こたつむり

バスケット・ケースのこたつむりのレビュー・感想・評価

バスケット・ケース(1982年製作の映画)
3.5
♪ 「少年は人の影に歪んだ憎しみを見た」
  そんな世界なんて もう何も見たくないよ
  何も! 何も! 何も!

…カルトや。これがカルト映画やで、節子。

時代を象る作品だと思いました。
確かに表層だけ撫でればB級ホラー映画。“作り物”がよたよたと動く様は80年代という時代を差し置いても、陳腐と言わざるを得ません。現代の目線で捉えたら恐怖は皆無です。

…でも、これが人間を描いた映画やで、節子。

そう。それでも時代を象る作品なのです。
劇場公開されたのは狂気に支配された70年代が終わり、狂騒的な空気が満ちてきた1982年。汚いものや醜いものを隠し、煌びやかな虚飾に塗れた時代でした。

本作でもそれが描かれています。
煌びやかに街を彩るネオン。大金に目がくらむ老人。若者に耽溺する中年女性。そこに垂れ流されたのはドロリとした欲望。グブグブと醜い泡(バブル)が物語を包んでいました。

だから、根底に流れる哀しみが際立つのです。
それは「人間とは何か」という問い。五体満足で経済活動を行うことが重要なのか。それとも、精神的な豊饒さを求めるのか。永遠の命題を突き付けてくるのです。

…だから低予算でも心に残るんやで、節子。

まあ、そんなわけで。
青年が抱えるバスケットケースの中身を描いた物語。それはフランク・ヘネンロッター監督流の“パンドラの箱”だったのかもしれません。本家は箱の底に“希望”が残されていましたが、本作は果たして…。

…希望なんて何処にもないんやで。
…だから続編なんて要らんのや。なあ、節子。

確かに本作は本作で完結した物語。
鑑賞後に続編の存在を知りましたが、この先に何かを続けても…たぶん、本質を見失った“残骸”が転がるだけのような気がします。

というか、節子って誰ですか?
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