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ふたりの女、ひとつの宿命のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ふたりの女、ひとつの宿命(1980年製作の映画)
3.0
[ハンガリー、代理出産と混じり合うアイデンティティ]

1980年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。メーサーロシュ・マールタ長編十作目、初の時代劇。メーサーロシュ・マールタ特集上映配給のライトフィルム様よりご厚意で試写を観せていただく。時は1936年、ユダヤ人のイレーンは不妊に悩む裕福な友人スィルヴィアから、代理母になってほしいと相談される。最初は嫌がるイレーンだったが、やがて覚悟を決めて妊娠する。スィルヴィアの夫で子供の父親アーコシュは裕福なスィルヴィアの実家、そしてそれを相続するスィルヴィアの"子供"に興味があるようで、三人の関係は些細な事で揺れ動く。まるで蝋燭の炎のように。体裁を気にするアーコシュはイレーンを妻として扱い、それを見たスィルヴィアはイレーンと同じ服を着るなどアイデンティティも混ざり始める。そんな三人の背後には、時代とともに吹き荒れるファシズムの嵐が忍び寄ってくるわけだが、それによって地位や人間関係起因の"アイデンティティの混ざり合い"は一瞬にして分離されてしまう。スィルヴィアとアーコシュはいつメンのモノリ・リリとヤン・ノヴィツキが演じているのだが、時系列順にメーサーロシュの作品を観ていくことで、二人の関係性が他の作品で補完されるという奇妙な現象が起こっているのが興味深い。しかし、一本の独立した映画として観た場合、少々短絡的で凡庸と評価せざるをえない。最後に、邦題にナチスとか入れなかったのは評価したい。
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