垂直落下式サミング

ボーイズ・ドント・クライの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ボーイズ・ドント・クライ(1999年製作の映画)
4.0
ネブラスカ州のリンカーンに住む性同一性障害の主人公ブランドンは、身体は女性だが本人の性自認は男性。男装をしたホモセクシュアルの女性だ。ある日、ブランドンはラナという女性と出会い恋に落ち、女であることをかくして交際をはじめるが、ある事件がきっかけで女性であることが明らかになってしまう。
男装の麗人なんていう言葉がある。トランスジェンダーとかレズビアンの人からしたら、男から麗人なんて言われたってそりゃあ嬉しくないみたいだが、私の目からするとやっぱり彼女たちは中性的で格好よかったりする。
その意味で、本作のヒラリー・スワンクの出で立ちは、私が彼等(彼女等)をみたときに感じる独特のコケティッシュさとは全く異質なもので、女性であることを感じさせない体型や顔つきで、言われなければ童顔な小男にしか見えないし、その仕草や話し方などは見る者にまっすぐで剛毅朴訥な印象を与え、歪みねぇダンディズムとも言うべき男性的な色気に引き付けられる。
彼は、兄が止めるのに夜の町をフラフラしていて、盗みを働いたり、面倒ごとを後回しにしたりと、決してちゃんとした人間ではないが、愛する女性に向ける真剣な眼差しや、生きづらい世界の中で尊厳を守りながら男性として懸命に生きようとする姿をみせられると、どうしても思い入れてみてしてしまう。
後半、ブランドンが、ふたりのならず者ジョンとトムに暴行され犯される場面は、恐い、辛い、許せないという感情と同時に、男の力で上から押さえつけられて抵抗できず、その身に埋めようのない肉体の性差を認識させられてしまう様は、即物的で妙になまなましく、悪趣味かもしれないが見入ってしまった。