岡田拓朗

anoneの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

anone(2018年製作のドラマ)
4.2
私を守ってくれたのは、ニセモノだけだった。

坂元裕二さんらしい個を大事にしながら生き方の指針を伝えてくれるような素敵な脚本でした。
名言の数々は、胸に秘めておきたいものばかり。

大多数のいわゆる世間一般の常識と対比するようにどちらかというとマイノリティな生活の人を描き、上手に受け入れつつ肯定していく。
むしろこんな生活も送ってみたいなと、こんな考え方で生きてみたいなと思わせてくれる。
やはり今作も世界観にどっぷりハマりました。

また、今作は意味ある表現としての対比が印象的だった。
青が孤独で赤が孤独ではなくなること。
ハリカが途中で青いコートから赤い服に着替えられていた。

【1話】
キャッチコピーが、「私を守ってくれたのは、ニセモノだけだった。」とありますが、1話から思ったニセモノとは、自分で作っていた偽りの理想的な幼少期と嘘がない人間関係。

それがハリカを守っているが、それを打ちひしがれようとしている現実と偽りのない猫や風車との対比が、よりハリカの日常の何とも言えない辛さみたいなのを表しているような感じがした。

ニセモノとは、「性善説」なのではないか…理想的な世界と現実世界のギャップの中で、生きる意味を探していくそれぞれを見れるような気がする。

今作は1話から対比として出されているものが非常に多く、対比することで、イメージと現実をうまくリンクさせながら、それぞれをより強く表現しているのと、ハリカ(広瀬すず)にとって、何が拠り所になっているのか、味方だと思えるのか、ひいては生きる意味に繋がっていくのか。

【2〜3話】
居場所がなく寄り添い会える人がいないもの同士が、きっかけはどうあれ話すようになることで、お互いの心が開いていき、楽になっていってるのがわかる。
絶妙な会話劇と広瀬すず、田中裕子の演技と雰囲気がとてもよい。

「人は手に入れたものでなく、手に入らなかったものでできている。」 まるでRADWIMPSの夢番地の歌詞であるかのよう。
手に入れば入るほどにそのことはすぐに忘れて、新しいものが欲しくなる。
勝手に欲しいものを更新していって、それに縛られて生きている。それが人間。

【4話】
世の中の当たり前とか普通とか遅れている常識とか男だから女だからとかこうあるべきとか、そういうのが人を息苦しくさせてるんだよとじわじわと訴えてくるようなメッセージ性を感じる。
めんどくさい世の中の極みが描かれてる感。
そんな中でも受け止め合える空間が少しあるだけで人は生きられる。

【5話】
1000万円を代償にニセモノの家族ができて、あのねさんが孤独じゃなくなって1000万円を持っていたときよりも幸せそうで楽しそうに見える。
世の中お金があれば辛いことを減らせるけど、それでもお金だけが全てじゃないことを感じる。
そういう大事なことをどちらも教えてくれる展開がとてもいい。

また、カルテットのときと同様、一緒に歯磨きすることに特別な意味を感じる!!
それが家族になることを意味しているような…。
家族も自らで選んで作る権利があることをカルテットと同様に主張しようとしているように思える。

そして、ハリカちゃんはとても優しくて純粋で想像力豊かで他の人のために涙を流せる。
それが過去の経験があったからこそともだけどとも言える。

【6話】
基本的にみんながこうだからこうしなさい、それが全部正しいんだからみたいな大前提と空気感が嫌い。

ある程度は統制がないと、それこそ無法地帯になるので仕方がないとは思うけど、不必要に統制しようとしすぎると当たり前や世間一般、常識の範囲が広がりすぎて、少しズレてる人やズレたい人がその中で生きづらくなっていく。
そこでせっかくの個性や自分らしい生き方、考え方が潰れていき、多様性がなくなり、しいては自分で考えて動かないようになる、いわゆる社会の歯車に乗るだけの人が増えていくと思う。
(そんなやや自己中心的ともとられるような考えを持っているので、決まりやルールが多いような組織はやはり合わないと最近より思うようになってきた。)

陽人くんがめっちゃいい子なのに、周囲に溶け込めてないだけで、自分を変な子と思ってしまうシーンは辛かったし、それを特別や個性と言い換えてプラスの意味合いに変える亜乃音さんの言葉は素敵だった。

【7話〜8話】
自分のために生きることが誰かのために生きることになっていたのがハリカちゃん。
世間一般の自分のために生きることが、あのねさんの言ってたことだが、そもそもハリカちゃんは世間一般のそれと今まで触れ合ってなかったがゆえに世間一般の自分のためにを飛び越えて誰かのためが自分のためになってる。
そもそも世間一般的な生き方や常識を知らなくとも、こんなに素敵で優しい人になるという逆説的な訴えでもあるように思えた。

【9話】
大切な人を守るために嫌われる、知らないフリをする。
そこには嘘=偽物があった。

誰かのためにつく嘘なら美しいと言われるが、嘘をついた当の本人とその優しさに気づくことができない受け手側は、大きな辛さが重くのしかかることもある。

ハリカちゃんが彦星くんのことを想って突き放した優しい嘘、亜乃音さんがみんなのことを想って偽札造りの真相を話さない優しい嘘、中世古が陽人くんのことを想って家事の記憶を塗り替えた優しい嘘。
人はそんな優しい嘘に守られながら生きていることが多くある。
優しい嘘の受け手側が、自分のために嘘をついてることを知ることができればいいけど、それをすると行動と結果が変わってしまうからできないのがやはりもどかしい。

9話はなかなかの神回で、中でも広瀬すずと田中裕子さんの演技が光りまくっていた。

【最終回】
当たり前に家族がいて帰る場所があって布団で寝れて誰かと共有できる時間があって…その上で一人でいることを選択できる。
全て整ってるからこそ、一人でいたいとも思えるんだなー。
それだけ余裕があるってことなんだなー。
当たり前すぎて意識してなかったけど、これってすごいことなんだなーと思った。

本物から見放された人は偽物から自分の世界を作っていくしかない。
それが悪いわけじゃない。
むしろ偽物こそが自分にとっての本物になり得ることがある。
疑似家族はいつしか本物の家族になっていた。
メロンパンはメロンに、たい焼きは鯛に、カニカマは蟹に…いつかなったらいいね!

それによくよく考えてみると、ほとんどの事象は偽物から始まるのかもしれない。
偽物に救われることの方が多いのかもしれない。
一人で生きているだけでは決して掴むことができない素敵な偽物がこの世界にはたくさん転がっていて触れてはいるが、偽物であることに気づいていないだけで。
キャッチコピーが終盤を迎えるにつれて、どんどん腑に落ちてくる。

自分のやりたいことがあってそれを追えてるのって普通じゃなくてそれだけで本当に幸せなこと。
生きることすらままならない人がいる世界の中で、今の生活ができていることは特別なことなんだという気持ちで生きたいし、いつそれが壊れるのかもより充実するのかも生き方次第で変わる。
自分でしっかり選んで、取捨選択して、これからも生きていきたい。

そんなことを考えながら、最後の流星群のシーンで余韻に浸っていて、その日はあまり眠れませんでした。笑

P.S.
坂元さん、4年連続1月クールのドラマを書いていたみたいですが、来年はないみたいですね。
とても悲しいけど、坂元さんなりの葛藤もあるんだろうか…。
コアなファンはたくさんいると思いますし、映画や舞台への挑戦もありそうなので、そこを追っていきたいなーと思っています!
岡田拓朗

岡田拓朗