なっこ

天使にリクエストを〜人生最後の願い〜のなっこのレビュー・感想・評価

3.3
人生最後の願いを叶える天使たち

世の中で起こる事件、事故は、ひとつの動機、ひとつの原因、ひとつのきっかけで起こるわけじゃない。色々な糸が絡まり合って起こる。誰かの行動、誰かの感情、何か道すじがあるわけじゃない、意図しなかった結果に辿り着いた、ということの方がきっと多い。良い結果ならめでたしめでたしで、終わる。でもそれが悲しい結末であれば、原因を担った多くの人を傷付ける、自分を責め続けるひとつの事柄になる。過去は自分の影のよう。ついてまわる過去からは逃れることはできない。

“あなたが人の親だから、そして死を見つめた人だから”

依頼者である和子は、探偵に彼を選んだ理由をそう述べた。

死を見つめることは生きることを見つめること。近しい人を見送り、その死を受け入れていくことは簡単なことじゃない。いろんな葛藤がある。後悔や懺悔、自分や他者を罰する気持ち、憎しみ恨み、悲しみ、寂しさ、虚しさ。それら全部を乗り越えていくには相当な時間のかかることをそれぞれのキャラクターにたくしながら丁寧に描いているドラマ。私はこの物語はひとつの希望だと思った。これから死へと歩いていく私自身の。

自分の願いを乗せて最後の旅をするロードムービー。

依頼者を乗せて走る福祉車両がかっこいい。そう、かっこよくていい。消防車やパトカーが子どもたちの憧れの働く車であるように、いつかこのエンジェルカーがかっこいい車として当たり前に走る世の中になれば良いと思う。誰かの最後の願いを乗せて走る、走っている間はきっと、ああ今を生きている、乗っている誰もがそう確信しているに違いない。そして、その車はカーラジオから自分のリクエスト曲がかかるように、自分の1番好きな歌も乗せて走る。人の聴力が一番最期まで残っている力だと聞いたことがある。私はどんな曲で送られたいだろうか。自分の人生のテーマソング、好きな歌に包まれる感覚はこの上なく心地よいに違いない。
エンジェルカーはどんな色の空の下も似合う。曇天も青空も荒天も、それはきっと人生そのものだから。どんな空の下も生きていかなきゃなんない、生きていく覚悟で走っているのだろうから。

中年の危機

この世界に生まれたばかりの子どもたちとこの世界から旅立つ時が近い老人たちは、実はその境界線への近さは共通している。むしろ、今の世の中で、社会で中心となって働き、経済界で活躍し、生産性を高めているはずの中年の人たちが、実は生死の世界からは遠く離れている。等しく誰にでも訪れるはずの死から最も遠く離れていられる時期を生きている。でも、だからこそ、不慮の事故や病で死の影が横切った時、最も動揺する世代であり、受け入れ難く、耐えられなければ逆に自ら死の方へと近付いてしまう。そう言えば最近ある人のエッセイに、ある時からベランダへと傾斜があるかのように転がっていきそうになり自分を制するのに精一杯だったという文章を読んだ。『けもなれ』で描かれていた電車に飛び込んでしまわないように駅の柱にしがみついてしまう会社員の話も実は笑えない。主人公の探偵も生きながら死んでいるような毎日だった。その人生から彼を救う物語でもあることがこのドラマの魅力のひとつ。

やさぐれてても瞳が綺麗でつい見入ってしまった。あんちゃんの頃から変わらない魅力の江口洋介に魅せられた。
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