クレミ

呪怨:呪いの家のクレミのレビュー・感想・評価

呪怨:呪いの家(2020年製作のドラマ)
4.7
真っ白なちり紙に一滴ずつ黒いインクを落としていき、滲んでいく黒が気付いた時には全てを染め上げていたような感覚。『残穢』をもっと極悪にした感じですね。

そもそもビデオ版1の呪怨は人間のおぞましい業から生まれた怨霊を描いたノワールものだったので、このドラマ版はそこに立ち返り、その要素を極限にまで煮詰めたような印象。

今回のドラマ版では「呪怨」シリーズとして結構思い切った試みを2つしていて、
ひとつが「実際に起こった事件からインスピレーションを受けており、また、実在する事件にも言及している」、
ふたつめが「伽倻子・俊雄が存在しない」。

ひとつめに関しては、呪怨が本来要素として持っていた「人間のおぞましさ、憎悪、恐怖」というものをより深く示唆するために用いたものだろう。誰もが胸を痛めるような恐ろしい事件でも、あの呪いの家に人が住み続けるように時が経てば忘れられ、そして惨劇は繰り返される。呪いの家の本当の恐ろしさは、「テレビで見るどこかの事件」が自分たちの近くで起こり得るものであり、知らぬうちに自分もそこに足を踏み入れてしまうかもしれないというところにある。

ふたつめに関しては前項に近いのだが、「伽倻子」「俊雄」という人間のおぞましさから生まれた呪いを体現する、強力な個人のアイコンをあえて捨てることにより、あの家に染み込んだ呪いが、ひとつひとつの事件,怨念の塗り重ねにより生まれたものであることを強調させているように思う。
従来の呪怨では伽倻子たちがあの家の呪いの根源だったためそれを辿っていく構図となるが、今回ははっきりとした根源は描かれていないため、複数の事件が複雑に絡み合う構成になっている。

この、複数の穢れによって増幅してきた呪いを見せつけられることによって、私達の身近にも呪いが存在しているかのような恐ろしさに襲われる。その恐ろしさは物語を見終えた私達の生活に染みつき、病原菌のようにジワッと、それでいて急速に広がっていく。それが今作の恐ろしさたるものだと思うし、あえて「呪怨」のアイコンを登場させなかった効果であると思う。


ジャンプスケアを用いずとも凄まじい邪悪さで見たものを脅かす素晴らしいホラードラマだったのではないだろうか。ジメッとした陰湿さと、それでいてインパクトのある残忍さは、もう死んでしまったように思えたJホラーの系譜の復活を見たような気がした。

見る際は3時間続けて視聴するのがオススメです。
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