痛快ウキウキ通り

それでも、生きてゆくの痛快ウキウキ通りのレビュー・感想・評価

それでも、生きてゆく(2011年製作のドラマ)
5.0
[1話]
生まれないほうが良かったのか
被害者と加害者、その両者の会話で2人の背景、歩みを語らせる。
壮絶ないじめや好奇な目で見られてきたのだろう。上手く話せない、感情を上手く表現できない。過去を悔い抜け殻のような男と、加害者の妹として生きてきた女。
なぜ、悲しい話が存在するのか。
彼彼女らが「それでも、生きてゆく」と心から思える日が来るまで。

[2話]
死にたいと思ったこともなければ、生きたいと思ったこともない。
自ら幸せになることを放棄することがどれだけ切ないことか。いや、本能的に幸せになれないことなのかもしれない。
加害者を持つ妹が何を思い手紙を書いたのか。
「朝日を見ると、生きる希望が湧いてくるのです」
兄を信じたい、嘘であってほしいという心の声が痛い程伝わってくる。その手紙が届くことはないが、どうしても書き留めなければならなかったのだろう。

[3話]
「大丈夫って大丈夫じゃないから大丈夫って言うんじゃないかな」
「誰も教えてくれないもんな、子供が殺された後の生き方なんて」
悲しみが色々な記憶に紐付けられていく。
あの時、こうしていれば。なんであんなことをしたのか。それは呪いのように重くのしかかる。被害者の苦しみ、責任を自分自身に押し付けあう親子。観ていて苦しい場面も多いが、物語の求心力ともいうべきか、観ていて先が気になる展開の連続に感嘆する。すごい。

[4話]
「お父さん、家族を守るために息子を捨てた」
父として現在の幸せを守るために、仕事もプライドも捨てた。辛い。息子と向き合うこと、罪と向き合うこと覚悟はとても難しい。答えのない問題と向き合うことがこの世で1番厄介だ。
「人って逃げてばかりいると命より先に目が死ぬんだよ」
これもまた、胸に突き刺さるような一言。
逃げ出したくなるようなものに向き合う覚悟。確かに尊敬に値する。隠されていた真実が物語を追うごとに明らかになる。別軸としての少年Aパートが別の意味でのスリルをもたらす。

[5話]
「辛いことあるかもしれないですけど、そのうち上手くいきますよ。遠山さん。頑張ってるから」
誰かに優しくされることがこれまでなかったのだろう。そう思うだけで胸が張り裂けそうになる。ほんのちょっとの好意が苦しむ人を救えるのか。これを悪用することは許せないが。
対照的に、被害者に対する好意が心を擦り減らせることも指摘している。当事者同士での間でもあることにましてや、第三者が誰かを非難することや、擁護する際にはある程度の距離が必要だと思う。相手を思いやる気持ちが人を殺すことになる。
毎話毎話結末に新しいサスペンス要素があるので視聴意欲を掻き立てられる。

[6話]
加害者、被害者家族が顔を合わせる。
相手のことを考える想像力が問われる。もちろん自分が1番辛いと思うのが人間なのかもしれないが、他人のことをどれだけ考えられるか。相手の立場に立てるかどうか。それが人間としての強さなのかもしれない。
今回の独白はここでしか見ることができないほど魅力的だ。自分を取り戻そうとする洋貴に対し、当時と変わらない文哉。反省しない犯罪者は生まれた時点で犯罪の気質を持っている先天性なものなのか。環境的要因がそうさせたのか。

[7話]
加害者当人のストーリーが語られる。この回があるかないかでジャンルすら変わってしまうかもしれない。サイコスリラードラマではないので。殺人の衝動が抑えられないことから「自分は生きていてはいけない」とスクワットで自分を制する文哉。実の母親の死が文哉を変えてしまったのだろうと推測できるが、殺人の衝動はそういった環境的要因から生まれたものかもしれない。この回では懲役によって加害者が必ずしも変わるとは語られない。他者の力では変われない、救われない人がいる、というのはリアルだ。

[8話]
加害者家族の終わることのない贖罪、それを目撃した洋貴。死んでしまって全てを楽にしたい。幸せになれることが遠のく。死にたいと言う双葉に対してそんなこと言うなと檄を飛ばす。洋貴は少しずつあの時から動き出している。
自分たちが直接手を加えていないことに対していつまで罪を償わなければならないのか。家族はそれでも家族でいることができるのか。

[9話]
心は大好きだった人からもらえる。人を好きになるとその人から心がもらえる。それが心なんですよね。復讐より大切なものがある。
坂元裕二作品特有の文筆。届かない本音。その思いは本人によってかき消される。

[10話]
希望って何?光って何?
坂元裕二はどこまでも正直だ。世の中には白と黒だけで片付かない問題で溢れている。心を通わせることができない相手もいる。それと同時に朝日に何かを見る2人のシンクロを描く。どこまで救われない人はどうすればいいのか。暴力に身を任せてしまうのか。同じ箱に乗った家族同士どのように歩めば良いのか。悲しい話の続きをどのように描くのか。

[最終話]
ただのデートシーンかこんなにも愛おしく思えてしまうものなのか。
洋貴は文哉を許せない以上に自分のことが許せなかったのだろう。双葉を好きになり、心をもらい初めて自分を許せた。それと対照に双葉は加害者家族としての責任を全うする。
その2人が共に過ごすことはないが、目には見えなくても、声は聞こえなくても繋がっている。
彼、彼女らは「それでも、生きてゆく」