無影

天国と地獄~サイコな2人~の無影のレビュー・感想・評価

天国と地獄~サイコな2人~(2021年製作のドラマ)
3.7
第1話はよく展望も掴めませんでしたが、第2話以降で話の作りが見え始め、第4話ぐらいからは完全にハマってました。最初は刑事に入れ替わった殺人犯が、独自の見識で次々と事件を解決していくお話なのかなと思っていたのですが、そこはさすが森下さんというか、登場人物間に絶妙な緊張関係を持たせ、時には対立させ、時には協力させ、またある時はどのような関係にあるのかすら掴まさないという揺れ動きを、ダレることなく描き切っていました。加えて、主役の綾瀬はるかと高橋一生の入れ替わりの演技が凄まじい。マジで入れ替わってんのかってぐらい、口調や仕草がお互いのままでした。
そして、そういった見事なサスペンスの裏に隠れがちでしたが、本作に伏せられた現実への嘆きも胸に来るものがありました。そもそも、本作の主題の「入れ替わり」も、敵味方理論で”悪”に執拗に応報を加えようとする現代社会への警鐘のようにも思えました。初め、望月は善と悪は二分されるもので、悪は善に挫かれるべきと無条件に信じていました。しかし、日高と入れ替わり、日高の犯行の裏に潜む闇を目撃したことで、自身の人生を賭けても日高に寄り添おうとします。その過程で、望月は善と悪は混然としたものであると気付いたわけですが、そのきっかけとなった「入れ替わり」は、日高と階段から落ちるというひょんなことから起きました。つまり、今は自分が善であると信じて悪を執拗に糾弾している私たちも、思いもよらぬことで悪になることが大いにあり得るのであり、過剰な敵味方理論の信奉は結果として自分たちの首を絞めることになりかねない。本作の背後には、そんな森下さんなりのメッセージも潜められているような気がしました。
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