たく

母性のたくのレビュー・感想・評価

母性(2022年製作の映画)
3.7
母と娘の愛憎劇を通して母性の本質に迫る話で、母と娘それぞれで事実の捉え方が違うという羅生門スタイルが人の思いの通じにくさを上手く表現してた。スクリーンで久々に見る戸田恵梨香が複雑な思いを抱える役を見事に演じてたのと、何といっても高畑淳子の義母役のなりふり構わぬ怪演が抜群だった。

お嬢様として育ったルミ子の行動の源泉が、無償の愛を注いでくれた母と心が通じることのただ一点にあり、結婚相手さえその作品が自分の感性に合わない母のお気に入りの画家を選ぶ。勝手な想像だけど、もし彼女が自分の感性に素直に従ってたら意外と絵の才能を発揮したんじゃないかな。やがてある事件によってルミ子達が夫の実家で暮らすようになるところから地獄の生活が始まり、夫の存在感がゼロなのが男の弱さを象徴してた。ここで登場する義母の圧倒的な姑感が凄くて、義母を受け入れるため仕打ちを耐えに耐え抜くルミ子と、母への思いが通じない清佳との平行関係が観ていて辛い。

娘を産んだルミ子が母としての自覚を持てないまま暮らしていくという、大人になりきれない親の姿は「泣く子はいねぇが」とか「ある子供」があったね。まず母の視点が示され、続いて娘の視点、最後に両者の視点が交わる構成は「本当の僕を教えて」と同じだった。

母性は本能ではないっていうのは良く話題になる話で、本作では母性は辛い試練を通して後天的に獲得するものという感じに描かれてた。あれだけ心の通じ合わなかった者同士が、最後に穏やかな関係に収まる感じが暖かい余韻を残す。
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