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RRRのtrickenのネタバレレビュー・内容・結末

RRR(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

満点。

自分が映画に求めているもの――具体的には『男たちの挽歌 I&II』や『ゴッドファーザー』三部作を観た後の人生で映画に求め続けてきたもの――が、この一作品の器の上余すことなく盛られている。

(追記)あまりに満点映画で興奮し続けているため、初回で覚えている範囲での梗概を書きだしてしまった。誤っているところもあるかと思いますので、もしみつけたらコメント欄でご指摘ください。品質改善に努めます。(未見者がうっかり読まないようにするため、ネタバレチェックはつけておきます)

1. stoRy:身分の高そうな白人女性が深い森の村で、娘を侍らせて右の手の甲に装飾を施させている。娘は美しい歌を歌いながらその作業を続ける。周囲の大人たちはその娘の様子を不安げに見つめている。やがて軍服を従えた白髭・白髪の軍人男性がやってくる。このあたりで、白人は大英帝国の軍人・支配者層であり、集落の人々はインドのどこかの地方の村であることが察せられる。白人女性はその軍人の妻であろうことがわかる。軍人の妻は「この娘がほしいわ」と英語でいう。娘の母であろう人物は英語がわからないまま、別の何かが欲しいのだろうと誤解して肯定の返事をしてしまう。すると軍人の妻は硬貨数枚を女に向けて乱雑に投げ捨てた後、その娘を自動車に引き入れ、連れて行ってしまう。支払われた硬貨は「奴隷として娘を買う」ためのものだったのだと気づいた母親は狂乱して英国軍人たちの隊列を追うが、兵士の一人に捕まり、拳銃で頭を撃ち抜かれそうになる。そこで白髭の男――英国領インド帝国総督のスコットは、映画中で繰り返されることになる発言をする。「お前が撃とうとしていた銃弾一発は大英帝国から運ばれてきた高価な代物であり、撃ち抜こうとしたこれらインド人どもの命よりも高価である。“そんなモノ”に対して高価な銃弾を消費するな」。この演説を受け取った兵士は、そのあたりの落木を掴んで棍棒とし、女の頭を横ざまに打ち砕く。流血した女は連れてゆかれた娘のことを無念に思いながら気絶する。

スコット・バクストン/英国領インド帝国総督(演:レイ・スティーヴンソン)
キャサリン/スコット総督の妻(演:アリソン・ドゥーディ)
マッリ/さらわれた娘(演:Twinkle Sharma)
マッリの母(演:Ahmareen Anjum)


2. fiRe(Rに炎のエレメント):インドの群衆が暴動を起こしている。総督府の前には長い金網が敷かれているが、暴動の勢いは激しく、今にも倒れそうである。その中から一人の赤いターバンの男が投石を仕掛け、総督府の中の肖像画に命中する。激怒した総督は「誰かあの男を捕まえろ」と命令する。怒れる民衆の怒りを恐れて名乗りあげる者がいない中、インド系の風貌をした精悍な顔つきの男が前に進み、金網を飛び越えて投石した男を追う。男は数百名の群衆に囲まれて圧死しかけるも華麗に多人数を捌いて男を追い詰め、拿捕したまま総督府まで生還してみせる。このような超人的な働きをしたにも関わらず、男は総督府が定期的に組織に報奨を与える3名の中に選ばれなかった。男はラーマといい、「特別捜査官」という役職を得るために名誉を欲しがっていた。
 ところでさらわれた娘マッリのいた村からは娘を取り戻そうとする勢力がいた。総督の部下に進言するインドの地方重役は、「娘は返した方がいい、なぜなら村に強い守り人がいるからだ」と伝えるも、伝えられた事務官は相手にしなかった。

ラーマ・ラージュ:インド出身の謎めいた捜査官(演:ラーム・チャラン)
※英語圏では "Raju" と呼ばれるが、日本語版字幕ではのちのシータおよびラーマ神像との関わりを意識してか「ラーマ」呼びで統一されている。

3. wateR(Rに水のエレメント):深い森の中、鍛え抜かれた体つきをした男が狼を追う。途中、虎に襲われかけるが、すんでのところで虎を網にかけ、眠り薬を当てる。強靱な膂力と薬草に関する豊富な知識を見せつけた男はビームと呼ばれた。彼こそがマッリを取り戻そうとする勢力のリーダーであった。

コムラム・ビーム(偽名「アクタル」):マッリの一族の守り人で村一番の戦士(演:N.T.ラーマ・ラオ Jr.)
(※ビームとマッリの関係が、実際に血縁のある兄妹であるのか、それとも「一族の中での尊称として「兄さん」という呼び方が成立しているのか、その点は作中では読み取りきれなかった。)

4. ビームたちがデリーに潜伏しているかもしれないという情報が流れたことにより、総督府は集会を開き、彼らを生け捕りで捉えたならば「特別捜査官」の地位をその者に渡すと公言する。ラーマはなんとしても“誘拐実行犯”を探そうと躍起になる。一方ビームはムスリム(=イスラム教徒)に扮して名も「アクタル」と変え、仲間と共に機械工やペンキ工として下働きをしながら、総督の屋敷に忍び込む機会を狙っていた。そんな中、燃料を運ぶ蒸気機関車が川上のブリッジで爆発炎上して落下する事故が発生する。その最中、川の中央で遭難している子供がいた。このままでは子供が機関車の落ちる衝撃で即死してしまうだろうことは明白だった。その様子を見たラーマは川下の岸辺にたまたま居合わせた、いかにも屈強でまじめそうな男に向かってジェスチャで作戦を伝える。その男こそが、ラーマの追い求める一味のリーダー、ビームであった。ラーマは馬に、ビームは二輪自動車に乗り、橋上で綱を渡して相互に橋の下に落下し、川下の少年を曲芸めいた手さばきで救出する。最後に二人は慣性のまま橋下の空中で向き合い、固い握手を交わしあう。そこから二人の厚い友情の日々が始まった。

(コメント:ここでモンタージュとして挿入される肩車スクワットが終盤のアクション描写をむりやり正当化する。)


5. ビームは屋敷の中に忍び込むために、屋敷の関係者でインド人にも親切な振る舞いをすることがわかっていた女性「ジェニー」となんとか近づこうとしていた。マッリを取り戻そうとする一味を探す日々を送りながら、その首謀者とは知らずにビームと友情を築きつつあったラーマは、ある日ビームが気にかけていた自動車上の女性を片思いの相手だと思い込み、その自動車にちょっとした罠を仕掛け、きっかけづくりをしてあげる。英語がわからないビームはジェニーとうまくコミュニケーションが取れないが、部族でよく作っていた装飾品のバングルを作ってジェニーに渡し、「これを屋敷の中の娘に」と言伝して渡す。他方でビームはその時ジェニーから御礼として、屋敷で行われるパーティの招待状を受け取る。その後ビームは友人であるラーマにその手紙を見せたところ、「この招待状は今日じゃないか」と彼に衣装を貸し与え、パーティ会場に二人で飛び入り参加する。インド人を軽蔑する英国人の男の一人はビームをからかい、ダンス勝負を仕掛けるが、ビームとラーマは連携してインドのダンス「ナトゥ」で反攻を仕掛け、会場を大いに盛り上げる。素晴らしいダンスに感動したジェニーはビームを総督の屋敷に招待する。ビームはその好意に甘える形で屋敷に忍び込み、ついに目標のマッリとの再会を果たす。マッリに「必ずもう一度助けに来る」と約束してビームは館を後にする。

(コメント:この時の「ナトゥ」のダンスシーン冒頭でラーマがドラムセットを奪って銀盆を叩いて刻んだリスムが、この映画におけるコールサインとして何度も機能することになる。)

ジェニー/総督府に出入りする優しき英国女性(演:オリヴィア・モリス)


6. ラーマはビームの一味のうち人相の割れていた一人をペンキ工場で見つけ、追い詰めて捕らえた後、拷問を仕掛ける。拷問でボロボロになった男はそれでも反撃の機会を諦めず、近くに寄ってきた毒蛇を捕まえてラーマに投げつけ、猛毒に冒させる。ラーマはすべてを諦めた表情になり、男を解放する(※これにより、男は拷問に何かの私情はなく、あくまで使命の為に行っており、本来は義に満ちた人物であることが示唆される)。一方で作戦結構直前であったビームは倒れていたラーマを見つけ(★)、作戦に支障が出る可能性に悩みながらラーマの命を救うことを選び、毒蛇の特効薬を生成し彼を救う。ビームは一命を取り留めつつも寝込むラーマの横で、探し求めていた誘拐実行計画集団の頭目であることを告白してその場を後にする。衝撃を受けたラーマはダメージを受けた身体を起こしてやりきれなさに拳を壁に打ち付け続けた後、覚悟を決めてその場を後にする。

(★倒れている時にラーマがナトゥの時のリズムを刻んでいたことで、ビームが親友の存在に気づく。)


7. スコット総督の騎士叙勲を祝う目的で開かれた典礼の最中、何かの貨物を載せたトラックが総督府の扉から乱入する。中にはビーム自身のほか、虎や大鹿など獰猛な獣たちがおり、総督府内の兵士たちを次々に襲う。ところがそこで猛毒から一命を取り留めたばかりのラーマが制服姿でエントリーし、ビームと対峙する。ラーマは炎のエレメントを、ビームは水のエレメントをそれぞれ背負って、親友同士の裏切られた思いを互いに胸に抱えながら激しく乱闘を繰り広げる。最終的にビームは助けたかった妹のマッリの目の前でラーマに拿捕され、処刑場に送られる。


8. 処刑場でビームは激しい鞭打ち刑を受ける。鞭打ち刑の実行責任者は親友であるはずのラーマであった。さらに処刑の手段は総督の妻キャサリンの残酷極まりない提案によってトゲ付きの鞭に置き換えられ、現場には血の川が形成される。ところがそんな一連仕打ちに対してさえビームは一切膝を折らず、屈しなかった。そんなビームの高貴な姿(、そして作中で“本当に”歌っているとしていたかどうかは判断し難いが、ビームが自らを奮い立たせるために行っていたとも解釈できる歌唱)に勇気づけられ、怒りを解き放った現地の民衆は暴動を起こした。予期せぬ民衆の暴動により、処刑は中止される。その夜、ビームの血が成した血の川を指で擦って何かを思うラーマの姿があった。彼はついに「特別捜査官」の地位を得て、武器庫の管理を任されることになる。この武器庫こそ、ラーマがこの職務において成し遂げたいものごとに関連するものだった。

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9. ラーマの過去が語られる。ラーマの父は大英帝国に反乱を企てる村のリーダーであり、村人全員に銃撃を含めた戦闘訓練を施していた。その中でもラーマは優れた射手として成長した。しかしある日、村は英国軍の歩兵部隊の襲撃を受け、ラーマの母が銃撃で死亡する。そしてほどなく、一人で徹底抗戦を続けた父も英国軍の銃弾に倒れた。父の側に寄り添って弾薬補給を手伝っていたラーマは、父の指示を受けて反撃を開始、そして爆弾を身体に巻き付けた父が歩兵部隊のリーダーの面前に来たところで父ごと爆弾を狙い撃ち、歩兵部隊を壊滅させる。やがて成長したラーマは、未来を誓い合った幼馴染のシータを置いて、父との約束である「村人全員に武器を配れ」という遺志を実行するため、村の外へ船で出発するのだった。

シータ/ラーマの幼馴染で婚約者:アーリア・バット


10. ビームの処刑の日が迫っていた。ラーマは親友ビームを裏切りはしたが、使命を果たしつつある今、このタイミングで友人の命を救えないかと計画を考えていた。(何よりラーマは、処刑場で拷問に耐え抜くビームが民衆の心を動かしたことを目の当たりにして、「もしかしたら、我々一人ひとりが持つ武器とは、銃以外のものでもありうるのではないか?」という信念に目覚めつつあった。)ラーマは総督スコットに処刑場の変更を伝え、処刑に参加する兵士のライフルすべてに細工を施して処刑日を迎える。ラーマの部下がビームの載る車に小さなカミソリを押し込んだおかげで、ビームは自力で縄を解くことができたが、監視していた歩兵部隊に囲まれる。だがその時ラーマの細工が発動して全員の銃は不発に終わり、ビームは歩兵部隊をなぎ倒す。同時刻、ラーマはスコット総督が連れていたマッリを引き連れて処刑場へと連れて行こうとするが、すんでのところで彼の裏切りに気づいたスコット提督が罠を回避し、ラーマの計画を邪魔する。ビームは裏切ったラーマと相対してラーマを殺す機会を得るが、彼を殺さずマッリと共に草原の向こうへ逃げ去る。かつての親友に殺されずに済んだラーマだったが、結果としてラーマは総督に捕らえられてしまう。


11. ビームの処刑を阻止し、マッリも逃したことにより、ラーマは総督府で苛烈な拷問を受け、死刑の日を待つのみとなっていた。一方、とある街で英国軍に追跡され追い詰められていたビーム一行は、捜索の手が伸びる中、偶然に合わせた美しい女性の機転により命を救われる。その女性こそ、ラーマの帰りを4年間待ち続けていた彼の許嫁シータであった。彼女の口からラーマの計画と、親友を裏切らねば計画を実行できない苦しみについて聞かされたビームは号泣し、「真の親友」を救わねばとデリーへと引き返す。

(コメント:このへん、『マッドマックス 怒りのデスロード』終盤っぽいですよね)


12. ジェニーの助けを借りる形で総督府の敷地内に忍び込んだビームは地面にある複数の独房の中から、“あのリズム”を刻むことでラーマと連絡を取り合い、彼を見つけ出す。独房の鉄格子を腕力で強引にこじ開けたビームは、足を怪我したラーマの足となるべく肩車をする。二人は肩車をしたままの状態で追手を打ち払い、物見台まで駆け上がって敷地から脱出する。ビームは森の中まで親友を連れてきた後、ラーマ像の前で祈る。そこで彼はそのラーマ像に衣服と弓矢とが、人間にもそのまま使える状態で保存されていることに気づく。ビームは何を思ったかわからないが、倒れて眠るラーマの額に、ラーマ神像と同じ朱を縦に塗りつける。


13. 最後の戦闘シーン。ビームは池の前で水を飲みかけていた時に追手の銃撃に襲われかける。その時、ラーマ像から弓矢を借り受けて、まるで叙事詩ラーマヤナに歌われるラーマ神の化身となったラーマが矢を打ち放ち、次々に英国軍を撃退する。池の中に緊急回避して潜り込んだビームもその反攻に加わり、槍とバイクとで次々に敵を屠っていく。さらにラーマは倒れた英国兵士から奪った榴弾を矢に括り付けて森の中を火の海に沈め、さらには提督府の敷地内にも榴弾矢を打ち込み、爆薬庫を爆破させる。その爆撃で総督婦人は死亡し、総督自身も致命傷を負った。ビームとラーマは総督の目の前に立ち、そしてラーマはビームにライフル1丁を渡す。そして父が遺した言葉「銃弾は英国人を撃ち抜くために使え」という言葉を発し、ビームにスコット提督を撃つ役目を譲る。二人は再び親友として信頼しあうことで、銃弾の値段よりインド人の命のほうが安いと言ってはばからない大英帝国に対して「否」を突きつけたのだった。

14. ラーマは武器庫から銃と弾薬を獲得し、ビームも妹のマッリを故郷へ連れ戻した。二人は別れ際に再度友情を確かめ合う。ラーマは親友に対して「何か望むことはないか」と尋ねる。ビームは「〔読み書きを含む〕教育を受けたい」と親友に頼んだのだった。

(余談:マッリの母さんがラストシーンで生きていることがわかって、「えっ、あの仕打ちを受けて生きてたの!?」ってびっくりしますよね?)
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