mimitakoyaki

新聞記者のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

新聞記者(2021年製作のドラマ)
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こんな攻めたドラマが忖度と癒着蔓延る日本で作られるとは、まずその事に驚いたし感動しました。
名前は変えてても、モロに安倍政権下で起きた森友問題と、その渦中での公文書改竄事件を真正面から描いていて、フィクションではあるけど、当時の首相だった安倍晋三が国会で言った「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということははっきり申し上げておきたい」をそのまんまドラマ内で言ってましたしね、上からの命令で良心に反して公文書改竄をさせられた国家公務員がそれを苦に自殺したのも全く同じ。

映画版にあったような現実離れした陰謀みたいな事でなく、実際に起きた首相や財務官僚トップが関わった歴史的汚職事件を取り扱い、官邸がメディアや検察とつながり、時に圧力をかけて機能不全にし、情報を操作し、事実を隠蔽、改竄する、こんな民主主義の破壊が公然と行われている今の日本の危機的状況をストレートに訴えかける内容だったのがとても良かったです。

そして、豪華なキャストも話題になってますが、演技も素晴らしく、吉岡秀隆と寺島しのぶは、ほんとに赤木さん夫妻に見えてきたし、総理夫人付だった若手エリート官僚役の綾野剛には最終話で泣かされて、それなりに理想も抱きながら働いてた有能な官僚が、官邸の意向ばかりを聞かされて、行政を歪めた結果、尊い命が失われ、責任の重さと罪悪感に苛まれながら大きな葛藤を抱える、その辛さが刺さるように伝わってきて、演技がとにかく素晴らしかったです。

ただ、スコアが付けられなかったのは、引っかかってしまうところがあり、モヤッとしたものが残ってしまったからです。

というのは、実際の事件で言うところの赤木俊夫さんに当たる役を演じた吉岡秀隆も、自分の信念とはかけ離れた犯罪行為をさせられたその無念さと憤り、恐怖に追い詰められていくのが真に迫っていて素晴らしかったですが、当事者である妻の赤木雅子さんはこの作品を見れるのだろうか、どう思うのかなとそこが気になりました。

また、この作品は、先に作られた東京新聞の望月衣塑子記者の著作が原案の映画のドラマ版で、確かにフィクションですが、これだけ実際の事件や実在の人物をモデルとして扱っている中で、望月記者ではない別の記者の功績までもが主人公がやったことになってるところに、手柄の横取りみたいに感じてしまったんです。

森友問題が国会で取り上げられてた当時、わたしはとても注目していて、当時の佐川理財局長や森友学園の籠池氏の証人喚問など、国会でどうなったかな…と夜のニュースにかじりついてたし、朝日新聞は森友問題でスクープ出してたので、新聞もよく読んでいました。
赤木さんの遺書や文書改竄を指示した人物の名前などを暴露した手記は、初めて文春を買いに行って読み、あまりの無念さに涙が止まりませんでした。

文春に掲載された赤木さんの手記は、大阪日日新聞(当時)の相澤記者が雅子さんとの信頼関係を築いた上で雅子さんから託されたものであることが書かれていたのを覚えています。

米倉涼子演じるドラマの主人公である東都新聞の記者は、社会部の記者でありながら官房長官の会見にいつも出席し、忖度せずに勇敢に追求していて、そんなところはまんま望月記者だったし、きっと、ユースケ・サンタマリアの役がレイプ犯の山口敬之や安倍応援団御用ジャーナリストの田崎史郎、税金を貪り吸い尽くすパソナの竹中平蔵、元内閣参謀参与で時計泥棒の高橋洋一あたりをミックスした人物になってたのと同じように、主人公も望月記者と相澤記者を足した風にしてあるんだろうとは思うのですが、相澤記者のスクープは森友問題の真相を知る上でもとても重要でインパクトも大きかっただけに、ご本人からしたら不本意に思わないかと、そこが気になっています。

つい最近も裁判で国が赤木さんに1億円払って強引に終わらせたばかり。
1億払ってでも真相解明はしたくないという強い意志を感じ、よっぽど都合が悪いんだなと思ったところです。
このドラマは、真相を隠したままのうやむやにしている森友問題をもう一度再燃させ、今の日本の問題を突きつけるだけの威力があって、とても意義が大きかったと思います。

また、日本はこのドラマでも描かれてるように、三権は分立せず独裁色が強まり、どんどん自由が失われていって、政治的発言がしにくかったり政治的テーマを扱いづらい空気に覆われていますが、そんな中でこの作品が作られたこと自体が素晴らしく、製作者や俳優のみなさんをリスペクトします。
これから、もっとこんな作品がつくられ、話題になればいいなと思います。

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