヤ人はその前から特化した教育プログラムを構築していたので、職業上有利になったりします。

しかしそれがヒトラーによって敵意の対象になり、身体障害者を含めて彼らは憎むべき対象としてアウシュビッツをはじめ劣悪な施設に入れられて、やがてその施設が満員になると毒ガスにて殺されていくという流れができて、次々に虐殺されていきます。

こうやって少なくとも3000年以上に渡ってユダヤ人は迫害をされ続け、2022年の現在でもなお、ウクライナで戦争中ですが、ユダヤ系とわかるだけで殺される対象は高まるという現実があります。
ドラマでポグロムというワードが出てきますがこれはロシアのスターリン政権下でユダヤ人が虐殺された事です。

このドラマの主人公の女性が現在の価値観に照らし合わせて考えるとどれだけ虐げられてるのかがわかります。特に第3話は胸クソ悪くなるのは皆一緒だと思います。

しかしそれはユダヤ教が生み出した価値観なのか、それとも歴史的に迫害を続けられたからそういう価値観になったのか考える必要があると思います。
フランスやスペイン、イギリス、ロシアにしても他の領土を強奪してキリスト教でない人々を文明の遅れた人間として虐殺してたのに関わらず、ドイツ一国に第一次世界大戦の責任を押しつけて、貧困にあえいだ上にテロ国家のようになった事を考えると、ユダヤ人もまた迫害を受け続けたから極端な文化が生まれたのではないか、そして少なくともその犠牲になるのは子供や女性であるという事は揺らがない事実だと思います。

これは日本の歴史においても言える事です。

このドラマは多くを教えてくれると思います。

こうやって考えると宗教そのものが悪く言われがちですし、自分は無宗教だと言う人が増えてますが個人的に神がいようがいまいが、それは宗教とは関係ないと思います。

パワースポットがあればよくわからないけど拝んで運気が上がればいいと思い、神様とか仏のような大きい存在はいなくとも自分の飼ってる猫や犬が天使のような存在のように思っている時点で、もう何かを信じてる、何かに依存しているという風に考えられるのではないか。

御神木/ごしんぼくと言って単なる大きい老いた木が神のように扱われるならば、生きた可愛い犬や猫がなぜ神にならないのか、考えてみる事も良いでしょう。

人間は死ぬかぎり何か依存するものだし、その昔、医療がない時代は産まれてくる時点で6割以上が死に、3歳になれる子供もわずかで、生きる人よりも死ぬ人の方が多かった時代に、死んだ人間はどこに行くのかという事が最大の問題でした。

個人的に死後の世界を明確に言葉にできたのが宗教で、また言葉という道具は、死後の世界を明確にして発展してきたので、言葉そのものにすでに何かに依存してしまうプログラムが組み込まれていると思います。
無宗教とは何か?そしてそれは健全な状態なのか?

世界に関心を持つ事。それしかない。世界情勢に興味がなく、神も信じなくとも必ず何かに依存する。そういう人達の中でも自然にコミュニティが誕生して、集団心理が働きつつ自分達だけが良ければいいと外部の人間を極端に嫌う社会性が育まれ、外部の人間を嫌うという事はやがて内部でも身分制度が生まれて強者と弱者に分類されつつ、極端に弱者に依存していく事になる。

そしてその弱者は決まって子供や女性、LGBTQの人になる。

超正統派ユダヤ教や仏教、キリスト教にしてもイスラム教にしてもとてつもない哲学や思想のもとで形成されています。それは俺の頭では、俺の人生を一生勉強に費やしても全く足りないくらいです。

しかしたとえ巨大な知識の塊の上にあったとしても、人1人救えないのは、不幸にしてしまうようであれば、それは認めるわけにはいかない。

自分の友達のユダヤ人が言った言葉があります。

俺を他の白人と一緒にしないで欲しい。

このドラマを見て耳を傾けるところから始められれば。
素晴らしいドラマでした。
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