ハル

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまうのハルのレビュー・感想・評価

5.0
坂元裕二の脚本の登場人物はみんな欠けがあって足りなくてさみしい人生を歩いてるのに、あんなに豊かに生きているように見えるのはどうしてだろう。自分の中にある、若しくは誰かの中にあるうつくしいものを大事に大事にして、たとえ躓いてもそれを忘れないように取り零さないように懸命に生きている。ああいうふうに生きたい。あの世界の中で生きたい。練みたいに誰かにあったかく深く優しくありたいし、音ちゃんの薄氷みたいに澄んだ凛とした感性が欲しい。井吹さんみたいに泥まみれ傷だらけになっても向き合うことを選びたいし、木穂ちゃんみたいに孤独を克服したいし、晴太みたいに小夏の素直さに救われたいし、小夏みたいにだれかの一番こんがらがったところをほどいてあげたい。あの世界の住人になってあの世界の言語を話したい。音ちゃんが、「お金は貯まらない。でもわたしには足りてる。わたしには思い出が足りてる。」と言ってた。彼女の無欲さや慎ましさが素晴らしいと言いたいのではなく、彼女のように目に見えなくても自分を支えるものたちを見逃さないで大事にしたい、と思う。彼女は無欲でも慎ましいわけでもないと思うし。ただ、あの生き方がうらやましい。あの世界がうらやましい。ハッピーエンドだからそう見えるのかもしれないけど、でも、坂元裕二のハッピーエンドにはちゃんと続きが見える。これからもまだたくさん躓くけど、それでも希望みたいなものを見つけたり見つけられなかったりしながらなんとか生きていく、これは彼らの人生の一部で、良かったり悪かったりしながらまだ続いてく、ということがわかる。坂元裕二の作品の中ではいつ恋のラストは他と比べるとわかりやすい希望が多いなと思うけど、でもそれがフィクションだと言い切りたくないとも思う。こんな世界でも希望を一生懸命見つけてゆける、と信じたくなる。そんなラストだと思う。
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