ミヤザキタケル

冬薔薇のミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

冬薔薇(2022年製作の映画)
3.8
阪本順治監督最新作『冬薔薇』、骨太で力強い良い作品でした。最近ピンとくる作品にあまり出逢えていなかったのだけど、ようやく巡り逢えた。こういう作品との出逢いを僕は待ち望んでいた。

主演の伊藤健太郎くんが現実で起こしてしまった事件の影響で、もしかしたら色眼鏡で見てしまう自分がいるのではないか、否が応でもそっち側に引っ張られてしまうのではないか。観る前までは、そんな不安が正直あった。僕と同じように感じている人、少なからずいるのではないでしょうか。でも、それは不要な心配でした。

まず何より、シンプルに作品世界を信じることができた。それは阪本監督の力、スタッフ陣の力、脇を固めるベテランや若手俳優の力、主演の伊藤くんの力があってこそ成立しているものなのだけど、作品世界を信じられるって、一見当たり前のことのようで、実はとっても難しい。ある程度楽しめる作品であったとしても、ふとした瞬間に「こういう役柄を演じている○○さん」に見えてしまったり、そもそも嘘が多過ぎて信じさせて貰えない作品も多分にある。結局は作り物の世界なのだから、映画は“嘘”でしかないのだけど、その嘘に血肉や熱を宿らせ、嘘を本当かそれ以上の領域にまで押し上げていくからこそ、僕たち観客は胸揺さぶられる。始まりが嘘であればこそ、現実では中々お目にかかれないような光景や感情にだって出逢わせてくれる。そういった意味で、『冬薔薇』は作品世界をしっかりと信じさせてくれる映画だった。

変わりたいのに変われない。何をどう頑張れば良いのか分からない。そんな悶々としたマインドで日々を過ごしていくのは、しんどくてたまらない。そうして、自分を誤魔化し、楽な方へと流され、道に迷い、ただ時間だけが過ぎていく。気付けば、しなくても良いことに時間を割き、しなくちゃいけないことから目を背け、取り返しがつかないところにまで達してしまう。そういった状況にある主人公・淳が抱える葛藤に、自らを重ねたり、若かりし頃の自身を重ねてしまう人、きっと多いのではないでしょうか。

そして、映し出されていくこは若者の姿だけではない。親世代が抱える苦悩も丁寧に描写されているため、子を持つ親世代の方でも大いに引き込まれるものがあると思う。そんな親の姿を目にしていく中で、親にかけた迷惑であったり、感謝の気持ちが込み上げてきたりもすると思う。つまりは、若い世代の方でも、上の世代の方でも、大いに楽しめる作品になっている。

どうしたら人は変わることができるのか。
まだ35年しか生きていない分際で何言ってんだ!と怒られちゃうかもしれませんが、人はそう簡単に変われないと僕は思う。持って生まれた性質、積み重ねてきたもの、染み付いてしまったものetc…。それらを上手く抑制し、時には手放し、常に自らを戒め続け、死ぬ気なって目の前のことに打ち込むだけの覚悟を持てなければ、変わることなんてできやしない。多分。もしくは、ドン底のドン底まで堕ちて、後は這い上がるしかない状態にまで達しないと、人生を変え得る程の一歩は中々踏み出せない。

これらはあくまでも僕の思考や感じ方でしかないけれど、『冬薔薇』という作品の中で目にする人間模様を通して、それらのことにずっと想いを巡らせていた。そういったことを考えさせられてしまうだけの力が、この作品には宿っていた。

公開はまだちょっぴり先ですし、ポスター画像すら解禁されていない状況ですが、今の内から『冬薔薇』チェックしておいてくださいね。心から推すことのできる作品です。是非劇場でご覧ください。