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30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしいのkoyaのレビュー・感想・評価

5.0
BL漫画は一切読まない私ですが、ドラマ『女子的生活』の後藤こと町田啓太、映画『思い、思われ、ふり、ふられ』の乾くんこと赤楚衛二主演で、タイトルがコミカルで深夜だし30分だし、録画してみよう、と思ったらこれが当たり!のドラマでした。

BLものというより、一人の自己評価の低い青年、安達が都市伝説と思っていた不思議な能力で人の心が読めてしまい、同期のエリート社員から恋心を抱かれていると知って、驚くけれど、様々な人間関係の中で前を向いていくとてもポジティブなドラマだと思うのです。

特記すべきは、いわゆる美青年同士の恋愛にうっとり、だけでなく実に丁寧な心理描写や台詞が散りばめられていることで、魔法使いになってしまったことで得したこともあるけれど、後半、だんだん安達には疑問が出てきます。

疑問と不安と喜びといつも安達の心は揺れています。
そして、最初は何も知らなかったけれど実は恋心を抱いていると知ったエリート社員、黒沢が見守るだけでなくきちんと恋人として付き合いたい、と気持が変わっていく様子も描かれます。

2人にはいつも戸惑いが伴っていますが、このドラマは「男同士だから」とか「男なのに」という台詞がほとんどありません。

性別うんぬんの前に「人としてきちんと認めてもらえる喜び」を描いたドラマで、とても繊細な描写が毎回続きます。

特に好きなのは第7話。
ハンサムで上司からも得意先からも女子からも大モテで、成績優秀、非の打ちどころのない、安達からしたら「まぶしいばかり」の黒沢の密かな悩み。

周りに気を使って、仕事も努力しているのにいつも言われるのは外見の事ばかり。
女性は外見がいいだけで「好きだ」と言ってくる。「どうして?」と聞き返しても答えられない。
男性からは「取り柄は外見だけなんだから」とひがまれる。

人は見た目が100%の世界に黒沢はもううんざりしているから、安達の素直さや真面目さについ、弱音や愚痴をこぼしてしまう。

今までの「かっこいい男」ドラマでこんな弱気な愚痴を言う主人公がいたでしょうか。
かっこいい主人公は悩みなどなく、かっこいいのが当たり前でなんの疑問も持っていない。観客も「完璧なヒーロー」を求めている。
需要と供給が一致した世界に一石を投じたのがこのドラマだと思います。

確かに黒沢はかっこいい、容姿端麗、仕事はできる、スーツも私服も上品だし、安達が嫌がることは絶対に無理強いしない。いつも気遣って、嫌だろうか?それだったらやらない、しないと謙虚すぎるくらい謙虚です。

安達も魔法の力で黒沢の気持はわかっているのだけれど、いざ告白されると絶句してしまう。地味で嫌な仕事を押し付けられて、ただの都合のいい人から、だんだんと前を向くようになっていく。それはすべて黒沢の優しい気持が後押ししてくれたのだ、と気づいていくあたりも実に丁寧に描いていました。

最初は嫌味なほどできる男、黒沢といじいじした暗い安達が、最後にはなんて素敵な笑顔になるのでしょう。
録画した30分を翌朝、朝食を食べながら見るのが楽しい三か月でした。

黒沢を町田啓太、安達を赤楚衛二にオファーしたプロデューサー、本当にえらい!
そしてこのドラマはスーツ姿のドラマであり、特に黒沢の美しい上品なスーツ姿を毎回見せてくれた衣装さんもえらい!
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