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ダイ・ハードのtjZeroのレビュー・感想・評価

ダイ・ハード(1988年製作の映画)
5.0
この映画って、好きな人はメチャメチャ支持してるけど、そうじゃない大半は「あ~アレね」と半笑いでバカにしがちなのが悔しいので、改めてその良さをアピールしたくなりました。

アクション・シーンのすばらしさは一目瞭然なので、ここでは各キャラクターの関係性や”キャラ立ち”の魅力について述べたいと思います。

まず特筆すべきは、テロリスト集団のリーダー、ハンス・グルーバー役のアラン・リックマンです。
英国演劇界出身の彼は、朗々としたセリフ回しと舞台映えする大ぶりな演技が特徴的。
人質にした日系社長に「ミスター・タカアギ!」と呼びかけ、大げさな身ぶり手ぶりをまじえ、シェイクスピアの長台詞を聴かせるように、犯行目的や計画を淀みなく披露するシーンなどはまさに真骨頂。

対照的なのが、非番の刑事ジョン・マクレーン役のブルース・ウィリス。
アメリカのTVドラマ出身の彼は、隣のアンチャン(またはオッサン)って感じの気さくで自然体の演技。

なのでこの両者、演技スタイルが全くの水と油。
同じ画面に収まっていても、空気感が違う。違和感がある。
まるで、歌舞伎座と浅草演芸場が異空間で無理やりつながっちゃったかのよう。
そのスタイルの違いが、犯罪を介さなければ決して出会わなかったであろう両者の役柄にクッキリと反映され、強烈な対立軸を形作っています。お見事です。

その他の脇役たちも、異彩を放ってますよ~。
悪役と正義側とに分けて、スポットを当ててみましょう。

《悪役側》
● 最強メンバーのカールを演じるアレクサンダー・ゴドノフは、元バレエ・ダンサーの出自を活かし、長い手足を使ったスクリーン映えするアクションを見せてくれます。
● その弟トニー役のアンドレアス・ウィスニエフスキーは、最初に殺される”ザコ・キャラ”扱いなんですが、カールの血筋が納得の迫力ある肉弾戦をマクレーンとくり広げます。また、弟の仇を討つ、というカールの怒りの導火線に点火する役割で、クライマックスのマクレーンv.s.カールの大バトルの盛り上げにも一役買っています。
● ほとんどセリフの無いアジア系のユーリ役のアル・レオンですが、記憶にはハッキリと刻まれます。銃撃戦の直前に、売店のガラスケースからチョコバーをとり出して、ムシャムシャと食べるお茶目な姿を思い出すかたも多いでしょう。

《正義側》
〇 巡査部長パウエル役のレジナルド・ヴェルジョンソンは、マクレーンとの”見えない友情”や過去のトラウマを乗り越える様が感動的です。
〇 ロバート・デヴィとグランド・L・ブッシュが扮するふたりのFBI捜査官は、共に名字がジョンソンで製薬会社みたい(ジョンソン&ジョンソン)なので、役名がスッと頭に入ってきます。ヘリコプターに乗りこんだ両者の、「ヴェトナム戦争を思い出すなあ」「オレはまだ産まれてねえよ」という漫才みたいな掛け合いも楽しい。
〇 マヌケな言動連発のロビンソン警視役のポール・グリーソンも、前述したヘリの墜落場面では「替わりのFBIが要るな」という爆笑寸前の鋭い一言を発したりするので侮れず、忘れがたいキャラのひとりです。

…この他にも、マクレーンの妻子、家政婦、リムジンの運転手、TVレポーターに至るまで、すべてのキャラクターに意味と見せ場があり、要所要所に機雷のように伏線が仕掛けられてもいるので、見逃すヒマがありません。
だから、カットも出来ません。しちゃいけない。
TVの2時間枠(実質95分)でしか本作に接していなければ、評価が低いのも仕方ありません。
ぜひ、フル・ヴァージョンの130分の至福を味わってもらいたいものです。

そして、本作の面白さの肝として、エンタメの古典であり、王道でもある西部劇をベースにしていることも大きい。
すなわち、ウエスタンの舞台である横に広がった町を、縦に90度傾けて高層ビルにしたのが本作の主戦場なのです。

物語を西部劇モードに変換してみましょうか。
「日系移民(タカギ)が成功を収めた西部の町(ナカトミ・ビル)を、欧州とアジア混成の悪党団(テロリストたち)が占拠してしまった。
巻きこまれた流れ者のガンマン(マクレーン)は、地元の保安官(警察)や派遣のレンジャー(FBI)らと協力して立ち向かう」…となります。

だからこそ、マクレーンの「(B級西部劇スターの)ロイ・ロジャースが好きだった」という独白や、ハンスに「グレース・ケリーを助けるジョン・ウェイン気どりか?」とからかわれた時に「それは(『真昼の決闘』の)ゲーリー・クーパーだろ!」と切り返すセリフがバッチリ決まるのです。

こうした隙のない脚本に、上下左右の立体感を活かしたアクションが炸裂するのですから、鬼に金棒です。
やっぱり、満点☆☆☆☆☆はゆずれません(笑)。
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