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あのコの夢を見たんです。のtetsuのレビュー・感想・評価

あのコの夢を見たんです。(2020年製作のドラマ)
4.2
バカリズムさん原作の『架空OL日記』が面白く、同じくお笑い芸人・山里亮太さんが原作と聞いたこと、また、ミニシアター系で注目の実力派監督が集まっていると知り、鑑賞。


[概要]

山里亮太さんが、月間テレビ情報誌で掲載していた妄想小説集『あのコの夢を見たんです。』を実写化したオムニバスドラマ。(30分×10話予定)
オープニングは、人気バンド・マカロニえんぴつさんの既存曲(週替わり)と書き下ろし楽曲(6話以降~)。エンディングは山本彩さん。


[感想]

正直、各回の完成度はまちまち。
しかし、オムニバスドラマゆえに、それぞれのエピソードで監督の作家性が感じられる秀逸なドラマ。

個人的には、最近お気に入りになり、携帯で繰り返し聞いていたマカロニえんぴつさんの楽曲が、週替わりで聞けたのも、かなり嬉しかった。


[各話感想]

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第1話
『追いかけたいの!』

[ヒロイン]
中条あやみ

[監督]
枝優花

[あらすじ]
モテまくる日々に飽き飽きし、『振られ屋』というアプリに登録したあやみ。
様々なシチュエーションで振られることに快感を覚え、次第にエスカレートしていく彼女だったが、そこに現れたのは、幼少期に好意を持っていた幼馴染み・亮太で……。

[感想]
まさしく、恋愛版『世にも奇妙な物語』。ストーリーとしては、とても良いけれど、どうしても、お笑い芸人・山里亮太さんの妄想という要素が邪魔をしてしまい、中途半端にネタっぽさが残るラストは、作品として評価するには微妙。
(テラスハウスや他のメディアでの、山ちゃんイメージそのままな面白いオチではあるけれど。)
ただ、枝優花監督が映す中条あやみさんは、とにかくキレイ。それに尽きる。

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第2話
『そして伝説へ…』

[ヒロイン]
芳根京子

[監督]
松本花奈

[あらすじ]
魔王が滅ぼされて30年後の世界。
かつて光の騎士だった男・山里と働くナース・京子は、ひょんなことから、勇者になってしまい……。

[感想]
『勇者ヨシヒコ……』のテレ東らしい、低予算RPG回。ただのオフビートコメディかと思いきや、「現代の若手女性芸能人と大衆の関係性」を比喩したようなストーリーは見事。

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第3話
『透明人間』

[ヒロイン]
森七菜

[監督]
松本花奈

[あらすじ]
存在感が薄く、学校の日陰にいる男子高校生・ヤマ。
「悲劇のヒロインになる」という幼馴染みの女子・七菜の行動に巻き込まれた彼は……。

[感想]
乃木坂46『君の名は希望』の歌詞みたいな主人公の設定には、若干、ひくけれど、太賀さんが演じることで、誰でも好感が持てる好青年になるという不思議。
そして、何といっても、(良い意味で)全く可愛らしさを感じさせない森七菜さんが良い。めちゃくちゃ良い。笑
もはや、井森美幸さんをも彷彿とさせる快活さを振り撒く彼女が、時折見せる優しさがズルい。
心温まるラストも含めて、神回どころか、松本花奈監督作ベストと言っても過言ではないほどの傑作。

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第4話
『その涙のあたたかさは。』

[ヒロイン]
飯豊まりえ

[監督]
枝優花

[あらすじ]
密かに思いを寄せる親友へプロポーズした結果、振られてしまった女子大生・まりえ。
そんな彼女の前に、「後悔をリセットできる」と提案する謎の男が現れる……。

[感想]
太賀さん扮する山ちゃんが、ヒロインと恋仲ではないという新機軸。 笑
アニメ版『時をかける少女』にも通ずる展開が面白い。
ネタ方向に軌道修正しかけるクライマックスは突っ込みたくもなるけれど、エモエモな映像美のおかげで、和製『バタフライエフェクト』風ラブストーリーとして完成されている。めっちゃくちゃ、いい。

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第5話
『フウセンガム』

[ヒロイン]
大原櫻子

[監督]
瀬田なつき

[あらすじ]
都内の会社員・亮太。日頃のストレスを、つい心の内に抱え込んでしまう彼の前に、ある日、謎の女性が現れて……。

[感想]
これまでの回とは大きく異なる不思議な空気に違和感を抱いていると、エンドクレジットで「監督:瀬田なつき」のクレジットが現れて、めちゃくちゃ納得。
なるほど、ラストの赤い風船の既視感は、監督の初期作『あとのまつり』からきてたのか……。

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第6話
『黒帯ちゃんとメガネくん』

[ヒロイン]
山本舞香

[監督]
瀬田なつき

[あらすじ]
孤独な学生生活を送る山里。
帰り道、ふと一目惚れした女性に声をかけた彼は、それがきっかけで彼女に真剣勝負を持ちかけられてしまい……。

[感想]
タイトルから『ヤンキー君とメガネちゃん』パロディかと思いきや、"放課後のヒマつぶし"と語るヒロインの言葉で、実は監督がドラマ『セトウツミ』を繰り返していたことが分かる。
ロケ地の選び方、音楽の使い方、空を飛ぶ飛行機という描写に限りなく監督の作家性を感じるし、『ジオラマボーイ パノラマガール』から2人のキャストが起用されているのも、タイムリーで嬉しかった。
なにげに、特訓シーンで『イップマン』パロディしてるのも遊び心に溢れていて、面白い。

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第7話
『リトルスクールウォーズ』

[ヒロイン]
大友花恋

[監督]
枝優花

[あらすじ]
山迫率いる学校のひがみ集団・闇4。
サッカー部のマネージャーでクラスメイトの人気者・大友を罠に陥れようとする彼らだったが……。

[感想]
他のエピソードが良すぎたために、若干の肩透かし感は否めなかったものの、枝優花監督の新機軸としては、見所のある回だった。
魔性の女的なヒロイン描写(←あくまで主人公たちの思い込みだけどw)や、『花より団子』パロディと思われる"闇4"のメンバーが、本田力さん(『サマータイムマシンブルース』『前田建設ファンタジー営業部』)、古舘佑太郎さん(『アイムクレイジー』『いちごの唄』)、落合モトキさん(出演作多数)と、かなり豪華なのは良かった。
ただ、彼らのバカ騒ぎがイマイチ盛り上がりにかけるのは、監督自身が「カワイイ高校生の青春」を描くほうが得意だからなのかなぁ~と思ったり。
(過去の単発ドラマ『スイーツ食って何が悪い!』も、男子高校生の青春を描いていたものの、演者が若く、かわいらしい描写が多かった。)
今回は演者の年齢が思いのほか高く、撮影期間が限られていたこともあり、かなり苦心した印象は受けたものの、マカロニえんぴつ『ノンシュガー』による幕引きには、ほどよい青春感を抱いたため、今後、監督が男子学生を(演出的に)どのように描いていくのかには、純粋に興味が湧いた。


参考
「あのコの夢を見たんです。」枝優花監督が語る本作の世界観! 「全員がヒヤヒヤしていたので忘れもしない出来事」とは!? | TVガイド|ドラマ、バラエティーを中心としたテレビ番組、エンタメニュースなど情報満載!
https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-489777/

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第8話
『嫉妬の向こう側』

[ヒロイン]
白石聖

[監督]
枝優花

[あらすじ]
部下から慕われるキャリアウーマン・白石。
彼女の悩みは、人に嫉妬したことがないということ。
人への嫉妬を糧に生きている庶務課の男・山里と出会った彼女は、弟子入りを申し込み……。

[感想]
『時をかけるバンド』で最近、注目し始めた白石聖さんヒロイン回。
ここにきて、まさかの枝優花監督の最高傑作が生まれて笑う。
『フウセンガム』回以来の社会人設定のおかげで、コメディからシリアスまで、幅広い演技が出来る白石さんの魅力が存分に発揮されていた。
友人、ノート、先輩後輩の関係など、現実パートの要素がじかに反映された物語や、ヨーロッパ企画の永野さん&あの"アーティスト"の顔見せなど、テンションが上がる出演陣も良かった。
バカバカしい内容ながら、潔いラストに多幸感しかなかった。

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第9話
緊急特別編

[ゲスト]
向井慧(パンサー)、滝沢カレン

[概要]
原作者・山里亮太さんがゲストと共に制作秘話を語る特別番組。

[感想]
当初は予定されていなかった橋本愛さん主演の最終回、その制作の都合からか急遽放送されることになった特別編。
「今期の業界視聴率No.1」と今回の冒頭で言っているだけあって、人気ゆえに話数が追加されたことも想起させられる。
そんな特別編で、とりわけ印象に残ったのは、原作者である山里さんが妻・蒼井優さんへ言及した部分。
交際前に妄想していたエピソードがゴリゴリの格闘ものだったというトークで関係をネタにしつつも、のちの「鞘師里保」回では、脚本執筆の際、助言を与えられていたことを紹介。
ハロプロオタクである妻から、無言のプレッシャーを受けていたことをユーモラスに暴露しつつ、おかげで執筆がかなり捗ったというエピソードには、滲み出る幸せな結婚生活に視聴者であるこちら側もホッコリした。
また、番組の企画として、滝沢カレンさんと考案していた幻の「上白石萌音」回の構想は、かなり暴走気味で爆笑。
ぜひ、シーズン2、もしくは、SPドラマとして実現してほしいところ。

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第10話
『また明日』

[ヒロイン]
鞘師里保

[監督]
枝優花

[あらすじ]
小説家になる夢を諦め、自殺しようとしていた男・山里。
そんな彼の前に現れたのは、一心不乱に踊る不思議系女子・鞘師里保だった……。

[感想]
Tverで『この恋あたためますか』と続けて観ると、仲野太賀さんのあまりの演技幅に笑う。
鞘師里保さんという唯一無二の存在を用いた内容とは対照的に、シリーズの中では最も主人公が落ち着いていたともいえる回。
物語の核となる部分には「大切な人へ届けるための創作活動」というテーマを感じられたが、この内容が奇遇にも同じ週に放送された『この恋あたためますか』第7話に通じているのも興味深かった。
そして、実は、本作そのものが、作者である山里さんが、大切な人へ届けるため、創作した物語のように感じられるのも見所。
というのも、今回は、森七菜回、白石聖回に続く、ドラマ用新規エピソードのひとつ。
とりわけ、ハロプロファンである妻・蒼井優さんの期待を胸に執筆に臨んだとのことで、「ささやかな日常の大切さ」を描写する物語の中には彼女への感謝も感じられた。
主人公が小説を書くという設定も含めてメタ的な部分も多く、一見、落ち着いた内容ではあるものの、シリーズの中では、もっとも心に響く回だった。神回。



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第11話
『闇食い』

[ヒロイン]
池田エライザ

[監督]
大九明子

[あらすじ]
人間の闇を吸収する特殊能力者「闇食い」の一人・エライザ。
彼女のもとに「闇生み」のヤマが現れたことで、事態は思わぬ方向へ……。

[感想]
『勝手にふるえてろ。』の監督で元芸人でもある大九明子さんと、ブサイク芸人1位に選ばれ、ラジオ番組『SCOOL OF ROCK』の"やしろ教頭"としても活動していた元芸人の脚本家・マンボウやしろさんのコンビ回。
そんな組み合わせの作品というだけあって、冒頭から、かなり攻めたお笑い演出が続く。
SWにエヴァ、南海キャンディーズネタと、シーズン中では、最も”よしもと”感のある作品と言えるのかもしれない。(それらのネタが面白いかは別として……。笑)
また、人がバンバン死んでいくブラックな展開や、GoProを使った空中からの撮影、しゃべるインコ、VFXで表現された特殊能力などの演出には、監督の才気がほとばしっていた。
内容を突き詰めると、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』と同じというのが、一番、面白い。笑
広げた風呂敷を、一切、回収できなかった雑な内容には草。

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第12話
『リアル?』

[ヒロイン]
橋本愛

[監督]
大九明子

[あらすじ]
喫茶店で妄想ノートを描き続ける男・山里。
彼は、その原点となった学生時代の思い出を回想する……。

[感想]
主人公の原点を描きつつ、妄想すること(=フィクションを創造すること)の意味を問う、最終回にふさわしい内容。
主人公にとって、都合の良い展開になって以降、ヒロインが「赤メガネ」に変わっているため、この回想自体、「現実」と「妄想」の境界線が曖昧になっているようにも感じた。
また、創作行為を描いた場面では、『映像研には手を出すな!』にも通ずるような「クリエイター」ものとしての楽しさもあった。
正直、単作としてのクオリティは、あまり高いとはいえないものの、クライマックスの橋本愛さんのセリフ「戦う場所に立てたら……」という部分にはグッとくるものがあったし、「現実」と「妄想」の対比を用いた同監督の代表作『勝手にふるえてろ』にも通ずる内容であったため、観る価値は大いにあった。
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