一体この人の作品に何度心を掴まれただろうか。
この人が書く「独り言」は、役者の限界を超えさせる力を持っている。言葉の力がある。
5話の終盤、全てを吐き出した響子の姿が忘れられない。
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亜季が 死んだところに行ってきました。
亜季が 殺されたところに行ってきました。
15年ぶりに 家に帰りました。私たち家族が暮らしてた家です。
12時半になるのを待って、出発しました。
あの日の亜季と、同じ時間に 同じ道、行くことにしました。
小学校のチャイムの音が聴こえてきました。
亜季の友達は、皆どうしてるのかな もう亜季のこと、忘れちゃったかなぁ。怖い思い出なのかなぁ。
そんなこと思いながら、橋渡ると 角にクリーニング屋さんがあって、道が2つに分かれてます。
あの日亜季が行こうとしてた公園はそのどっちからでも行けて、元々亜季はお地蔵さんのある道を通ってたんですけど、あの日は郵便ポストの道を行きました。
お地蔵さんの道は車が多いから、郵便ポストの道を通りなさい
って私が 私が教えたからです。
亜季はその道の途中で、金槌を持った少年に会いました。大きな 木蓮の木が立っていて、ひぐらしが鳴いてました。
...そこに 私の何か 何か...なんか人生の
大きな 落とし穴が見えました。
あれから、15年経って 今の私は、人から見たら、随分と 落ち着いてるように見えるかもしれません。
でも、本当は違うんです。
私 ...みんな 私と同じ目に遭えばいいのにと思って、ずっと 生きてきました。
優しくされると、「あんたに何が分かるの」って思いました。
子供連れた母親見ると、疎ましく思いました。
「前向きに生きよう」って言われると、死にたくなりました。
ごめんなさい。私はずっと、そういう人間です。
...あぁ、あぁ駄目だ駄目だ。人を愛そう、前向きに なろう。
...そう思った5分後に、みんな死ねばいいのにと思ってました。
ごめんなさい。
...... 母親から子ども取ったら、母親じゃなくなるんじゃなくて
人じゃなくなるのかも知れません。
森の中歩きながら、今日私はこのまま死ぬんだろうって、他人事みたいに思ってました。
森の向こうで、地面が青く光ってるのが見えて、
あぁ...あれかぁ、あれかあそこで、亜季はって思った 私走り出してました。あぁ...ごめんね亜季ごめんごめんね亜季 ずっと来なくて、ごめんね...。待ってたね...ずっと たくさん待ってたね...。
...そこで、亜季の夢見ながら 消えていこうって思いました。
夢に出てきたのは
あの少年でした。
私 亜季が何したの?亜季がねぇ亜季がどんな悪いことしたのって、聞いたけど 少年は何も答えてくれなくて、ただ私を見返してました...。
その時、気づきました。
あぁ、この子...この子と私 同じ人間だって。
人を殺めてしまった人だって、あぁ、目覚まさなくちゃって思いました。
このまま死んだら、亜季が悲しむ 亜季に嫌われる。
そう思えたら、初めて
生きようかなって思いました。
亜季の分まで、生きようかなって。
目覚ますと、湖の水で何度も何度も顔洗いました。
昔、亜季が 殺されたとき いろんな人がいろんなこと 言いました。
時代のこととか 教育のこととか。
何か 少年の 心の闇だとか...少年法だとか。
理由を解明すべきだとか言って いろんなことを言いました。
何を言っても今さら時間は戻らないって言いました。
私 何言ってるか分かりませんでした 分からないから、なんだかよく分からないから、私が...私がほっといたから 亜季は...亜季は死んだんだって思うようにしました。
私が道変えたから 私がスカート履かせたから 亜季は死んだんだって...。
そうやって 少年のことは考えずに きました。
だけど だけど。
...そうじゃない そうじゃないの。
私は誰かじゃないから。
私は、
私は新聞の記者の人じゃないから。私は偉い大学の先生じゃないから。
私はただの母親だから 理由なんかどうでもいいの。
私は 私はただのお母さんだから...!!
私が言いたいことはひとつしかないの...。
私が言いたいことは ずっと ひとつしかないの、ないの。
...亜季を返してって。
亜季を返してって 亜季を返してって
私が 言いたいことは ひとつしかなかったの。
私 あの少年に会いに行きます。
会って、亜季 返してもらいます。