半兵衛

必殺からくり人 血風編の半兵衛のレビュー・感想・評価

必殺からくり人 血風編(1976年製作のドラマ)
3.7
必殺シリーズの中でも異色の慶応四年(1868年)、新政府軍が鳥羽伏見の戦いに勝利し、江戸まで上っていくところまでの期間の品川を舞台に、殺し屋稼業を営むからくり人の姿を描いたドラマ。

正直言って幕末という舞台設定を巧く生かしているかとそうでもなく、土左衛門(山崎努)という薩摩の隠密でありながらからくり人に参加する二重の闇の生活を送る美味しいキャラクターの設定も無駄になっているところがある。それでも時代の波に翻弄され、歴史の闇に消えていく被害者たちに同情し、悪党を殺していくからくり人たちの姿は「必殺シリーズ」の中でも血のたぎりを感じさせ、見ていて熱くなる。

それを象徴するのが土左衛門の殺し方で、彼は怒りに任せるかのようにターゲットを過剰に刃物で何回も刺して殺したり、一人の敵を銃で何発も撃って殺す。必殺でよく見られる華麗なる殺人術とは無縁のやり口は、非情な世界に身を置いて闇に生きる土左衛門に隠れている人間的感情が垣間見える。

そしてこのドラマのもう一つの見所はからくり人の元締(草笛光子)、土左衛門、直次郎(浜畑賢吉)の三角関係である。元締に助けられ一話から「元締が好き」と宣言する土左衛門に対し、元々元締に思慕の念を抱いていた直次郎は嫉妬するものの、次第にお互いの生きざまを理解し友のようなライバルのような関係になっていく。そこを最も巧く描いているのがこの作品のみ参戦の神代辰巳の脚本で、彼が手掛けた二つの作品の一つ「怒りが火を吹く紅い銃口」はある事件をきっかけに土左衛門と直次郎が仲良くなるまでを、神代作品では『アフリカの光』などで見られる「男同士がイチャイチャする」描写を交えて描いている。山崎努と浜畑賢吉がショーケンや田中邦衛を思わせる演技をしている姿は珍しく、必見である。そしてこの作品の監督を手掛けた工藤栄一が脚本を担当した最終回ではこの三角関係が回収され、大人の恋愛遊戯のシビアな終着点が描かれる。このとき土左衛門が直次郎に最後にした行為は友情を越えた愛情が見えて、大人になればなるほど泣ける。同じく神代辰巳が脚本を手掛け、神代とは親しかった同じ日活出身の蔵原惟繕が手掛けた「死へ走る兄弟の紅い情念」もいつもの必殺とは違う、人間ドラマを展開し必見。
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