このレビューはネタバレを含みます
今季の『MIU404』を見なかったことへの悔しさから『アンナチュラル』を今見る。
こちらも当時は見なかったものの、すっかりファンになってしまった。
野木亜紀子さんの脚本はやっぱり面白い。
思えばしばらくぶりに連ドラを見ようと思ってTverを使い始めたのも『逃げ恥』がきっかけだ。
これからは野木さんのドラマは絶対見ると心に決める。
小中学生の最盛期はクールのほぼ全てのドラマを網羅し、キャストやスタッフまで把握するほどテレビっ子だったのに、先が読めるようになって飽きるのが早かったのか、だんだん見続けられるドラマが減ってしまった。
(単純に連ドラを見る手段と時間が減ったのも大きいが)
今季?(コロナ以降クールが存在するのかもわからない)は、結局ひとつも連ドラを見なかった。
(わたナギも見逃したし、半沢直樹は1のときから見ていない…)
個人の趣味・趣向の多様化とともにジャンルやテーマは幅広くなっても、全部で10話程度のドラマの展開は昔からのパターンを踏襲しているものがほとんどだ。
見る理由も日常生活のうるおいとか、世間話についていくためとかで、純粋に一作品として見たいという気持ちはあまり湧かない。
もちろん良いドラマはたくさんあるのだけれど、本当に面白いと思える国内ドラマは年に数本の感覚な気がする。
世界的にコンテンツの配信化が進んでいる時代に、何シーズンも続く海外ドラマに匹敵するものを、日本はいつまで経っても作れないのではないかと不安に思ってしまう。
(偉そうなことを言ってますが、海外ドラマくらいハマれる面白い日本のドラマをもっと見たいだけです)
そんな中でも、『アンナチュラル』は国内ドラマとしても、海外で通用し得るドラマとしても、ここ数年の傑作だったと思う。
不自然死究明研究所(Unnatural Death Investigation Laboratory)、通称UDIラボを舞台にした1話完結型の法医学ドラマ。
正直、軽い気持ちで見始めた第1話が一番衝撃的で、評判の良さがすぐに分かった。
第1話「名前のない毒」を振り返ると、
(※ココでがっつりネタバレ注意)
〈第1話の流れ〉
ある男の不自然死
↓
男の浮気相手と噂される女も死亡
↓
毒殺の可能性が浮上
↓
男の恋人に疑いが向けられる
↓
男の死因はMERSコロナウイルス感染
による急性腎不全だと判明
↓
ウイルスを国内へ持ち込んだとして
男が社会的批判を浴びる
↓
実は男は日本の病院内で院内感染し
責任の所在を病院が隠そうとしていた
不自然死の死因究明だけでこの展開はさすがに読めない笑
犯罪モノ、捜査モノは1話完結型だと50分程度の中で、事件発生から解決に至るまでのプロセスが読めてしまうことが多い。
最後はかけ足気味だったけれど、ややこしくなりそうなプロットをきれいにまとめられるのが流石としかいいようがない。
1話の中で、二転三転、四転する複雑なストーリーは海外ドラマっぽさがある。
題材も『CSI:科学捜査班』や『BONES』に近いし需要はありそうだ。
主人公が犯人に捕まって死にかけるなど7、8話くらいに持ってきそうなインパクトのある話を前半に持ってきているのも面白い。早めに見切りをつける今時の視聴者の興味をしっかり惹きつけている。
そして、野木さんは現下の社会情勢や問題意識などの社会派エッセンスの取り入れ方が絶妙だ。
今となってはタイムリーなコロナウイルスが出てくる第1話では、第一感染者に対する世間からのバッシングや、感染拡大への恐れから社会的混乱が生じる。
2年前の時点でこんなにリアルに描けるとは。
UDIラボは架空の機関だが、日本で8年前に実際にあった構想だ。身元不明者を判別するための歯形のデータベース化など現存する社会課題にも触れている。
司法解剖や科学捜査の考証もわりと最新の知識や技術を取り入れていると思う。
第7話「殺人遊戯」で自分の専門分野が科学捜査に応用されていることを知ってちょっと感動した。
次に、日本の犯罪モノや医療モノに良くも悪くもありがちな感情パート。
遺族の報われない思いの吐露や犯人の自供タイム、主人公サイドのやりきれなさ……
など感情に訴えかける部分を勝手にそう呼んでいる。
がっちりストーリーにはまれば相乗効果をもたらすが、気持ちに入れこめないと、うすら寒くなってしまう肝心なパートだ。
『アンナチュラル』の感情パートは一言で言えば、ひたすらエモい。
「死」という取り返しのつかないことが必ずある時点で一定の無常感がある。
それに加えて、死因を究明する過程で浮かび上がるその人が生きていた証を知るとき、現世に残された者にはいろいろな感情が押し寄せてくる。
そして完璧なタイミングで流れてくる
「夢ならばどれほどよかったでしょう」
エモすぎる。
えもいわれぬエモさ。
くだらないダジャレはさておき笑、本当に表現しようのない気持ちに襲われる。
米津玄師のLemonがとにかく染みるのだ。
このドラマを見始めて、改めて良い曲・歌詞だと思い、また聞き返すようになった。
『アンナチュラル』の感情パートで白けた気分になることはなく、毎回涙腺がゆるんでいたように思う。
(ロールケーキ工場の坪倉さんとか切なすぎて……涙)
そして最後に、日常性。
野木さんはUDIラボメンバーの日常を描くのも忘れない。
毎日次から次へと死体が運ばれてくる職場で、UDIラボのメンバーはくだらない冗談を言い合いながら、もぐもぐご飯を食べる。
シリアスな環境に置かれている人が、リラックスした表情を見せると逆に新鮮さを感じる。
現代ドラマではありきたりだけど、地続きの世界で悩みながらも生きる人々を描くのは、たまにすごい励みになるものだ。
視聴者の目線に立つ日常性は、同じ時代の空気を共有している連続ドラマの良さでもある。
ドラマは第1話のロッカールームから始まり、第10話のロッカールームで終わる。
映画っぽい構成も好きだし、三澄ミコトの日常がそこにあり、これからも続いていくという感じがする。
ドラマの余韻に浸り長々と書いてしまったが、まとめると
・二転三転するストーリー展開
・絶妙な社会派エッセンス
・ひたすらエモい感情パート
・視聴者の目線に立った日常性
とにかくバランスがとれていて、素晴らしい作品でした。
毎日少しずつ見ていたから、ここ数日の楽しみがひとつ失われてしまった。
『MIU404』も早く見たい!!!