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RRRのambiorixのレビュー・感想・評価

RRR(2022年製作の映画)
4.8
クソ映画やヘンテコな映画に心を動かされた時にはだいたい長ったらしい感想をタラタラタラタラ書くんだけど、これに関してはもう「めちゃくちゃ面白いからみんなも見てね」としか言いようがない(笑)。現時点での年間ベストワンはまあ当然として、ことによるとオールタイムベストのテンにも食い込んでくるんじゃないかいうぐらいの衝撃を受けました。
監督は『バーフバリ』シリーズなどでおなじみのS・S・ラージャマウリですが、ひとつ前の『バーフバリ』は週刊少年ジャンプ漫画の真っ当な映像化、ってな感じのケレン味あふれるトンデモアクションやVFXを楽しみつつもそこまでハマれなかったんですね。そのうえ本作『RRR』は舞台が1920年、イギリス統治下のインドということで、イチからでっちあげた神話の中ならまだしも、実際のインド史を下敷きにした物語世界でもってくだんのアクションを展開するのはさすがに食い合わせが悪くないか…と危惧しておったんですが、まったくの杞憂でした。むしろ、物理法則や人間の肉体の限界を超越したツッコミどころ満載のはちゃめちゃな動きを繰り広げながらも、映画的なリアリズムにだけは妙に忠実とでもいうのか、「現実だったら絶対にありえないんだけどこの世界の中でならまあ許せるよね」みたいな、その辺の説得力が『バーフバリ』と比べてもすごいんですよね。観客の予想のはるか斜め上をいくアイデアの引き出しも今回格段に増えた気がします。
と、いろいろ書いてきましたけど、お話のほうはいたってシンプル。イギリスの総督夫婦にさらわれた妹を奪還せんと素性を隠してデリーに乗り込んでくる部族の男ビームの物語と、警察官としてイギリスの犬に甘んじながらも胸に一物秘めているらしいラーマの物語。この2本のメインプロットにラブロマンスやらホモソーシャルな友情の育み合い〜からの裏切りやらインド映画にはおなじみのミュージカル要素やらをまぶして味付けした構成で、加えてここにぶっ飛んだアクションシーンが乗っかるわけですけど、いやもうとにかく上映開始から終了まで見せ場、見せ場、見せ場のクライマックスつるべ打ち。尺が3時間弱あるにもかかわらず、1秒たりとも退屈しない。このラージャマウリという監督は、観客の気持ちよさのツボみたいなものを徹底的に研究し尽くしていて、日本の漫画アニメ的なキメの構図や歌舞伎的なミエの美学にはじまり、スローモーション、緩急抜群の編集、モチーフの対比(火と水)、アクション(手を繋ぐ動作)やフレーズ(「Load, Aim, Shoot!」)の執拗な反復、契りひもや首飾りといった小物の使い方…などなど持てるテクニックを総動員してくる。一見めちゃくちゃやっているようでいてその実、シーンとシーンの間、画面の隅から隅にいたるまでのあらゆる部分が計算され尽くしている。先述したアクション描写における説得力の源泉もこのあたりにあるのかもしれませんが、そのことをこれ見よがしにひけらかしたりしないところがステキ。数ある名シーンの中でも個人的なお気に入りはビームがイギリス総督の屋敷の庭にトラ🐯やヒョウ🐆を放って突っ込むくだり。彼らがトラックから飛び降りてくるところを前から横からとらえたショットのカッコ良さは本作の白眉やと思います。ポスターにして飾りたい🤩
そして、ここの箇所は好みが分かれるところかもしれないけれども、敵方のイギリスを一方的にかつ類型的な悪役として描いていたり、女性のエンパワメントが描かれてなかったり、ポリコレ的な配慮に欠けていたり(白人に虐げられる黒人とインド人とが音楽を通して連帯し合うさりげないながらも感動的なくだりはあったけど…)、あとは社会批評的なメッセージが入ってなかったりとかね。まー要するに、観客がエンタメを享受する上でノイズになりかねないような要素、皮肉めかして言えば昨今の映画に無くてはならない要素をばっさりと切り捨てていて、これはイマドキのハリウッドのアメコミ映画やなんかとはハッキリ対照的ですよね。ムキムキマッチョのむっさいおっさん同士の友情や、逆境にも決して負けない不屈の男、みたいな、ともすれば時代遅れなテーマを羞じらいや照れの気持ちを微塵も交えずにストレートに描き切ってしまえる、その潔さ。ぼくはどっちかっていうとアメコミ映画よりも本作の側に立ちたいですが、そうそう、復讐の思想を全面的に肯定しとるところも最近ではなかなか珍しいんじゃないかと思いました。自分の国で好き勝手やられてンだからそりゃ当たり前ダロウとは思うんだけど、日本の刑事ドラマなんかによくある「あいつを殺しても天国の親父さんは喜ばないぞ」みたいな説教くささがいっさいないのね。敵と定めた相手を情け容赦なくぶっ殺してくれる。こういう迷いのなさが見ていて本当に気持ちいいんだよな。
アクション、歌、ダンス、友情、ロマンス、全部入ってます。確かに完璧な作品ではないかもしれないけれども、そんな一分の隙すら愛おしい、みごとなエンタテインメント映画です。今のところ興行面では苦戦しているらしいし、ぼくが行った回も正直あんまり入ってませんでしたが、絶対に埋もれちゃいけない大傑作だと思うのでみんなも見に行ってください!!!
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