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ハケンアニメ!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
3.2
 園子温への告発が何やら別の監督への告発にも繋がり、映画界全体に暗いムードがラベリングされてしまう昨今の邦画業界の実情をそのままアニメ業界にトレースしたようなギスギスとした内容だ。連続アニメ『サウンドバック奏の石』で念願の監督デビューが決定した斎藤瞳(吉岡里帆)だが、よりによって業界の寵児と持て囃される王子千晴(中村倫也)の裏番組を任されることとなり思案に暮れる。監督と言えどもそれは便宜上の名前だけに過ぎず、実際はこの道うん10年の職人たちを前に簡単に我が儘を通す訳にはいかない。そもそも最低限の想いの共有に必要なキャッチボールが彼女と周りのスタッフの間で足りていないからすぐに険悪な雰囲気になり、監督であるはずの斎藤瞳がただただ病んで行く。彼女のクリエイティビティを率先して守るはずの行城理(柄本佑)でさえも広告・宣伝を優先し、彼女の声に真剣に耳を傾けてはくれない。もはや手塚治虫や富野由悠季、それに宮崎駿らが「作家性」を掲げ、彼らの世界観を1mm足りともずれずに忠実に再現する為にその道のプロが大挙集結する様なアニメ界の黄金時代はもはや過去のことなのだと門外漢ながら実感する。今や深夜アニメ等を例に取ればコアとなる部分以外を外国に外注する例も多く、今作のような国内総生産はあくまで土曜17時のアニメだからこそだと感じる。

 問題は斎藤瞳が初めて手掛けたアニメーションが、映画内映画として描かれることの困難さに尽きる。全12話による『サウンドバック奏の石』というアニメの肝が映画内映画として果たしてどこを切り取れば観客に伝わるのか?その半信半疑のアイデアが残念ながら観客にはほとんど伝わらない。番組制作の困難を盛り込みながら、それと併せて彼女の作る連続アニメ『サウンドバック奏の石』のカタルシスをも伝えながら、更にライバルである王子千晴の『運命戦線リデルライト』のえも言われぬ魅力さえ伝えねばならない。これは素直に言って大変難しく、極めて映画的ではない題材と言わざるを得ない。実際に今作に於いても2つのアニメの魅力が明快に表現されているとは言い難い。その代わり映画は、物語の生みの親である斎藤瞳の苦悩と、王子千晴の才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)との女性としてこの世界を渡り歩くことの苦悩を余すことなく伝える。有科も行城も今や現代のプロデューサーの立ち位置というのは作家たちの最低限のご機嫌を取ることはあっても、残念ながら作家たちの意のままには動かない。これだけ景気の悪い世の中の煽りを受け、スポンサーや放送局の顔色を伺い、ファンにまで阿りながら、昨今のクリエイティブ業界も多数決的な着地点を余儀なくされる。その辺りの悲喜交々は大変だと分かっていても悲しくなる。問題は『ハケンアニメ!』を謳いながらも誰一人その覇権には興味がない映画そのものの結びにあり、ヒーローやヒロインが覇権を捨ててもなお、この世界におそらく構造上残っているであろう「覇権」という名のやりがい搾取が徐々に後退し、不鮮明になって行く点にある。
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