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ハケンアニメ!の8637のレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.0
"映画"としては出来の良過ぎない印象があった。人をまとめる立場の全ての人が、良い気持ちになるために観る映画だとすら思った。でも間違いなく情熱はある。そんなアニメを観るきっかけにもなる。彼らは今も一人残らず取り組んでいる。"知っているから見る" "人気だから高評価する"そんな世のサイクルを逆転させる為に。嗤う大人をねじ伏せるような作品を。

自分が映像系エンタメの中で最も敬遠しているアニメがテーマ。だから少しノリづらかったのかもしれない。
一昨日、「映画大好きポンポさん」を観た母が「僕を観ているようだった」と言ってきた。詰まるところ、僕とものづくり映画とはいつでも対峙なのだ。

雨の中の疾走を追いかけるスローや劇場で拍手を貰うカットが撮れた事には意味や価値があるが、もっと"パッション"に振っても良かった。ストーリーも少し読めたところがある。王道すぎたんだろうな。やはり「ポンポさん」の様なアニメの方がものづくりを情熱的に表現できるんだなと再実感する結果に。
そもそもあの業界ってあんなに優しい世界なのだろうか。これはサクセスストーリーの一つに過ぎない。

王子千春ポジションの奴には、何を言っても拍手が起こる。しかし忘れてはいけないのは、どんな暴論を言う人も、作品への情熱を持って言っているんだという事。

残念ながらこの世は、製作者の成功が面白さに比例するような良い世界じゃない。しかし、こんなに命懸けな人がいるアニメを応援してみようとは思えた。リデルライトの最終回とか観客として観てたら大興奮なんだろうなぁ。そう思わせられる魅力がやはり王子監督の手にあった。

エヴァはやはり覇権アニメだったんだろうな...それも、異色さ≒実力で覇権を勝ち取ったアニメ。アニメは時間帯によれば思想をも変えるはずなのに、あんな鬱描写ができたの凄いな。この映画でオマージュがふんだんに為されていたのには驚いた。コンテだけで構成される次回予告の急ピッチさはリアルなんだろうなというのも実感した。

吉岡里帆が"吉岡里帆"を捨てて全身全霊で挑もうとしている姿は高評価。
"客寄せ要因"の声優の言葉と、斎藤監督の成長を感じるワンショットには涙した。
吉野耕平監督の現状の経歴が斎藤監督に重なりつつあるのも面白い。「水曜日が消えた」も良かったし、これからどんどん作品を作って欲しいと思う。

これを観て、ものづくりをしてみたいと思わされるか、自分はその情熱に負けていると思わされるか。才能の"続く"ものづくりができるのは全方面に賢く勘強い人なんだと気付かされ、自分の頭の悪さを自覚した。でもだからこそ、誰か一人にでも刺さり、そこから続かなくても良いほど自分の本望な一作を作り上げたいと思った。自分には勇気がない。一歩踏み出しただけで斎藤監督は賞賛モノだ。

何ならもう、自分には映画を観る才能がない気がした。何を観ても最大級の面白さを感じられなくなった。そんな消費者が現在ごまんといるはずだ。観客は高望みしすぎている。全ての作品に情熱が込められているなら、私たちに貶す権利はないのかもしれないと思った。王子監督は最後「有科さんだけには文句を言う権利がある」と言っていたが、世に届けられた以上、それこそ"ゴミのような"スケールの人々に幾らだって貶されるわけで。

あと、感想投稿キャンペーンの画像を映画が終わってすぐの劇場点灯前に映すのは本当に違う。斎藤監督と同様"次に繋げたい"的なコンセプトは分かるけど、もっと個人としての感想を持つ時間にしたかった。

誰かにとってはきっと魔法以上の勇気になるはずだ。だから自分からは「刺され、誰かの胸に。」としか言いようがないです。
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