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ハケンアニメ!のTSのレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.0
【好きを貫け】85点
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監督:吉野耕平
製作国:日本
ジャンル:ドラマ
収録時間:128分
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 2022年劇場鑑賞28本目。
 派遣アニメではなく、覇権を争うアニメということです笑 原作未読。評価が高かったので鑑賞しにいきましたが、予想どおりよかったです。お仕事ムービーにはめっぽう弱い。そういえばドキュメンタリー映画にはお仕事ムービーが多いですが、自分がドキュメンタリー映画にもめっぽう弱いのは、こういう人一人の生き様や勤労観を知れるからなのでしょう。自分とは違う世界の環境を知ることは大変有意義です。特にアニメ制作関係というのは多忙であり競争率が激しいというイメージがあるので、今作がどこまでその世界を忠実に再現できているかはわかりませんが、見ていて非常に面白かったです。

 国公立大卒で、県庁で働いていた斎藤は思い切って退職してアニメ制作の道に転じる。面接から7年後、彼女は新人監督として、大物監督と対決しようとしていたのだが。。

 アニメは日本を代表するエンターテイメントであり、アニメ市場の売れ行きは2兆円を超えるのだとか。僕自身はそれ程アニメをみるわけではないのですが、今思えばただ現実世界の動画を撮るよりはるかに大変なものだと思われます。絵コンテから始まり、度重なる打ち合わせをして、さらに音声などを入れてようやく世に出されるアニメ達。30分のアニメを作るだけでも凄まじく大変なことだとわかります。子どもの時、ドラえもんとかよく見ていましたが、なんのありがたみもなく当然のように毎週見ていましたね。むしろ週1なのが遅いと感じるくらい。いやいや、今で言うとあの作業量を一週間くらいでこなしてしまうのだから、最早神の領域とでも言えます。

 同時に監督というポジションのプレッシャーも今作から読み取れました。僕たち鑑賞者はただただそれを見て感想を述べるだけなので良い立場でありますが、監督はその作品の生みの親なので、さまざまなことをしていかなければなりませんし、受け入れなければいけません。例えば電車に一本乗るだけでもまわりを気にしなければならない。良い評判なら良いですが悪いものなら聞きたくないのが人の性。どの環境でも責任者という立場は辛いものです。しかも今作は新人監督の斎藤が、滅茶苦茶人気のある大物監督王子千晴と真っ向から戦う作品なので、斎藤のプレッシャーは凄まじい。また同時にまわりに指示をしていかなければならないので、ここが噛み合わなかったら全てうまくいきません。このあたりの非常に苦労する場面を今作は丁寧に描いてくれています。

 また、売れるためには何でも、というビジネス商法も度々紹介されます。個人的にはあまり好きではないのですが、まずは名を売る、覚えてもらうことからこの業界は始まるのです。なのでアニメ監督といえど、商品の開発や雑誌記事の撮影や打ち合わせにも出向かないといけませんので多忙を極めます。なるほど、よく週刊誌に見える「次回は作者取材のため休載します」はこの多忙度を示しているのか。ただただ机に向かって作品を描き続けるだけというわけにはいかないのか。

 彼女を機械的にサポートする行城というプロデューサーがいますが、僕はこの人がキーパーソンだなと感じました。最初は無愛想で機械的すぎて好かない人でしたが、やはりこういう人間がいるこそ、誰かが成長したり、結果的に会社の利益に繋がっていくのでしょう。長い目でみれば凄まじい人材ということもわかってきます。固すぎるキャラが故に終盤あたりの態度には感動させられました。

 肝心の対決するアニメはちょっとしか映されませんが、制作過程を見ていたら興味も湧きましたし、アニメの部分が多すぎたら鑑賞者も飽きてしまうのでちょうど良かったのではと思います。また、アフレコ現場をここまで見るのは初めてだったので新鮮でした。間違いなく今作においてアフレコ現場で録音している俳優さんたちは、その巧さから本物の声優さんたちでしょう。特に主人公の声を担当する群野葵を、高野麻里佳が演じているのですが、普通に芸能界でもやっていける程美人な人でしたので、自分が知らないだけだったかもしれませんが、もっとデビューしても良いのではとも思ったり。それはともかく、そのあたりのアフレコ現場も知れて面白かったです。

 現代社会の人々は仕事しすぎ。というのはやはり戦後、日本が復興を遂げる中、寝る間も惜しんでせっせと働いた先人たちの影響があるのでしょう。働き続けるのが美徳とされてきた中、近年やはり過労死なども問題になってきているため、この考えは否定されてきています。ただ、やはり今作を見ていたら、どうせ仕事をするのなら楽しくしたいと思えます。特にラストあたりなんて、無理難題ですし定時なんか当たり前に超えるブラック具合なのに、てんで全員諦めない。それどころか必ず凄いものを作ってやるというやる気に満ち溢れています。ここまで見ると、一口にブラック企業と言ってもなあと思えてしまいます。過労働を肯定する気はありませんが、それが好きで仕方なくて貫けるならば、いや、そういう人がいるからこそ社会は成り立っているのだと思います。仕事=嫌なもの と解釈するのはあまりにももったいない。このあたりについても考えさせられた佳作でした。オススメです。
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