ろく的アジア国際映画祭④=インド=
「見たぜ。兄弟!」
「やっと見たか。お前は天邪鬼だからどうも流行りのものは見ないからね。面白かっただろ」
「うん、ただあまりに善悪が明確に分かれすぎてない?これでは見ている方も何も考えないんだけど」
「いやそういう映画だからいいんだよ。そもそもこの映画は歌舞伎なんだよ。歌舞伎は善悪が明確じゃん。そこに複雑な人間関係なんかないの。悪い奴は皆殺しだ。それでいいじゃない。そもそもお前が好きなタランティーノだって同じじゃないの」
「いやそれはそうなんだけど。でもあまりに歴史的に一方的じゃない。これじゃ見ている方も誤謬があるんじゃないかしらん」
「いやいや、そもそも帝国主義ってのは極悪なんだから。弱い奴が悪い奴を告発して何が悪いんだよ!それは弱いものの特権だよ」
「いやそんな簡単に考えていいのかしらん。あんな悪、そうそういないはずだし、自分の正しさのためにはみんな殺してしまえってのはちょっと怖いんじゃない」
「だ・か・ら帝国主義なんだからそれでいいんだよ。そもそもイギリスだって帝国主義の時は自国の綿製品を売るためにインド人の綿職人の腕を次々に切断するっていう極悪なことやってたんだから」
「それ西部邁が言っていたやつでしょ。でもあれイギリスのことを悪く言うために流布したデマだって噂も……」
「お前は細かいな。そんなことどうでもいいじゃないか!だってこれはエンタメなんだから。スカッとしたじゃん、イギリス人が皆死んで。それでいいんだよ。アクションだって最高だっただろ」
「確かにアクションは最高だし。でもたまにCGがインチキ臭くない?河のとこで子供助けるシーンなんか後ろの炎がどう見てもコントだったんだけど」
「そのコントは想像力で補えばいいんだよ。細かいな、お前は。だからシネフィルって言われてしまうんだよ」
「でもなぁ、それにあのイギリス提督の姪の立ち位置もよく解らないんだけど。おじさんあんな目にあったのにちょっとあって好きになった男を許すどころか笑顔だぜ。お前は肉親殺されて笑顔なのかよって突っ込みたい」
「そこは勢いでいいじゃない。全く。ダンスだって愉しいだろ。歌だっていいじゃないか」
「いや確かにナートゥのダンスは最高だった。あれは俺も文句なし。でも他はいかにもインド映画だし、踊りがあまりないのも寂しい。もっと踊ってほしかったのは正直なとこなんだけど」
「最後の踊りで許してあげろよ。みんな愉快に笑っているじゃないか。何も考えないで映画観て楽しかったね、また明日も頑張ろうねってそれがインド映画なんだよ」
「それは確かにそうかもね。こんな映画は大きな声だして映画館で手を叩いてみたくなることはたしか。映画が僕らのストレス解消ならこれでいいんだけどね。ただあまりに何も考えていないんじゃないのって文句も出ちゃう。歴史を描くんだからそれこそ誠実にならなければいけないんじゃないかなぁ」
「いやわかった口ぶりを。歴史を学びたければそもそも映画じゃダメなんだよ。これはきっかけでいいんだ。これでインドの現状や帝国主義への反省をほんの数パーセントでも考える人がいればそれでいいじゃない。映画はやはり映画なんだからそのきっかけで十分なんだよ」
「たしかに。そうだね。そう考えたらまたあのダンス見たくなっちゃった。そうだ一緒に踊ろうぜ、兄弟!」
「おうさ!兄弟!」
というわけで少しだけ納得してないけど見ている時だけは断然に面白かった。いいんだよな、これで(ほんとか)。「ムトゥ」もそうだけど、映画の一つの役割であるアトラクションがこの映画にはあるんだよと思ったよ。
※ほんとにナートゥのダンスは最高に楽しかった。あのダンスは二度見てしまったよ。あれだけでもいいかもしれない。ただしCGの虎には少し苦笑している自分がいます。
※いつも思うことだけどインドのイケメンは髭マッチョしかいないのだろうかと思う(マリオマッチョと密かに名づけている)。日本映画のような痩せている奴はインドではモテないのではないかと再確認。インドに行ったら飯を大量に食べて筋肉を鍛えて(ついでに髭も伸ばして)マリオマッチョになろう。
※面白ければプロパガンダでもいいのかという思いはたまにあります。でもね、北斗の拳の雑魚モヒカンにも母親がいるんです。