長内那由多

ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルーの長内那由多のレビュー・感想・評価

5.0
第1話。
統合失調症の兄を持つ双子の弟、ガンで余命僅かの母、祖父の遺したイタリア語の自伝…家族の宿怨を描く『ブルー・バレンタイン』デレク・シアンフランス監督の演出密度。1人2役のマーク・ラファロが壮絶。たった1話60分でこちらが息切れするほど。

これ、アリ・アスターが演出したら『ヘレディタリー』になるんじゃないか…(メンタルヘルス×家庭不和ホラー)。何が書いてあるかわからないイタリア語の自伝に、悪魔復活よりも怖ろしい秘密が隠されているのではと冷や汗。

久しぶりにジュリエット・ルイスを見た。イタリア語の翻訳を請け負う学者役。歳を取って、エキセントリックで自由奔放な個性は図々しいオバチャンになっていた(かなり笑える)。いい。

第2話。
デレク・シアンフランスの作品は『ブルー・バレンタイン』もそうだったが、主人公と全く同じ体験をしていなくても、必ず心のヒダのどこかに引っかかる。TVシリーズでしか出来ない時間のかけ方で、1シークエンスがいちいち長く、強い。

ここ数年、アメリカの映画やTVにおいてメンタルヘルスは人権問題と同等以上に重大なテーマ。これをホラーに振り切ったのが『ヘレディタリー』や『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』だった。『アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』はドラマだが、「これは呪いだ」と台詞にしている。

家族だけでは支えきれない。自分も同じ状態になるかも知れない。僕のこれまでの人生にあった事と、これから起こるかもしれない事に想いを馳せた。
昔、同じような境遇の人と話した時に「これは家族にしかわからないんですよね。他の人には伝わらないんです」と言われた事を思い出した。

第3話。
壮絶で夢にまで見てしまった。自分の人生を呪う主人公はイモージェン・プーツ扮する恋人を冷酷なまでに無視し続ける。人生に宿命を見出だすシアンフランス演出によって、日常は物語世界のような厳かな奥行きを得ていく。マーク・ラファロは最高作だろう。

『ブルー・バレンタイン』同様、ここでも主人公と妻が出会った若き日の事がフラッシュバックで描かれる。僕は過去や、これまでの人生を振り返ったりはしない性格だが、宿命付けられた物語によって如何に過去が不可分か思い知らされる。

第4話。
とても他人事とは思えない話だから、見るのは覚悟がいる(でもすごく好き)。女優陣がいい。悲痛なイモージェン・プーツ、キャスリン・ハーン。ソーシャルワーカー役は誰かと思えばロージー・オドネル、味のある中年になっていた。

第5話。
第1話から仄めかされてきた祖父の自伝の正体がいよいよ明らかになり始める。血族の呪われたルーツへとシフトしていく演出の厳かな迫力。これまで何度も「呪い」という言葉が出てきたが、ほとんどホラー映画の様相。

完走。
個人的に距離を取れず辛い部分もあったが、エンドクレジットでシアンフランスとラファロが各々の家族に献辞を捧げている事から、彼らも個人史を通じてこの神話的厳かさを持ったナラティヴを獲得した事がわかる。本作も自由意思についての物語であり、自ら選択した先に少しだけ真実がある。
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