かすとり体力

ハケンアニメ!のかすとり体力のレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
3.7
いやぁ、ものづくりって、本当に尊ぇ。
とうてぇ。

そんな気持ちにさせてくれる一作。面白かった。

お話はベタ中のベタな展開を見せてくんだけど、ほんと本作、やるべきことをしっかりと積み重ねていることにより、作品通した完成度がとても高く、満足度も高し!

まず、作中のアニメが本当よく出来ている。
アニメ映画ですらたまーにしか見ないアニメ音痴な私ですが、ちゃんと「非常に革新性の高い」映像表現がなされていることが感じ取れました。
これにより作品の説得力高し。

また、お仕事系映画の醍醐味である、仕事の「超具体」を徹底的に描写するところ、最高過ぎる。「アニメ制作のリアル」についてすごく詳細かつ具体で描かれていて、それを観ているだけで楽しい。特にクリエイティブ系ではない自分の仕事と照らし合わせても、「うわあ、お仕事違えど、人間関係と仕事のバランスの感じとか、リアルだなぁ…」と腹落ち出来るところも多く、この時点で好感。
いやぁ、仕事系映画においては尚更、神は細部に宿りやがる。

役者陣の良さとかは皆さん言及しそうなので割愛するが、最後にもう一点、本作の「困難に立ち向かう際の人間描写の妙」が、昨今の映画らしい、非常に現代的にアップデートされたもので好感が持てた次第。

本作において、明確な敵役というのが設定されておらず、冒頭イヤな印象のキャラも、最後までには確実に「この人はこの人なりに、何かを良くするために足掻いているんだ」という側面が描かれる。つまり「悪役が未設定」なんだよな。

これホント誠実な描き方だと思っていて、昨今の世の中の問題解決において、あらゆるクリアすべき課題は単純な「悪役」とかではなく。
(相変わらず、世の中は脳の情報処理リソースを温存したいので、政治家なり著名人なりを悪役設定して怠けようとするが)むしろ明確な悪役がいる場合、それを社会的に排斥すれば良いので話は簡単で(悪役排斥プロセスはどの社会でも実装されていますし)。

むしろ昨今の世の中が難しいのは、クリアすべき課題は「世の中のVUCA性(複雑性、高度性)そのもの」みたいな、敵が抽象的な概念である点で。

みんなこの概念と闘うために、自分なりのやり方で、自分なりの武器で、一生懸命闘っている。

そのやり方が自分と異なったりしてる相手のことを不快に思ったりしがちだけど、いや待て、同じ目標に向けて闘っている同士なのは間違いない、ここはお互いコミュニケーションを取りながら、同じ方向に向かっていくしかないんだ。と思って頑張っていくしかない、という。

ここら辺の、

「悪役なんか一人もいない。皆んながそれぞれのやり方で足掻いているだけ。そんな中出来るのは、皆んなとお互いに想いを伝え合い、理解し合って、皆の向かう方向を一つに合わせていくことしかないんだ」という、

現代的な困難への立ち向かい方がエンタメ的にもとても上手にお話に落とし込まれているように感じて、すごく好印象だったし、何よりテンション上がりました。

(リデルライトの会社のお偉いさんとかですら、最終的にはそこまで悪く描かれてなかったもんね)


あと、私、人の生き死にではほとんど感動しないんだけど、「大人の覚悟・腹決め」演出では間違いなく泣いちゃうので、本作ラスト周辺のベタ〜な「監督はそれで良いの?…ったく、ホントにもう…さぁやるよ!!」あたりのくだりで涙が…。感動をありがとう…


一点、話の構造的に、KPI的に視聴率と円盤売上数を設定するのはなかなかクリティカルな問題のような気もするけど、それを定量指標で設定しないと「バトルの客観性」を担保できないのは分かるたま、ここら辺、「アート」の難しさについて逆説的に感じる契機となりましたです。。


以上。噂に違わぬ良作でした。
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